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1.0~4歳

今日は仕事で大きなミスをしてしまった。

真っ直ぐ家に帰りたくない…

誰かにこの心を慰めて欲しくて、言い訳と愚痴を聞いて欲しい────


「なんか殺人事件もあったらしいし……───本当に最悪……。やっぱり、このまま帰った方がいいのかな…」


ポタ……と、雫が瑞希の頬に落ちた。

雨が降ってきたのだ───しかも土砂降りの

今日の天気予報は1日晴れの筈───

瑞希は慌てて、とりあえずカフェっぽい看板が出ていた建物に急いで入った。


「いらっしゃいませ…」


低音の渋い声は、疲れた身体に何故か染み渡る。それはまるで、温泉にでも浸かっているような───不思議な感じ。


「す、すみません…1人なんですけど…大丈夫ですか?」


「ええ、今宵のお客様は貴方1人だけです。もし宜しければ…、カウンター席へどうぞ───」


案内してくれた人物は、身長が高く清潔感のある中年男性だった。バーテンダーのような格好がまた様になっていて、歳がかなり離れてはいるが思わず見蕩れてしまう。


(ん……もしかして……此処って)


「お客様、本日はどのようなご予定で?───……それにしても、赤いブラウスがとても良くお似合いですね…」


赤いブラウス───と言われて違和感を覚えた。


(私…、赤いブラウス持ってたっけ?)


自分の着ている服に目をやると、確かに赤いブラウスを着ていた。


「袖は赤い水玉なんですね───とても貴方に似合っていますよ」


男性は優しく微笑み、1つのグラスを用意する。

そこに注がれたのは透明な「水」。

瑞希はカウンター席の真ん中に座ると、注がれた水のグラスを差し出された。


「あ…、お冷ありがとうございます」


「いいえ、当店は「水」しか出しておりません。」


「え……」


どういう事だろうか────


「その代わり───「水」がジュースからカクテルになる、1つの物語を聞いて頂きたいのですが…」


「は…はあ……」


なんだか変な店に入ってしまった。

後でぼったくられてしまったらどうしよう……

瑞希は不安を隠せないまま、男性の話に耳を傾ける。


「これは……───可哀想な、1人の少女の物語。」




少女はそんなに裕福ではない家庭に生まれました。


少女の父はギャンブル依存症に、短気な性格が災いし、直ぐに手を挙げてしまうような人でした。

少女の母は身寄りがなく、頼れるのは父だけでした。唯一血が繋がった少女を愛していましたが、自分は母親になれる資格が無いと心の何処かで思っていました。それは当たり前です───だって、本当の親に育てられていないのだから……


少女は幼いながらに気付いていました

父と母は、"なんとなく"一緒になってしまった関係だと。

父は気に入らない事があると、母に手を挙げていました。母は殴られ、腫れた所を抑えて、声を押し殺して泣いていました。

少女は怖くて何も出来ませんでした。だってまだ幼いから───殺されてしまうかもしれないから


少女は4歳になりました

幼稚園では意地悪をする友達(ゴミ)で溢れかえっていました。

自分の事を気持ち悪いと言う男の子がいました。

その子は必ず、少女の背中を突き飛ばします。

少女がプールに入ろうとした時────少女が滑り台から滑ろうとした時───


だから、少女は突き飛ばされるフリをして、片手に持っていたシャベルで頭部を思い切り殴りました。


男の子の奇声が園内に響きました。

返り血を浴びた少女の服はまるで水玉のようでした。

綺麗な綺麗な赤色でした。


「なんだ……死なないんだ」


そう呟いたのと同時に、シャベルを取り上げられ、先生に取り押さえられました。







「これが少女の生まれてから4歳までのお話しです……───ほら、グラスの水をご覧下さい」


「あ……トマトジュースになってる!?」


色が変わった水は、赤色をしていた。


「これは、少女がその時見た記憶で作られた、トマトジュースで御座います。」


瑞希は恐る恐る1口呑む─────


「お……美味しい……」


「良かった…────」


「でも……なんだか、胸が痛いです……」


「……貴方はお優しいのです。」


男性の優しい声が合わさって、更に胸が苦しくて泣きたくなった。

この少女がどうなったのか……私は男性───マスターに続きを催促した

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