ふしぎなごはんの森
ある日の午後、コトリは、こっそり森の中をさんぽしていました。
まよい森は、もうこわくありません。ほそい木々のあいだを鳥がとび、こけの上に光がこぼれています。
ふと、風のにおいにまじって、ふわっと、おいしそうなにおいがしてきました。
コトリはにおいのするほうへ歩いていきました。
すると、そこには小さな木のテーブルとイスが並んでいて、おばけたちがぐるりとすわっていました。
ちいさなおばけ、ながい耳のおばけ、ひとつ目のおばけ、みんなスープやパンやケーキのようなものを、おいしそうに食べています。
「こんにちは」
とコトリが言うと、おばけたちはにっこりして、席をひとつあけてくれました。
「ようこそ、おばけのごはん会へ!」
コトリがすわると、お皿にまっ白なおかゆのようなものがのりました。
スプーンですくってみると、ふわっとにおいがかわりました。
「あれ? これ、しってる味がする……」
コトリには、それが昔、おばあちゃんと食べたおかゆの味に思えました。
「それはね、思い出のごはんなんだよ」
となりのおばけが、ちいさな声で言いました。
「この森では、だれかがたべたいって願うと、心のなかのごはんが出てくるの」
べつのおばけは、まっ黒なパンを食べていました。それは、かつてお母さんと夜にこっそり焼いた、焼きすぎのパン。
「ぼくたちは、もうそのときの人とは会えないけれど、そのごはんを食べると、なんだか思い出せるんだ」
おばけたちは、口々に自分の思い出の味を語りはじめました。
ひとくちごとに、笑ったり、しんみりしたり。
「たべるって、たいせつなんだね」
コトリがそう言うと、みんながうなずきました。
ごはん会が終わるころ、コトリの前に、ちいさなビンがそっと置かれました。
「これは、おもいでスパイス。さみしくなったときに、ひとふりしてね」
おばけたちに手をふって、今日のごはんはなんだろうとわくわくしながらコトリは森をあとにしました。