古文書の暗号と開かずの間
完全に事件の捜査をあきらめたという印象を夏海は受けた。
「本当にこれでよかったのか」
翔は捜査断念が嘘だと思いリビングルームに戻ってきた柊に質問する。
「犯人がどうやって矢を発射したのか分かったのか」
柊は首を横に振る。完全に呆れた夏海は推理を話そうとする。だが柊は夏海を睨みつける。
「もう刑事ごっこは終わりだ。警察が来るまで宝探しでもしよう。皆さんも協力した方がいい。もしかしたら今夜財宝が開かされるかもしれない」
翔はそれを聞き笑った。
「あなたは第二の事件のトリックを一瞬で見抜いた。それほどのひらめきがあれば本当に財宝を発見できるかもしれない。だから俺は探偵さんに協力する」
借金返済のためだろうと周囲は疑った。たしかに柊のひらめきはすばらしいとここにいる全員は評価した。だが捜査を断念した探偵を信用していいのか。
もしかしたらこれが現実の探偵なのかもしれない。フィクションの探偵はどんな謎も見破る名探偵が多い。だが現実世界でそれをやろうとすると限界がある。その限界という壁に突撃してしまったから柊は捜査を断念したのだろう。
周囲の人々は悩んだ。なぜいきなり捜査を断念したのかが分からないからだ。ただの迷探偵に宝探しを依頼していいのか。
すると瞳がクローゼットから古文書を取り出して柊が座っている机の上に置いた。
「柊さんを信じる。このなかで彼の捜査能力を二番目に理解できるのは私しかいないから」
たったの一週間で千葉葵の素行調査を行った柊を瞳は評価していた。さらに第二の事件のトリックを見破ったとき彼女は確信した。
この迷探偵なら財宝を見つけることができるだろうと。
古文書には一言しか書かれておらず、一部が虫に食われたようだった。
『雷神の○○を鎮めし者よ。○○の扉を進め』
意味が理解できず悩んでいると葵が柊に話しかけた。
「そういえば三年前に病死した母がよく呟いていました。風と雷と合わせろと」
葵の証言でも謎は解けない。今度は美咲がこの館の見取り図を見せた。
「怪しいのは開かずの間でしょう。あそこに財宝が眠っていると考えた方が自然です」
美咲は雷助の隣の部屋を指差した。翔も美咲の推理に頷く。
「トレジャーハンターも同じことを言った。だが鍵はどこにもなかった。復元も不可能だそうだ」
一気に殺人事件から宝探しに頭を切り替えたことに洋子は納得しなかった。
「ちょっと待って。まだ颯君と雷助さんを殺した犯人が野放しになっているのにのんきに宝探しなんてできるわけがないじゃない。そんなにあなたたちは血も涙もないのですか」
洋子の叫びは届くことがなかった。
「もういい。好きにしたら」