おばけの学校とコトリ先生
ある日の夜、コトリが森をあるいていると、どこからかチーンというベルの音が聞こえてきました。
その音につられて進んでいくと、木の根っこの下に、ぽつんと立つ古い黒板がありました。
そこには、チョークでこう書かれていました。
『おばけの学校 本日休校 せんせいふそくのため』
「せんせい……?」
コトリが首をかしげていると、葉っぱのかげから、もじゃもじゃのおばけが顔を出しました。
「あっ! きみ! 先生やらない!?」
「えっ?」
「ほら、ぼくら、学校に来てるのに、先生がいないんだよ~。黒板の書き方も知らないし、『あいうえお』も読めないんだ~」
コトリがあたりを見わたすと、そこには、ちっちゃなおばけたちがおすまし顔でイスにすわっていました。
「せんせいって、そんなかんたんになれるの……?」
「なれるよ! 先生になるて言ったらもう先生だよ! ね、みんなー!」
「はーい!」
「せんせい~!」
「よろしくですー!」
こうして、コトリは『コトリせんせい』になってしまいました。
「じゃあ、まずは『あいうえお』からね」
コトリが黒板にひらがなを書くと、おばけたちはわぁっと目をかがやかせました。
「これは、『あ』って読むの。口を大きく開けて、あー」
「あーーー!」
「ちがうちがう、こわくない声でね!」
「あー」
「あ~~~」
「あぁー」
「うん、いいかんじ」
おばけたちの目はきらきらしていました。
次の日は、算数のじかん。
「おばけが三人いて、一人かくれんぼに行ったら、のこりは何人?」
「……ぜんぶ、いない?」
「ちがうよ!」
「だっておばけはすぐ見えなくなるもん!」
「……うーん、まあ、それもせいかいかも……」
そして、ある日。
もじゃもじゃのおばけが、こっそりコトリにいいました。
「きみの声ってね、森の奥まで届くんだよ。ぼくら、おばけだけど、話してくれるとうれしいんだ」
その夜、コトリはひかりの木の下に立って、言葉をひとつひとつ声にしました。
『おやすみなさい』
『またあした』
『だいじょうぶだよ』
『だいすき』
森のあちこちで、小さな光がぽっぽっと灯りました。
それは、おばけたちの「うれしい」があつまった灯りでした。
そのあとも、コトリせんせいの学校は、ぽつぽつと開かれました。
森にこっそりできた、小さなおばけの教室。
黒板はボロボロ、イスは木の根っこ。
それでも教室はいつも満席で、いつも楽しそうでした。