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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第四章 超時空エルフ大戦!
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 ルノマがそんなことを喋っている間にも、アキカズたちが見上げている遥かな上空で、隕石はどんどん巨大化している。いや、膨れて大きくなっているわけではない。こちらに向かって来ているのだ。

 まだまだ遠いので正確には判らないが、おそらく、ちょっとした砦くらいの大きさはあるだろう。岩、巨岩、などという言葉の枠は明らかに越えている。

 そして同じものでも、より高い場所から落ちるほど、地面に与える力は大きくなる。それぐらいは、学のないアキカズにも解る。あんな巨大なものが、あんな上空から大地に激突したら、どれほどの衝撃が発生することか。

 エルフ星を滅ぼした、隕石の落下。エルフ星人たちの精霊術ではそれを防ぐことはできず、落下後に荒れ果てた星を復興させることもできなかった。全てを、母星を、捨てるしかなかった。隕石はエルフ星人にとって、絶望そのものとも言える大災害だったのである。

 その恐ろしさを肌身で知っているテレイシアが、華奢な体を震わせながら言った。

「い、いくら、エルフ星に落ちたものよりは小さいとしても……それでも、あんな巨大なものを、ウチュウの彼方から引っ張ってきたっていうの? エ連とかいう奴らは、空間移動が苦手なんでしょ? だから、あたしたちのレポタに頼ったはずでしょ?」

「そう、苦手よ。なのに、それを可能にしてしまうのが、邪神の力ってことね」

 勝ち誇った顔でルノマが言う。

 だがそこで、カナエが反論した。

「違う。あれには石の神様を感じない。あれは、ウチュウで漂ってる星の欠片、本物の隕石を持ってきたものではない」

 テレイシアが、アキカズが、メルが、そしてルノマが、カナエに注目した。

 カナエはルノマを睨みつけて言う。

「さっき、アキカズとメルが吹雪を斬った時、あなたは苦しんでた。消耗が激しいのかと思ったけど、それだけではなさそうな苦しみっぷりだった。その前に水を操った時には、あなたは呪文も何もなしに、一瞬で水を消し去った」

「で、何?」

「水も吹雪もあの隕石も、自然現象を引き起こしているのではないわね。本物の邪神もそうなのかは知らないけど、あなたは自分の意思で、力で、創っている。いわば自分の体の一部。自分の指に火を灯して、それを火山の噴火であるかのように見せかけてるだけ。ということは、」

「……は! よく判ったわね! ええ、そおおおおぉぉぉぉよ!」

 ルノマが叫んだ。

「あれはウチュウの、天然の隕石ではなく、アタシが自力で創ったもの! アタシと繋がっている、アタシの一部! だからアタシを殺せば、跡形なく消えてめでたしめでたしよ! けどね、雨や吹雪を操作するのとは違い、ただの落下なら放っておけばいい! だから、」

 掲げていた両腕を降ろし、吼えて構えるルノマの目に、狂気が宿っている。それは、確定している自らの死を受け入れた上で、目の前にいる者どもを道連れにせんとする、「死」と「殺」の混じった濃密な念だ。

「アタシは今、自由に戦える! さぁかかってきなさい! あの隕石がここに落ちるより早く、アタシを殺せればアンタたちの勝ち! 殺せなければ、山もろともアンタたちは潰れる! それとも逃げる? 今から全速力で走れば、逃げきれるかもね!」

 とルノマは言うが、隕石の落下までにどれぐらいの猶予があるかなど測れやしない。走って逃げて助かるなんてことは、どうしたって不可能なのかもしれない。

 それに四人が逃げきれたとしても、今、山に来ている騎士たちや冒険者たちは全滅だ。あの隕石にルノマの言葉通りの威力があるなら、近隣の村や街の人々も犠牲になる。

 今のルノマはかなり消耗しているようだが、ルノマが邪神と通じて以来、アキカズたちはずっと一方的に押されっぱなしで、掠り傷一つつけられなかった。ここから短時間で、いや長時間でも、勝てる確率はかなり低い。そして負けたら負けたで、「逃げて失敗」と同じ結末になる。アキカズたちもろとも、隕石落下で大勢の犠牲者が出る。

 結局は、一か八かでルノマに挑むしかない。僅かにこちらが有利な点としては、勝たなくてもいいということ。大きく消耗させればルノマは自滅するから、それまで耐えきればいいのだ。ルノマが力を使い果たしてしまえば、あの隕石も消えて万事解決だ。

 だが、それには一体どれぐらいの時間が必要か? どれぐらいの攻撃、どれぐらいのダメージに耐えればいいのか? 本当に耐えられるのか? 耐えられるとしても、隕石が来るまでにルノマの消滅が間に合うのか? 

 それらは全く判らない。つまり、勝算は限りなくゼロに近い。それでも戦うしかない。

 と、カナエは思った。本能的にというか習慣的に、状況をしっかり観察して分析して、敵の攻撃のタネを見抜いた。弱点を解き明かした。しかしそこまでだ。それでも尚、敵は強大。こうなったら後はもう、素直に戦うしかない。

 テレイシアは元より、故郷の皆の仇を討つつもりなので、ルノマに向かって拳を握り締めている。メルはもちろん、テレイシアに従っている。

 そんな中、アキカズがルノマに言った。

「最初に、お前が俺たちにぶつけたのは、ただの雨の塊だった。毒でも熱湯でもなかった。俺たちに浴びせた吹雪にも、巨大な氷の刃が混じっていたりはしなかった。邪神の力で生み出せるのは、あくまで自然災害で出て来るモノであり、それ以外は不可能なのではないか?」

 ルノマは怪訝な顔をする。

「そうよ。それが何だってのよ。自然災害、それ以上に恐ろしいものなんかないでしょ。生物が、種族丸ごと絶滅したり、星が、つまり世界が、根こそぎ崩壊したりするのよ?」

「そうか。だとしたら、望みはある」

 アキカズは、カナエの袖を掴んでぐいと引き寄せた。

「な、何よ」

「考えがある。聞け」

 テレイシアとメルにも目配せして集まるよう呼びかけ、ぼそぼそと囁きかける。

 ルノマは、

「何? 作戦会議? いいわよ、好きなだけ見苦しく足掻きなさい」

 アキカズたちを攻撃せず、好きにさせた。

 今のルノマは攻撃すればするほど寿命が縮まるし、時間が経てば隕石がここに到着して、アキカズたちは確実に全滅する。このまま全員何もしないのが、ルノマとしては最善なので、作戦会議を邪魔する理由はないのだ。

 アキカズたちの作戦会議は、あっという間に終わった。アキカズとテレイシアが前に出て、カナエとメルが後ろに立っている。カナエがアキカズの背に、ぼそりと言った。

「よくもまあ、そんなこと思いついたわね」

 アキカズは振り向かず、背中で答えた。

「絶体絶命の危機も、力を合わせれば突破できるという姿勢を、いろいろな英雄伝説で学んだからな。あと、勝ち目のない相手にヤケクソで向かって行くのは、勇気ではない。それは武士道とか以前の問題、戦いにおける常識だ」


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