ひかりの木とおばけの手紙
まよい森には、夜になるとぽうっと光るふしぎな木があります。
その木は、森のいちばん奥に立っていて、「ひかりの木」と呼ばれていました。
ある夜、コトリは月の明かりのもと、森をぬけてひかりの木の前に立ちました。
木のえだには、たくさんの小さな手紙が、ゆらゆらとゆれていました。赤い糸でむすばれていて、風にふかれると、まるでささやくように音をたてます。
「これはだれの手紙?」
すると、木のかげからひとりのおばけが顔を出しました。やわらかいひかりをまとう、しずかな目をしたおばけです。
「これはね、もう言えなくなった気もちをしまった手紙。生きてるときに、伝えられなかったこと。だれにも届かないままここに流れつくんだよ」
おばけは、ひとつの手紙を手に取りました。それは古くて、文字がにじんでいました。
「たとえば、これ。『おかあさん、ごめんなさい』って書いてある。たぶん、だれかがずっと言えなかった言葉」
コトリは、そっと目を閉じて、風にゆれる手紙たちの音を聞きました。そこには、たくさんの気持ちが、そっと、でも確かに息づいていました。
『ありがとう』
『さようなら』
『だいすき』
『あいたい』
『ごめんなさい』
「コトリちゃんも、何か書いてみる?」
おばけにそう言われて、コトリはちいさな紙とえんぴつを受けとりました。
コトリは、ひとことだけ書いて、木のえだにむすびました。
『おばあちゃん、またおかゆつくってね』
風がふいて、手紙がやさしくゆれました。どこかで、おばあちゃんが、ふふっと笑ったような気がしました。
そのとき、ひかりの木のうえで、ぽんっと小さな花がひらきました。
「だれかの思いが、届いたんだね」
おばけがつぶやきました。
「手紙ってふしぎだね。書いただけで、すこし心があたたかくなる」
「うん。言えなかった気持ちは、書くことで、ちょっとだけ届くのかもね」
コトリはうなずいて、もう一度、ひかりの木を見あげました。
その木は、今夜も、たくさんの思い出をゆらゆらとゆらしながら、しずかに、しずかに光っていました。