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隠匿の狐狗狸さん〜殺人結果の探偵殺人〜  作者: 人鳥迂回


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こっくりさん(3)

「うう……。人が思ったよりも多くて怖い……。そう言えばみんなと同じ時間に登校したことなんて無かった……」


 個室トイレで一人、籠もりながら呻いている結果。

 結果が居るのは万丈高校の二階にある女子トイレ。

 中学の時も他の生徒が登校する時間とずらし、学校に忍び込むように通っていた結果は、朝の通学ラッシュに巻き込まれたことで猫上よりも窶れていた。


「まだ登校してから数分しか経っていないのに帰りたいよ……。四季……たすけて……」


 頼みの綱を幾ら引き寄せても、四季は結果の家から出られない。都合よく学校のトイレに現れる訳が無かった。

 その事を分かっていても一人きりで不安になった結果の頼ることができる相手は四季だけなのだ。

 お守りのように握りしめたスマホに向かって結果は語りかける。今の時間は授業中であり、トイレには結果以外の人間はいない。人がいたら息を潜めて自分の存在を消すことに徹底していただろう。


『頑張ってください。結果ちゃんがやるって言ったんですから』


 結果が持つスマホの画面には、四季の姿が映っていた。

 家から出ることができない四季も、スマホの通話使えば結果と会話ができる。

 妖怪は幽霊と違って実体のある超常現象のため、スマホのカメラに映るのだ。


「学校なんて数年ぶりだし、緊張してお腹が痛いよ」

『登校だけ乗り切ってしまえば後は大丈夫ですよ。ちょっと調べて体調が悪いふりをして帰ってしまえばいいんです』


 電話口から聞こえる四季の声は呆れが混じっていた。啖呵を切って出かけた結果が、環境に耐えられず、動けなくなることを分かっていたのだ。


『本当に無理そうなら袋小路さんをそちらに向かわせますので』

「やるって決めたのは私だし頑張るけど。本当に無理そうならお願いするかも」

『通話は繋いでいて良いですから頑張りましょうね』

 当然ながら結果は万丈高校の生徒ではないし、学校に入れるコネを持っているわけでもない。


 何故結果が万丈高校に居るか、という質問の答え単純である。――制服を来て正門から入り忍び込んだのだ。



 時は昨日に戻り、四季に頼み事をした場面。


「コスプレ、ですか?」

「そうそう。万丈高校に通う女子高生のコスプレをしたいの」


 いきなりコスプレをしたいと言われた四季は理解をする事に時間がかかったが、その後の結果の言葉で伝えたいことを察した。

 四季の脳裏に一瞬だけ浮かんだのは自身の持つコスプレコレクションを結果が着た姿。何度か結果をコスプレに誘ってみたものの、興味が無かったり恥ずかしがったりで異世界人形にすることは叶わなかった。そんな結果がコスプレをしたいと言い出したからこそ、四季は混乱してしまったのだ。

 蓋を開ければ調査のために必要な手段を取っているだけだった。


「もしかして高校に忍び込んで調査をしようとしてるんですか?」

「猫上くんが誰かと関わるなら学校くらいしかないでしょ?無差別に誰かを殺そうとする相手ならどうしようもないけど、そんな人は呪いなんて不確かなものに頼らない。多分だけど猫上くんに呪いを掛けている人は近くにいると思うんだよね」


 結果の推理は猫上が近くの人間に狙われているというもの。猫上から話を聞いた限り、生活範囲内で他者と親密に関わる事は無く、学校が人間関係の大部分を占めている。

 調査をする時はある程度目標を絞ってから行動に移すことを結果は心がけており、今回も例に漏れず、学校の調査に絞って進めていくことにした。

 結果の勘によって進んでいく調査だが、当然外れることもある。外れた事により選択肢が消え、別の選択肢に取り掛かりやすくなるという利点もあった。全ての物事を同時に行おうとすると全てが中途半端に終わってしまい調査が進展しない。


「猫上様に呪いを掛けている人を探るために学校へ行くんですね」

「受けた依頼を解決しないとね」

「言い難いのですが、結果ちゃんは学校に行けますか?」

「どういうこと?」


 愛玩動物を可愛がる笑みから一転し、結果の事を心配している四季。

 結果は引きこもり生活をしており、外出するタイミングも調査の時しかない。仕事という建前がある以上、他の事を二の次にできる。しかし学校へ行くとなれば話は代わり、人と接触せずとも人の集団が収まっている場所へ行かなければならないのだ。

 四季には結果に学校へ行くことができるとは微塵も思ってはいなかった。


「言い難いって前置きしたのにはっきりと言ってくれるね」

 侮られて心外だったのか、頬を膨らませる姿は貯食行動をとるリスに見える。四季が結果の膨らんだ頬を指先でつつくと、膨らんだ頬は萎み、口から小さく息が漏れた。

「家に依頼で来た猫上様にすらパニックになっていたではありませんか。学校は不特定多数の人間がいる空間。結果ちゃんが耐えられるとは思いません」

「仕事だよ仕事。舐めないでもらいたいものだね」

「不安すぎます。私は付いて行けないんですよ?袋小路さんを呼びますか?」


 普段の結果を知っている四季からすれば、何故結果が自信満々なのかが分からない。

 猫上と二人きりになった瞬間、パニックになり四季が座敷わらしだと暴露してしまう人間が自身の思い描く結末に到れると考えられるのか。

 長年生きた妖怪でも人間の心の内は理解ができない。


「袋小路さんがいたらみんなが緊張しちゃって聞き出せないでしょ」

「行く目的を明確にしてください。調査のためと言っていますが、何を調査するためなのかを」


 定まった目標があれば、達成したときに直ぐに帰宅をすることができるだろう。多数の目的を設定してしまえば結果がドツボにはまっていくのが目に見えていた。


「授業時間にでも猫上くんの周囲を観察。犬飼くんの事も見ておきたいな。その機会に黒い靄を出している人間が居ないかも見ておきたい。強めの呪いを掛けている人に黒い靄が出る傾向事が多いし、猫上くんのクラスにそういう人がいたら多分犯人」

「猫上様のクラスを確認する、と言うことでいいですね」

「もー。四季ってば心配しすぎだよ。私ももうすぐ成人になる位の年齢。この程度の調査なら完璧に熟してみせるよ。呪殺事件も華麗に解決したしね。四季は制服の準備をしてくれればいいからさ」

「制服を用意することは簡単です。早ければ明日にでも着ていけますよ」

「それじゃ明日から調査しちゃおうかな。猫上くんのタイムリミットもあるだろうし」


 四季の側から意気揚々と立ち上がり、結果は机へと向かう。現実を見ずに理想の中の自分に期待をして、明日の行動を考えているのだ。

 四季の予想では結果の思い通りに事を運ぶことができない可能性が確実に高く思えていた。調子に乗っている結果は必ずと言っていいほど空回りをし、家に帰ってきてから自身の行動を顧みて落ち込む。

 部屋の主に聞こえないよう、小さく息を吐いた四季は、結果が学校から帰ってきた時の慰め方を今から考えるのだった。

 


 高校のトイレの中で一人悩み続けている結果は、四季と通話を繋ぎながら作戦会議をしていた。

 前日の夜に自身が立てた結果は手鼻から挫かれ、新たに考え直す必要が出来たのだ。


「ど、どうしよう四季。このままじゃ猫上くんのクラスまで行けないよ」


 動揺し、パニックになっている結果を落ち着けようと普段よりもゆっくりと聞こえやすい声で活舌よくハキハキと喋る四季。

 話す速度が一定で、メトロノームのようにリズムを刻む話し方は段々と結果の心拍を落ち着けていく。

『猫上様のクラスは2年A組ですよね。結果ちゃんがいるお手洗いからA組までの距離はどれくらいですか?』

 結果から話題を出すのではなく、四季の質問に結果が答える形を作る。なるべく結果の思考に余計なものを挟ませないようにする四季の配慮だった。

 今の結果は不安から考えなくてもいいことを必死に考えていた。本来の目的である猫上に呪いをかけた対象を探す以前の問題で躓いており、トイレから出るだけでもタイミングや人の気配に意識を割いている。

 だからこそ結果の思考を呪いに集中させるため、四季は淡々と途切れることなく結果に話しかける。


「めっちゃ近いよ。目と鼻の先」

『お手洗いを出て教室の前を移動しながら黒い靄が出ている生徒が居ないかどうかだけ確認しては如何でしょう』

「休み時間に入る前ならみんなが教室にいるから出来るかも。授業中に廊下を歩いている生徒がいたら目立っちゃうと思うけど」

『結果ちゃんが今後関わるような人は殆どいませんし、一時的な恥ずかしさを感じるだけですよ』


 四季の言葉を受け、結果が必要以上に畏れていたことを実感していた。

 得体のしれない、実体もないものを恐れていたのだ。

 自身に向けられる周囲の目、期待に応えることのできない自分自身。他者から向けられる拒絶の目を勝手に妄想し、一人で殻に籠もっていた。

 今の結果は学校にも行っておらず、一期一会ともいえる依頼者との関わりだけで生活をしている。

 家に帰れば妖怪である白沢四季が待っており、心を許せる安心をする空間がある。

 必要以上に人を恐れ、行動をしないよりは、素早く動いて自分の城に戻ることを優先しようと意識を改めた。


「落ち着いてきた。ありがとね四季」

『それなら何よりです』

「授業が終わる前に確認をしておきたい、通話は繋げててもいい?会話はできないけど」

『大丈夫ですよ。帰ってきた時のためにご飯でも用意しておきますよ』


 結果は通話画面を開きながらスマホの画面で現在時間を確認する。

 登校時間ギリギリに学校に到着し、直ぐにトイレに篭ったこともあってホームルームの時間にトイレへと来る生徒は居なかった。十分位すれば一時間目の授業が始まる時刻になる。

 トイレどころか廊下に出る生徒もいなくなることで結果が自由に動けるようになり、調査を行うことができるだろう。


「教室では黒い靄確認する。居なかったら帰る。それで行こうと思う」

『無理をしない程度に頑張りましょう』

「最悪の場合は袋小路さんに頼めばいいよね。私も袋小路さんがいれば安心するし」

『聞いた所によるとあの人は事件の遭遇率が高いことで有名らしいですよ。結果ちゃんと一緒にいるから』

「私に来る依頼は死にかかわる呪いの依頼ばかりだからね。危険性もあるし袋小路さんに付いてきて貰っていればそうなるのも仕方がないね」


 人の死が直接関わってこない依頼は、依頼者が切羽詰まっていることはなく結果に話が回ってこない。生死に関わる依頼のほうが依頼金を高く取れることもあって四季の選別が厳しいことも理由のひとつだ。

 猫上からの依頼も、終焉へと向かうにつれて袋小路へ同行を頼む可能性が高くなっていく。

 猫上に現れた赤い線は猫上が大きな被害を受けるまでのカウントダウン。猫上を死に追いやろうとする呪いをかけた対象を結果が暴けば、探偵殺人として相手を殺すことになる。その時には袋小路にサポートを頼むため、情報共有をする必要もあり、早めに連絡をしておこうと結果は考えている。

 そのためにも最低限の情報は集めて置かなければならないと気持ちを引き締め直す。

 結果が調査を行うためのスタート合図のように一時間目の始まりを告げるチャイムが校内に響く。

 ホームルームから一時間目の間に響いていたであろう生徒たちの喧騒は静まり、静寂の中で教師が教えを施す時間が始まる。


「よし。そろそろ動きださなきゃね」


 幸いにも結果が潜んでいるトイレには誰一人として来ることはなく、結果の集中が途切れることはなかった。


『頑張りましょう』


 結果は座っていた便座から立ち上がり、トイレの扉を開ける。息が詰まる思いでトイレに入った時とは比べものにならないほど視界がクリアで世界がはっきりと見えていた。

 自室から出ていくようにトイレから一歩ずつ足を進め、廊下へと踏み出した。

 トイレの目の前には階段があり、左右には長く続いている廊下が見える。公立の学校である万丈高校は生徒数が多く、クラスの数も多い。

 猫上のいるA組は階段の真横にあり、結果にとっては都合が良かった。階段を移動しながら確認するつもりだったが、後ろの扉の窓から中を見ることができる作りになっているため、柱の陰から教室をのぞくことにした。

 教室内を覗くと、黒板の前には教師が立っており、教科書を広げて何かを説明している。黒板に書かれた数式から数学の授業であることが分かる。椅子に座る生徒は机と向き合っており、授業に集中していることが教室外からでも分かった。


「うーん」

『黒い靄が出ている人はいましたか?』

「居ないかも」


 結果が目を凝らして授業を受けている生徒を観察しても、黒い靄が出ている生徒の姿は無かった。

 淡々と行われていく日常の景色に混じる遺物は一切なく、結果の予想が裏切られる形になる。


「学校内にいると思ったんだけど」

『別のクラスの可能性はありませんか?』

「現状じゃわからないよ。猫上くんから出たのは犬飼くんの名前だけだし――って、ん?」


 教室の中に犯人が居ないと判断し、別の可能性を模索しようとした結果の目に映り込む動く物体。

 猫上が授業を受けている教室の天井の隅に、一点を凝視したまま動かない動物の姿をとらえた。


『結果ちゃん?』

「教室の隅。天井に動物みたいのがいる」


 教室から離れた位置にいる結果でも視認できる大きさの動物。狐や犬のような毛並みをしているが、何処となく影を思わせる色合いをしていた。

 天井へ張り付くようにして何かを見つめている動物は遠目に見ても大きい。実体のある動物なら教室にいる生徒が気付かないはずはない。


「結構大きいんだけど。大型犬くらい。でも教室にいる生徒たちは気が付いてない」

『そうなると動物霊ですね』

「力はそんなに強くなさそう」


 結果が動物霊を凝視しながら四季と話していると、自分が見つめられていることに気が付いた動物霊と目が合った。

 鋭い眼光は犬よりも狼を思わせる。視線を向けられた結果は体に力が入ってしまう。

 動物霊が何かしらの行動をとると思った結果は、視線を外すことなく動物霊の動きを観察していた。結果の緊張に反して、動物霊は結果を認識した後、煙のように教室から消えていった。


「あれ?居なくなっちゃった」

『何が起こったんですか』

「教室の隅にいる動物霊と目が合ったんだけど、私を少しだけ見て逃げるように消えちゃった」

『教室にいる生徒へ危害を加えそうな雰囲気はありましたか?』


 結果が見ていたのは教室の隅に陣取っている姿のみ。

 動物霊が誰かを狙うような素振りは無かったように思える。


「何かを観察しているみたいだったけど、危害を加える感じはなかったよ」

『野良の動物霊かも知れませんね』


 動物は人間よりも繁殖力が高く、寿命が短い。

 何かの拍子で動物霊になってしまうこともあるだろう。数は多くないが、偶々生まれた動物霊が人の多い学校に興味を持って忍び込んだ可能性も少なくはなかった。


「あれが狐狗狸さんって可能性は?」


 犬のようにも見えた動物霊に狐狗狸さんとの関連性を思い至る結果。


『狐狗狸さんなら対象に取り憑いていますし、観察するようなことはしないかと』


 四季からの回答は結果の考えを否定するものであり、僅かな情報すらも成果にはならなかった。


「そっか。これは作戦を練り直さないとね」

『そうですね。帰り道、気を付けて帰ってきてくださいね』

「はーい」


 既に結果は他のクラスを見て回る選択肢を取るつもりはなかった。

 今更ながらに思い付いた考えだが、猫上本人に関わっている人を聞けばいいのだ。結果は直ぐにスマホの連絡先から猫上を選択し、『普段関わっている人って犬飼くん以外にいる?』とメッセージを送る。

 教室を覗く結果は、ポケットからスマホを取り出して教師にバレないよう操作をしている一人の生徒を見つけた。

 窓際の前から三番目に座っている生徒。

 その生徒がスマホを操作してポケットに仕舞い込んだタイミングで結果のスマホが通知を受ける。


「猫上くんの席はあそこだね」


 スマホの通知は猫上からの連絡だった。

――『いません。他のクラスの生徒とは関わりがないですし、クラスの人とも日常会話程度しかしないので』

 その返答により、結果は更に頭を悩ませることになるのだった。


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