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「瑞希~、起きなさーい!学校遅れるわよ~!」
「瑞希は寝坊助だな~」
あれ………なんで───────
「朝ご飯ちゃんと食べていきなさいね───あ、パパ、今日は帰り早い?」
「うん、18時頃には帰れるかな~」
「OK~!。じゃあ今日は、パパと瑞希の好きな物作っておくわね」
「おおー!やったな~瑞希!」
父親の大きくて温かい手が頭に優しく乗る。
母親から注がれた「水」には太陽の光が差し込んだ。
瑞希は動揺した────
これは、何かの夢?
だって私は───さっきまで……BARにいて
「……あ……」
コレが……普通の家族?
瑞希は、母親が注いだ水を一口飲んだ。
すると、場面は切り替わり───そこは学校だった。
「瑞希ちゃん!おはよ~!」
「ねぇ、先週のおっとっとぽむ助観た~?」
「おもしろかったよねぇ~」
「あ、今日の1時間目って国語だよねぇ」
「音読の宿題ちゃんとやってきた?」
「今日学校終わったら、あたしの家にあつまろーよ!」
「さんせー!」
嗚呼……人の心はこんなにも温かいの?
女の子と居ると、こんなにも楽しいの?
ねぇ、私知らないよ?
こんな幸せ知らないよ
だって────だって最初に、誰も教えてくれなかったじゃない
「おーい、瑞希~!」
この優しい光………
これは……知って、る
「あー!まーた、瑞希にちょっかいかけてやんの~」
「ヒューヒュー!熱いぞ~!」
クラスの男子がからかう。
でも、不思議と嫌な感じがしなかった。
寧ろ今は心地が良い
「瑞希……一緒にかえろーぜ!」
「っ……うん」
ねぇ───なんでこんなに涙がでるの?
なんでこんなに胸が苦しいの?
なんでこんなに幸せだって思えるの?
「もうすぐ受験だねぇ~」
「みんなで同じ高校行こーね!!」
「あたしらならだいじょーぶ!」
「JKになったら、いっぱい恋するぞー!」
「瑞希ちゃん、彼と上手くいってるの?」
「瑞希は頭も良いし、受験は余裕で恋愛も余裕って感じですかいっ?」
「えへへ…、もち!上手くいってるよっ」
親友達にVサインをしてみた。
絶対に使わないと思っていたスクールバッグには、可愛いキャラクターのキーホルダーが沢山付いていた。
バッグの中には筆記用具・ノート・参考書───
希望と夢と願望が詰まっていた。
嗚呼────これが……本当の
「瑞希の夢ってなんだ?」
「え…私の夢?」
相合傘から始まった恋は、大学生になっても続いていた。でも……何故だか、彼氏の名前が思い出せない。変なの……
「ん~…、普通の人生を歩むこと…かな~」
「なんだそれ!、まあ確かに幸せな事だろうけど…」
「今こうして、キミと一緒にいるのが……────何よりの幸せなんだ…」
「………じゃあ、ずっと一緒に此処で暮らすか?」
「え?────良いの?…」
「……おう」
「……ありがとう───」
。
。
「えー!それでその「少女」はどうなったの~!?」
BARのカウンター席で、派手な身なりをした若い娘が「水」を飲みながらマスターに問う。
「…きっと、自身が作り出したその理想の世界で、魂だけが永遠に彷徨っているでしょう…」
「でも~、それで少女が本当の幸せを見つけたなら……それは偽物じゃなくて、本物だったって事だよね?」
「……そうですね───」
「にしても、此処で数年前に女の人が自殺したとか有り得ない~。こんな綺麗なBARなのに……」
「お客様……───赤いリップがとてもお似合いですね……」
「えっ、マジぃ~?嬉しすぎるんだが」
「……此処にいらっしゃったという事は────過去に過ちを犯した…という事でお間違いないでしょうか?」
「…は?何言ってんの?ウケるー!!」
「……貴方が飲んでいる「水」は、少女の血で作られてるのですから……────フフフ……」
瑞希は確かに不幸だったかもしれない────
壊れそうな心を抱え、常に生きていた。
それを───くだらない比較で、自分の身を守る為に利用した人間たちを
「瑞希さん……貴方は、こんな常識がない世界から消えて……良かったですよ。」
私は、この世に遺った────害虫を全て駆除します。
マスターはバックバーに並べてあった「瑞希」とラベルが貼られた水の入った瓶を手に取る。
「この世は修行の道───貴方は先に逝けただけ……───どうか……本当の世界で、幸せに」
グシャッ───────
ウィスキーと赤い液体がカウンターテーブルに飛び散る。派手な女は静かになった。
もう二度と……喋る事はないだろう。
「え?────どうして、この女性を殺したか……ですか?─────……フフ……」
ずっと……"盗み聞き"してたのですから、分かるでしょう?────
グシャッ───────




