表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/71

ひかりの木とおばけの手紙

 まよい森には、夜になるとぽうっと光るふしぎな木があります。

 その木は、森のいちばん奥に立っていて、「ひかりの木」と呼ばれていました。

 ある夜、コトリは月の明かりのもと、森をぬけてひかりの木の前に立ちました。

 木のえだには、たくさんの小さな手紙が、ゆらゆらとゆれていました。赤い糸でむすばれていて、風にふかれると、まるでささやくように音をたてます。

「これはだれの手紙?」

 すると、木のかげからひとりのおばけが顔を出しました。やわらかいひかりをまとう、しずかな目をしたおばけです。

「これはね、もう言えなくなった気もちをしまった手紙。生きてるときに、伝えられなかったこと。だれにも届かないままここに流れつくんだよ」

 おばけは、ひとつの手紙を手に取りました。それは古くて、文字がにじんでいました。

「たとえば、これ。『おかあさん、ごめんなさい』って書いてある。たぶん、だれかがずっと言えなかった言葉」

 コトリは、そっと目を閉じて、風にゆれる手紙たちの音を聞きました。そこには、たくさんの気持ちが、そっと、でも確かに息づいていました。

『ありがとう』

『さようなら』

『だいすき』

『あいたい』

『ごめんなさい』

「コトリちゃんも、何か書いてみる?」

 おばけにそう言われて、コトリはちいさな紙とえんぴつを受けとりました。

 コトリは、ひとことだけ書いて、木のえだにむすびました。

『おばあちゃん、またおかゆつくってね』

 風がふいて、手紙がやさしくゆれました。どこかで、おばあちゃんが、ふふっと笑ったような気がしました。

 そのとき、ひかりの木のうえで、ぽんっと小さな花がひらきました。

「だれかの思いが、届いたんだね」

 おばけがつぶやきました。

「手紙ってふしぎだね。書いただけで、すこし心があたたかくなる」

「うん。言えなかった気持ちは、書くことで、ちょっとだけ届くのかもね」

 コトリはうなずいて、もう一度、ひかりの木を見あげました。

 その木は、今夜も、たくさんの思い出をゆらゆらとゆらしながら、しずかに、しずかに光っていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ