修羅場な空気
それから一週間後柊と夏海は風雷館を訪れた。その館は山中にあり辿り着くには吊り橋を渡るしかない。館の風貌は中世の城と見間違えるようだった。館の左右には巨大な風神と雷神の仏像が立っている。国宝級だろうと柊は疑った。
館内に入ると女性が出迎えた。
「探偵の方ですね。私尾形家の執事高野美咲と申します。瞳様はお忙しいのでリビングルームでお寛ぎください」
執事の女はリビングルームに案内した。廊下の壁には鬼の仮面が飾ってある。だが廊下は洋風だった。和と洋が融合した異様な館だという印象を夏海は受けた。
すると美咲がドアを開けた。
「ここがリビングルームになります」
その部屋の中には四人の男女がいた。二人の男はテーブルの上で麻雀の準備をしている。
「雷助兄さん。今日の麻雀の面子はどうしますか」
黄色いニット帽をかぶった男は答える。
「そうだな」
雷助は美咲に声をかけた。
「美咲さん。一緒に麻雀をやらないか」
「晩餐会の後でいいなら。それまで探偵さんの相手をしないといけないので」
柊は耳打ちをする。
「彼らは誰でしょう」
「黄色いニット帽をかぶっている人は次男の尾形雷助さん。その前にいる肥満気味な人は三男の尾形翔さんです」
夏海はソファーに座っている若いカップルを見る。
「颯君。今日はこんなきれいな別荘に呼んでくれてありがとう」
「今日は母さんに会わせておきたかったから呼んだ。婚約者もいるが俺は君を愛している」
この男と女は堂々とキスをする。バカップルだと夏海は思った。夏海が美咲の顔を見ると目が怒っているようだった。
すると美咲が若い男に近づいた。
「まったくそんな女と恋愛なんてして。尾形風馬さんが生きていたら怒っているでしょうね。まあ婚約者の私も怒っていますが。源洋子。後で話をしましょう」
まるで昼ドラのような修羅場が柊の目の前で起きている。それに無関心の兄弟というのもおかしい。
修羅場にやってきたことを柊たちは後悔した。
それから十分後リビングルームに尾形瞳が現れた。
「柊さん。お待たせしました。仕事が入っていましたので。それで素行調査の結果はどうですか」
「DNA鑑定の結果から彼女は尾形風馬の娘と判断されました」
「そうですか」
瞳はため息を吐く。聞き耳を立てていた尾形翔は麻雀パイを床に叩きつける。
「あの泥棒猫が風馬兄さんの娘なら遺産の取り分が減るじゃないか」
尾形雷助は怒る弟を白い目で見る。
「会社の経営に失敗して借金しているらしいな。残念だ。これで借金返済されると思ったのに」
雷助の一言を聞き美咲と洋子は彼を睨みつける。それを見て雷助は笑った。
「おいおい。お前らも遺産目当てだったのか。こっちは遺産を放棄しても生活できるくらい金が余っているから怖い。欲望がある人間がな」