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聖戦記  作者: 桂木 京
序章:聖王の眠り

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2/2

物語の始まり

聖王ジークハルト、崩御。


大陸全土を統治し、かりそめの平和を維持していた大帝国の主の死は、瞬く間に風に乗って各地へと伝播した。


帝都陥落――。


その衝撃は、大陸の絶妙なパワーバランスを根底から打ち砕いた。

中心を失った天秤は激しく揺れ、各地に配されていた諸国の均衡は、音を立てて崩れ去ったのである。


ある国は野心を剥き出しにして軍備を整え、ある国の外交官は生き残りを懸けて密使として走り回った。

満足な戦力を持たぬ弱小国は、民の命を秤にかけ、少しでも慈悲深い条件を提示する強国の属国へとその身をやつしていった。


平和の象徴であった街道は遮断され、あらゆる国境には険峻な関所と、天を突くような防壁が築かれた。

昨日まで隣人であった者たちは、今日からは警戒すべき「他国人」へと成り果てたのだ。


同盟、友好、誓約……。 かつて交わされた美しい言葉の数々は、帝国という巨大な重石を失った今、色褪せた羊皮紙の上の染みも同然。

国家間の繋がりは蜘蛛の糸よりも脆く、希薄なものへと成り下がっていた。


そして、ついに火蓋は切られた。


北の凍てつく大国・ノースグランド王国が、隣接するエリシャ自治州への侵攻を開始。

この小さな火種は爆ぜるように燃え広がり、瞬く間に大陸全土を焼き尽くす大戦へと変貌を遂げた。


これは、神話の時代の終焉。

吹き荒れる戦火の中で、もがき、抗い、時に愛し合った「人間」たちの、長く険しい足跡の物語である。

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