誰が二人を殺したのか 前編
その言葉を待っていたかのように葵と夏海以外の四人は階段を上り始めた。まるで競争をするかのように。
幻の三階にはたしかに黄金の仏像が飾ってあった。他にも国宝級の仏像が多数発見された。
幻とされた財宝が見つかり彼らは喜んだ。その喜びもつかの間だった。柊がいきなり推理を話し始めたのだ。
「みなさん。喜んでいるところをすみません。そろそろ謎解きを始める。誰が今夜二人の人間を殺したのか。それが今やっと分かった」
翔は納得しない。
「白旗を振っただろう。今更誰が殺したのかなんて聞きたくない」
「そうよ。今は宝が見つかったことを喜ぼう」
柊は謝罪する。
「すまない。捜査を断念したのは犯人を導き出すための罠だ。敵を欺くにはまず味方から。おかげで犯人が誰なのかがはっきりした。まずは第一の殺人事件。犯人はどうやって雷助さんの両腕だけを狙ってオイル塗れの状態にしたのか。その答えは第二の事件に隠されていました」
「ボウガンだ。犯人はボウガンの矢にオイルを塗って雷助さんの両腕を狙い撃ちしたんだ」
尾形翔の推理を聞き柊は首を横に振る。
「そうではない。第二の事件に隠された第一の事件のトリックを解き明かす鍵は、狙い撃ちだった。第二の事件の時犯人は颯さんの体を毒矢で命中させて殺害した。その状況が第一の殺人事件のトリックを暗示していた。犯人はオイルを詰めることができるように改造した水鉄砲で雷助さんの両腕を狙い撃った。そうすれば両腕だけを狙ってオイル塗れにすることも可能」
柊は深呼吸してから犯人の名前を指摘する。
「今夜二人の人間を殺害して、千葉葵の左足を負傷させた犯人はあなただ。千葉葵」
美咲たちはこの真相に驚く。
「ちょっと待って。この犯行は何回かこの館に来たことがないとできないんじゃなかった。だとしたら彼女に犯行は不可能よ。だって彼女は今日初めてこの館に来たのだから。トリックに無理がある」
柊は千葉葵の顔を見る。
「たしかに洋子さんの言うようにこの事件のトリックはどれもこの館に何回か来ていないとできないトリックばかりだ。だから最初彼女を容疑者から外した。だが第三の事件で葵さんが左足を負傷した時に確信した。犯人はあなたしかいないとね」
美咲たちは柊の話を理解できず首をひねる。そこで夏海は翔に質問した。
「翔さん。あなたが殺人犯で私を殺そうと思いナイフで襲ったとします。どこを狙いますか」
「それは心臓でしょう。心臓を一突きすれば確実に殺せるから」
翔はあることに気が付いた。
「そういうことか」
「ふつうは翔さんの言うように心臓を狙うでしょう。それなのに犯人は左足を狙った。それに颯さんを殺した時のように毒も塗られていなかった。毒が塗ってあったなら誰も疑わなかっただろう。そこで考えた。犯人がなぜ左足を狙ったのかを。そこで翔さんから聞いた高野隆さんが女性を助けて交通事故に遭った話を思い出した。その時にひらめいた。もしかしたら隆さんが助けた女性があなたではないかと」