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「ついでに言うと」
ルノマの背後から、カナエが声を投げつけた。
「わたしがレポタの地下に潜んだのは、川原でのヴァンクーアの奇襲で、苦戦させられた経験から。さっきのアキカズの攻撃は、テレイシアが川へヴァンクーアを投げた動きが印象的だったから生まれた発想。解る? ヴァンクーアもまた、あなたを滅ぼす運命の一部だったのよ」
「……!」
愕然となるルノマ。
そのルノマの肩越しにカナエへと、アキカズは呆れた視線で言った。
『おい。いくら何でもそれは強引だろ』
カナエは、たっぷるんっと胸を張って、視線で返す。
『いーのよ。こいつには、さんざん苦労させられたんだから。これぐらい言わせなさい』
もう、アキカズたちの目には殆ど見えなくなりつつあるルノマが、自分の存在を右手にかき集めた。そこに、僅かな火が灯る。
「……アタシがここで消えても……エ連は……カルゲルベルは無傷……全てのチキュウ星人も……エルフ王国の残党も……いずれ、必ず……必ずううウウううゥゥッ!」
襲ってきたルノマに対して、アキカズは身を沈めながら、すれ違いざまに気光の刃を一閃させる。ルノマの攻撃は空振り、アキカズの刃がルノマの胴を斬り裂いた。
これが、とどめとなった。ルノマの姿が、意思が、魂が、完全にこの世から消える。
「成敗」
アキカズは気光の白い光を消して、刀を鞘に納めた。
静かになった戦場で、テレイシアは佇んでいる。
絶体絶命の危機を乗り越えた。末端の一人とはいえ、故国を滅ぼした仇を討つこともできた。
だからといって、歓喜の咆哮を上げる気にはなれない。この戦いで、マッスイィーンを含む全てが失われてしまったのだ。過去の世界から持参した、エルフ王国の設備や技術。それらはもちろん、この世界では貴重な物だ。だがそんなことよりも、テレイシアとメルにとっては、懐かしい故郷の品々。その故郷が失われた今となっては、二度と取り戻せぬ思い出そのものだったのだ。
そして、レポタが健在なら、今頃は会えていたのだ。テレイシアたちの故郷を知る、エルフ王国民の末裔たちに。だが、それも、もう……
「考えてみれば」
テレイシアの背後で、カナエが言う。
「地震も台風もその他諸々も、全て乗り越えてきから、わたしたちの今がある。エルフ星では、隕石なんてもので星自体が荒廃しても、テレイシアたちはこうして生きてる。結局、邪神の力に負けてないのよ。わたしたちは歴史上、ずっと。そして、これからも」
「ああ。邪神だろうが何だろうが、強く生き抜こうとする者を、滅ぼせはしないってことだ」
カナエの後を受け、アキカズはテレイシアの肩に手を置いて語りかけた。
「エルフ王国も、滅んではいなかった。きっと国民の子孫たちが、立派な国を築いていると思う。だから、行こう。俺たち二人が、及ばずながら協力させてもらう。な、カナエ?」
「ええ、もちろん」
「……ありがと」
まだあまり元気ではないが、テレイシアはアキカズとカナエに笑顔を返した。レポタは失われてしまったが、西に希望があることは判ったのだ。
ならば、行こう。どんなに遠くても。
その道中は、人間=チキュウ星人ばかりが暮らすいくつもの街や国を通って行くことになる。テレイシアとメルの二人だけでは、知らぬことも多い。だからアキカズとカナエが協力してくれるのは、二人としては有難かった。
「そうすると……」
テレイシアが少し元気になったことに安堵しながら、メルが言った。
「姫様。これから先、私たちは当初の姿勢を、ずっと貫かねばなりませんね」
「え、姿勢? って何?」
首を傾げるテレイシアに、メルは説明する。
「私たちは【エルフ】、チキュウ星人は【人間】という設定ですよ」
「ああ、そういえば。まだちょっとしっくり来ないけど、行く先々で変に思われるのも困るから、仕方ないわね。じゃあ、そういうことで。二人もお願いね」
ええ、とカナエは頷く。アキカズなどは、
「無論! では、お忍びで旅をしているエルフのお姫様と、その護衛ってことで!」
嬉しそうである。英雄伝説の主人公としても、ちょっと珍しい設定だからだろうか。
かくして。
カンズィートの騎士団には、旅のエルフと協力してダークエルフの企みを打ち砕いた、と報告した。後日、魔術研究所や神殿の調査が入り、山の異変が治まっていること、召喚魔法陣の痕跡なども認められたため、アキカズとカナエはかなりの報奨金を得ることができた。
それで身支度を整え、四人は出発した。西の彼方にある、エルフ王国を目指して。
アキカズは、エルフたちが大勢暮らすという夢の王国に行きたくて。
カナエは、エルフ王国との交易の開拓者として歴史に名を刻みたくて。
テレイシアは、故郷の末裔たちに逢いたくて、その築いた国に行きたくて。
メルは、テレイシアを護る使命を果たし、エルフの国まで送り届けたくて。
四人は行く。夢を歌い上げながら一路、西へ。
♪西にはあるんだ エルフの国が♪
ここまでご覧頂き、ありがとうございました!
このタイトルを、きっちり歌える人……お歳はいくつですかねえ。ふふ。
「エルフ星人」というネタ自体はだいぶ昔に思いついたもので、過去作でも使っております。
今作ではこの要素を徹底的に深く重くメインに使ってみよう、と考えて描いてみました。
私は年寄りですので、「エルフ」との付き合いはロードスやリウイ、へっぽこなどからの
長~いものです。現在に至るまでの、ラノベやアニメなどでの「エルフ」のイメージ、
その扱われ方の変遷をしっかり見てきました。
今となっては、あまりにも一般化し馴染み過ぎたエルフという存在。
それを、今一度「特別なもの」っぽく描いてみたいという思いがありまして。
その発露がエルフ星人というネタです。
まだ他に「一般的に馴染み過ぎたものを、ちょっと捻ってみる」で
やりたいネタはありますので、挑戦していくつもりです。
では、また!




