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犯人の16年間 後編

 急な頼みを看護師は了承して、車いすを用意した。看護師は彼女を高野隆の病室に連れてきた。

ベッドの上にいる高野は葵を見つけると微笑んだ。

「よかった」

 


 高野の怪我は葵の怪我よりもひどかった。そこまでして助けた理由が彼女には分からない。

「なんで私を助けたのですか」

「同じ境遇だと思ったから。目で分かるんだ。会社をリストラされて途方に暮れている女性だってことがね。勘みたいなものさ」

「あなたは全治五か月の重傷を負ったのですよ。私を助けなかったらあなたは・・」

 


 高野は事情を話す。

「私はある会社の社長だった人間だ。だが今日会社は倒産した。おかげで娘は尾形一族の執事になった。そういう賭けだったからな」

「尾形一族って尾形風馬のいるあの尾形一族ですか」

「ああ。そうだ」

「偶然って怖いですね。私は尾形風馬の浮気相手の子供です。このことを恨んで生きてきました」

 


 偶然彼女は尾形一族の関係者に出会った。それから一生懸命リハビリを続けて二週間で退院した。その間彼女は欠かさず高野隆の病室を訪れた。

 そこで彼女は高野一族の裏事情を知った。

 次男の尾形雷助は尾形瞳と浮気をしていること。尾形風馬の息子尾形颯には婚約者で隆の娘高野美咲と彼女の源洋子は三角関係だということ。三男の尾形翔は隆と同じように借金があること。さらに風雷館には国宝級の財宝が眠っていること。さらに隆は風雷館の見取り図まで見せた。

 


 退院の日彼女は考え直した。

「復讐を止めて隆さんを助けよう。国宝級の財宝なら売れば大金が手に入るはず。それをもとに会社を再建すればいい」

 

 こうして彼女は容疑者全員の動機を把握して完全犯罪を狙おうとした。あえて何回か館を訪れていなければ実行不可能なトリックを仕掛けておけば初めて訪れた自分は容疑者から外れることができる。さらに残った容疑者には全員に動機がある。この状況なら殺し合いが始まってもおかしくはないだろう。

 



 柊は葵に確認する。

「そのために二人を殺害か」

「はい。尾形一族は修羅場だから二人殺せば殺し合いが始まって安心して財宝を売れると考えた。でも殺人犯は私だけだった。でも残念。あなたたち尾形一族が血も涙もない一族で名探偵さんもいなかったら完全犯罪だったのに」

 葵は大粒の涙を流した。こうして洋館を舞台にした連続殺人事件は幕を閉じた。


 一週間後柊と夏海は尾形翔のインタビューをテレビで見ていた。

『尾形翔さん。一週間前に発見された財宝を国に寄付したのはなぜでしょう』

『あの財宝の中にはかつて石川五右衛門が盗んだとされる仏像が含まれていました。窃盗の時効はすでに成立していますが、歴史的な価値はお金で評価できないでしょう。誰の物なのかが分からない財宝を返すためには国に寄付するしかありません』

 


 夏海は呟く。

「国に寄付か。その方が国のためになります」

 柊は新聞を広げる。

「どうやら高野隆さんの会社の経営が立ち直ったそうだ。それで千葉葵も獄中で喜ぶだろう」

 夏海はテレビを切り、コーヒーを淹れる。

「もう殺人事件の捜査なんてやりたくありません」

「何回かやることになるかもな」

 

 そう言って柊は切り抜いた新聞記事を額に入れて飾った。

『名探偵 財宝絡みの連続殺人事件を解決』

 この新聞記事で依頼が増えると思ったが、そんなに増えることはなかった。

 一世を風靡した探偵の地味な調査活動は今も続いている。


 原作者山本正純です。風雷館財宝殺人事件。いかがだったでしょうか。

 

 今作は混沌とした世界の中でシリーズと差別化を図った作品というコンセプトで執筆しました。そのため今までの作品とは雰囲気が異なる作品となりました。

 

 ネタバレしない程度にまとめると、主人公が探偵である点。最後まで誰が犯人なのかが分からないようにするために容疑者たち全員に明確な動機を持たせた点。最後に犯人が動機を語る場面は過去を回想する形で描いた点。

 

 もっとあるかもしれませんが、一番の違いは今作がミステリ重視の作品だということでしょうか。単純に誰が殺したのかを描いた推理小説を書いてみたくなったのでミステリ重視になりました。混沌とした世界の中でシリーズよりスケールが小さい事件にはなりましたが。あちらはテロ組織の暗躍や政界の不祥事などどちらかといえばサスペンスよりかな。

 

 R15指定にした理由は教育上よくない描写があったからです。主に犯人の動機を描いた回想シーンですが、どうせやるならもっとR15指定の描写を増やそうと考え該当箇所を増量しました。

 

 最後に当初は三男である尾形翔という人物は存在しませんでした。尾形雷助の妻を登場させる予定でしたが、彼女を登場させると残った容疑者が全員女になってしまう。それだとおもしろくないと感じた私は次男の妻を三男に変更しました。

 

 それでは次回作である混沌とした世界の中でシリーズ第十弾連載一周年記念超大作『警察不信』をご期待ください。

 

 あの禁じ手があったにも関わらずここまで読んでくださった読者様に感謝しつつ筆を置こうと思います。

 R15指定が楽しくなってきた。そういう年頃なのか。


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