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4.17~25歳

「私……高校行ってないんです」


瑞希は語り出した────今まで封印してきた、過去を


「では、早く社会に出られたのですね?」


「そうですね……───でも、やっぱり今は……ちゃんと高校行っとけば良かったって……思います。……話が合わないんです、同世代の子達とか……───会社で学生時代とかの話をされても……テストとか受験とか…文化祭とか…部活とか───恋愛とか」


「……この世の全ての人間が、同じ「道」を歩む訳ではない。貴方は一足先に、社会に出れたのです───いずれは通らなければいけない苦難の道を……、貴方は先に行けただけ。」


「……マスターは優しいなぁ~、普通は……高校くらい行っとかないとって…、一喝するところですよ」


「それは、配慮のない正論です。人間は、自分が経験していない事に関しては、無関心でいられます。それに加え、自分が歩んだ道の中で手に入れられた価値を押し付けようとするのです。だから人は…人を傷付けてしまう。」


マスターはそう言って、グラスに新しい「水」を注いだ


少女は中学を卒業し、直ぐに家を飛び出しました。

働き口は限られていましたが、それでも見つけた仕事を一生懸命こなしました。理不尽な客が来ても誰も助けてはくれません。無知な少女は謝る事しか出来ません。だから脳内で殺しました。みんないなくなればいいのに……と、願って。

通勤途中、知らない同世代の女子高生を見かけました。可愛い制服を自分流にアレンジして着こなしていました。スクールバッグには大きなマスコットキーホルダーが沢山ついてました。キラキラしていて、少女には眩しすぎました。学校の事、恋愛の事、友達の事、自分の家族の事を楽しそうに話す女子高生が羨ましいと思いました。


「なんかさ~、ママが早く帰ってこいとか言っててぇ~」


「え、それちょーウザ」


「パパもやたら彼氏できたのか!?とか聞いてきてマジうぜ〜」


「マジで親とか消えれば良いのにな~」


「それな~」


少女はその言葉が許せませんでした。普通に愛されているのに──────何故それが分からないんだと。

殺意が芽生えました。その女子高生達を脳内で殺しました。

今日は会社の上司に「お前って中卒なのになんで生きてんだ?」と言われました。

その日の夜───上司が誰かに殺されました───通勤途中の女子高生も見かけなくなりました。


「ふふふ……あはははは!!」


雨の中、笑いながら走る少女の全身は血で真っ赤に染まりました。決して洗い流されることなく……

その罪と絶望と快楽は、死ぬまで永遠に消えることはない。

過去には戻れない

生まれる場所は選べない

運が悪かっただけ

地球の常識が可笑しいから生きづらいだけ

私は悪くない

私は悪くない


「先輩ってぇ~、親無し・友達無し・学歴無し・彼氏無しって本当ですかぁ!?」


害虫が言葉を発している─────

嗚呼……駆除しなきゃ

最近、会社でよく見かけるんだよなぁ……

人を踏み台にして、自分が優位に立つ頭の悪い害虫が。お気楽に人の過去を根掘り葉掘り聞いてきて、同情する害虫


少女の心は完全に壊れました

目の前には赤いモノでいっぱいに埋め尽くされ、ナニかが飛び散りました

血───血───目玉が二個───

少女の片手には、死んだ上司が使っていた硝子の灰皿。真っ赤などろりとしたモノが付着していました。


「きゃあああーーーーッ!!」


「だ、誰か……救急車……警察ッ!!!!」


人の悲鳴が飛び交う中、少女は走り出しました。

雨が降ってきた────

そう……雨は何でも洗い流してくれる

大丈夫

大丈ブ


「この間殺した時もバレなかったもの」


少女は高らかに笑うと、プツンと切れたかのように急に正気を取り戻し


「なんか()()()()もあったらしいし……───本当に最悪……。やっぱり、このまま帰った方がいいのかな…」







「殺人犯となった、哀れな少女が今まで殺してきた人間の「血」を再現した水でございます」


マスターは微笑んだ

微笑んだ


「……嗚呼、コレって…やっぱり───私の私物じゃなかったんですね」


赤いブラウス……赤い水玉模様───それは跳ね返りの血で生まれたモノ。


「折角忘れてたのに……───気分台無しですよ」


「…物語の続きは、此処からスタートしますよ。」


「はあ?───何を言ってるの…」


「貴方が、私を殺すか……───誰かの記憶に遺る「水」になるか」


「……誰の記憶にも遺らないですよ───今頃、私と同級生の害虫は、結婚して子供も居て……仕事でバリバリやってて………そんな順風満帆な害虫達の記憶に遺る訳ない」


「知っていますか?───人の怨念で、ある時当時の記憶が蘇る事があります。貴方を苦しめた人間達はきっと……いつか後悔して、自分のした事を後悔するでしょうね…」


「知ったような口を…………きくなッ!!!!」


瑞希がマスターの首を絞めようと飛び掛ろうとしたその瞬間


「ッ……」


懐かしい感じがした


唯一幸せだと思える


あの時の「記憶」……

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