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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第四章 超時空エルフ大戦!
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「エルフ星では、自然すなわち精霊は、友。そんな風に考えられていたわ。雨が降るのも風が吹くのも、その友が起こしていること。それによって木々や動物たちが育まれ、アタシたちの暮らしが成り立っている、生きることができているってね。でも……」

「とりあえず、そこからどけいっ!」

 アキカズが、刀に気光を宿らせてルノマに斬りかかった。どけいと言いながら、完全に斬り殺すつもりだ。テレイシアたちにとって文字通り「希望の光」であるレポタの輝きが、ルノマによって被せられた違う色の魔法陣と混ざり合うことで、明らかに変容しているからだ。波打ち、歪み、別物になろうとしている。吹き上がっている光の粒子が、その一粒一粒が、魔法陣そのものと同じく、どんどん赤黒くなっている。

 何やら壮大な企みがありそうだったが、この山の異変の黒幕であると白状し、実際にあの紅い魔法陣を見せた時点で、敵であることは確定だ。何より、レポタを壊されでもしたら、テレイシアたちの希望が潰える。

 そうはさせんと、アキカズは全力で、ルノマを一刀両断にすべく斬りかかったのだが、

「あらあら。大人しく聞いてほしいわね。我が偉大なる祖国、エ連の歴史を」

 ルノマは落ち着いている。魔法陣の縁から吹き上がっている赤黒い光の粒子が、そのルノマを護るように、ふわふわと舞っている。

 その粒子に、アキカズの刀が触れる。と、激しく弾き返された。気光の白い輝きを宿した刃が、軽く頼りなさげに浮いている赤黒い光の粒子に触れただけで、まるで大人に突き飛ばされた子供のように、一方的に押し負けたのだ。

「何っ?」

 魔術師の魔術だろうと、僧侶の法術だろうと、そしてエルフの精霊術だろうと、気光の刃に斬れないものはないはず。力の強弱ではない、存在そのものの性質でだ。例えるなら、各種の術は火であり、気光は水。水をかければ、火は消えるはずである。

 だが。アキカズは理解していた。今の手応えで。

 あまりにも、あまりにも力が膨大なのだ。例えるなら、家一軒がまるごと焼けている時に、コップ一杯の水で何ができる? 城と同じ大きさの藁束を、人が手に持つ鉄の槍で貫けるか? その感覚、その手応えだった。

 試すまでもなく判る。これでは、アキカズとカナエとの二人で可能な最強必殺の技である、鼎の刃も通用するまい。こんな膨大な力を得ることが、人間に、エルフに、可能なのか? この地上の生物に、できることなのか? 

 ルノマが、続きを話し始めた。

「さて。自然が友だというのなら、エルフ星を襲った隕石は何? それだって雨風と同じ、自然の一部よね? アタシはこの目で見てないけど、山も海もメチャクチャになったでしょう? どうしてそんなことを? ……その答えが、チキュウ星に来て見つかったのよ」


 アタシたちの先祖は、ここに来てとりあえず、ある国を制圧したわ。世界規模の騒ぎにならないよう、他国との交流がない、山奥の小国を襲って、ほぼ皆殺しにした。そこでいろいろと調べて、エルフ星にはない、魔術や法術というものを知ったの。 

 僧侶と言われる連中は、法術を用いることで、火の精霊や水の精霊よりも桁違いに大きな存在と交信して、その力を借りることができる。世界の、つまりこのチキュウ星の創造に関わる、「神」というものの力を。

 それは、異星人であるアタシたちには難しい? それを可能にする手だてが、魔術にあった。魔術師は特殊な杖や指輪などの道具を使うことで、己の力を大幅に高めることができる。その技術を応用して、精霊との交信力を高めることで、何とかならないか?


「そうしていろいろ研究開発していく内に、抵抗力のない生物を一方的に召喚できる魔法陣や、その生物を操る道具なんかができた。元々の「山奥の小国」にあった薬草の技術と、植物関連の精霊術とを合わせることで、いろんな薬を作ったりもした。ドーラッグもその一つ」

「!」

「もともと、アタシらが強くなる為に作った薬の試作品だから、使うとエ連人に近づくみたいね。肌とか髪とか。でもエルフ王国まるごとを使った大規模実験の結果、使ったら危ないと判明した。だからもう、アタシらの内輪では使ってないの」

 テレイシアとメルの顔色が変わった。

 ルノマは勝ち誇った顔をしている。

「その話はこれで終わり。で、チキュウ星にやってきたアタシたちエ連としては、もちろんチキュウ星を丸ごと手に入れたい。けど、原住民であるチキュウ星人はやたらと数が多い。どうしようかと思っているところに、色白なエルフ王国の皆さんがやってきた」

 ここまで来れば、いろいろな英雄伝説でいろいろな悪役のパターンを知っているアキカズには察しがついた。

「さっきの薬で、エルフ王国の民に化けて、チキュウ星人……面倒だから、人間と呼ばせてもらうぞ。我々人間の国に攻撃を仕掛けたんだな。そうして反撃を誘い、エルフ王国と争わせた。当時、人間と交流があったエルフ星人は、エルフ王国民だけだったから、」

「そ。外見さえ似せておけば、濡れ衣を着せるのは簡単。そして一度乱れれば、意見の食い違いから内紛も発生する。その混乱の中にちょいとスパイを紛れ込ませ、ドーラッグを教え込んでやったら、もう、ね。そこからは、前に説明してあげた通りよ」

「う……うわああああぁぁっ!」

 テレイシアが吠え、ルノマに殴りかかった。

 が、やはり通用しない。赤黒い魔法陣の縁から吹き上がっている、赤黒い光の粒子に、難なく弾き飛ばされてしまった。

 メルに抱き起され、テレイシアがルノマを睨みつける。

「お前が……お前たちがああぁぁ!」

「まあ、きっかけ作りはアタシらだけどね。でもアンタたちの国を直接滅ぼしたのは、同士討ちとチキュウ星人軍の攻撃よ。けど、チキュウ星人の数の多さが計算以上だったから、共倒れには程遠くてね。結局アタシらエ連は、その時点でのチキュウ星の制圧を断念した」

 その時点ではね。とルノマは笑っている。

「さて、いよいよ本題。歴史を見れば、氷河期や疫病などで、多くの生物が絶滅しているわ。それも自然の、精霊の仕業? 違ったのよ。僧侶たちが祈りを捧げる、神様と同等の、それでいて正反対の存在の仕業。【邪神】って、この星の伝説にもたまに出てるでしょ」

 確かにそうだ。アキカズの故郷であるニホンにも、邪な神の伝説はある。

 つまり、エルフ星を滅ぼした隕石も、氷河期や疫病と同じく、生命を滅さんとする邪神の力によるものだというのか。それは精霊よりも巨大な存在であるがゆえに、エルフ星人たちにはどうしようもなく、だから星を捨てて逃げるしかなかったと。

 そしてチキュウ星に来て、神の力を借りる僧侶を知った。道具で力を増幅させる魔術師を知った。それらと、エルフ星の精霊術とを組み合わせる研究をした。と、いうことは。

「まさかお前たちの狙いは、邪神の力を手に入れることか? その魔法陣もその為に……つまり最初から、この山でモンスターを召喚していたのも、その実験、研究だった?」

「そ。リューミヤクがあったから、その力でいろいろ試してたのよ」

 アキカズの指摘に、ルノマは頷いた。

「エ連の技術は、時間超えが得意でね。抵抗力のないモンスターなら、過去からムリヤリ引っ張ってくることさえできる。でも空間超えは苦手。過去の戦争で、モンスターを異星から引っ張ってきてたのも、アタシらではなく王国の反乱軍だった。そこで、」

 ルノマは足下の魔法陣を指した。

「エルフ王国ご自慢の空間移動魔法陣に、エ連お得意の時間移動魔法陣を重ねる。これによって時間と空間を纏めて超える、すなわち時空を超えることが可能になる。時空間の向こう側にいる高次元の存在、邪神に通じる扉が開く。という結論に至ったってわけ」

「邪神に、通じる……」

「そう。気まぐれに生物を絶滅させてしまう力。風よりも強い台風、雨よりも強い豪雨、波よりも強い津波、地震、噴火、氷河期に疫病、そして隕石。【災害】を司るもの、邪神」

 ルノマの足下、変色して変質したレポタから吹き上がる赤黒い光の粒子が、その数を増し、密度を増してきた。

「今のこれは、いわば滝に打たれてるようなもの。アンタたちが弾かれたのは、滝の水圧よ。アタシの力ではなくてね。だから、この魔法陣から一歩出れば、アタシとは切れるわ。でも、もうすぐこの力はアタシの体に馴染んで、滝が根元から丸ごと、アタシ自身の力となる」

 歴史上、多くの生物を絶滅させてきた各種の災害。それを司る邪神の力。

 このチキュウ星に来て、とりあえず、ある国を襲って皆殺しにした……などと気軽に言っている奴に、そんな力を渡したらどうなるか。止めねばならない。だが、どうやって?

 アキカズの刀も、テレイシアの拳も、通じないことはもう判っている。今のルノマは、たった一歩、後退せることさえできないのだ。

 何とかならないか、とアキカズはカナエの方を向いた。が、

「あっ?」

 カナエがいない。いつの間にか、どこかへ行ってしまっている。


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