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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第三章 遠~~くから来たエルフたち
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 アキカズたち五人は、結界の場所近くまでやってきた。ルノマの話によると、もうすぐそこに魔法陣があるらしい。

 それはそれとして。アキカズとカナエはテレイシアから聞かされた話によって、いろいろと大変なことになっていた。それぞれの思ってきたこと、考えてきたことなどが、なかなか凄い力でひっくり返されたというか、かき混ぜられたというか、塗り替えられたというか。

 時期も程度も方向も違うが、二人とも「テレイシアやメルは、エルフではないのでは」という疑いの気持ちはあった。だが、それは杞憂だった。エルフはエルフだった。

 ただ、「星人」のつくエルフだった。

「ま、まあ、出身地で偏見とか、良くないことだし。ただ、生まれた場所がウチュウの彼方というだけであって、その一点以外は、俺が心に描いていたのと大差はないわけで……なあ?」

「エースーエフによると、確か【エェリアン】だったかな、異星人って。いやぁ凄いわ。交易はもちろん、古代にやりかけてた技術交流をしっかり再開できれば、どれほどの……ねえ?」

 思いを確認し合う、アキカズとカナエ。二人とも、驚きはしたが方針に変更はないので、とりあえず問題はない。今は全員で力を合わせて、残る魔法陣を潰しに行くだけだ。

 ルノマがアキカズに語ったドーラッグとダークエルフの歴史は、テレイシアたちが未来、すなわちこの時代に跳んだ後の話らしく、テレイシアもメルも知らなかった。だがドーラッグはエルフが作ったものに間違いなく(もし人間が作ったなら、先に人間軍内に蔓延したはずだが、それはなかった)、そのことで国が自壊したことに強いショックを受けていた。

 そんなことがあったのでは、「無事に大規模マッスイィーンが完成して、未来で門が開くのを待っている時間」があるのかどうか。二人は不安を隠せなかったが、遥か未来の今となっては、どうにもならない。マッスイィーンは、過去には行けないのだ。

 エルフと人間との、悲しい戦乱の過去。しかし、あくまで過去のことだ。今は、目の前で牙を剥いている敵に立ち向かわなければならない。そして、いろいろあったが、当面の問題は間もなく解決されそうなのだ。下を向いてはいられない。

 障害があるとすれば、またモンスターが襲ってくることぐらいか。だがそれも、五人がこうして揃っていれば大丈夫だろう。魔法陣はアキカズの気光で容易に潰せることが判っているので、ルノマが引きずり出してくれさえすれば、簡単にケリはつく。

 そのルノマが、足を止めた。ほぼ同時に、他の全員も足を止める。

 案内の為に先頭を歩いていたルノマが足を止めたから、必然的に後続も足を止めた、のではない。全員が、自分の判断で足を止めたのだ。

 強い殺気が来る。いや、殺気とか何とか以前に、耳に大声が、叫び声が届いている。

 鳥の声ではなさそうだが、空高くから……

「危ないっ!」

 誰が叫んだのか、とにかく五人は散った。一瞬後、五人がいた場所のど真ん中に、地を揺るがす轟音をドズゥンと響かせて、そいつは落ちてきた。

 五人の視線を浴び、土埃の立ち込める中、大地に這いつくばるような着地の姿勢から、むくりと立ち上がった、その生物。いや、怪物。

 顔はヴァンクーアだ。だが、それ以外はもうヴァンクーアではない。

 両脇の下から、左右それぞれ二本ずつの腕が生えており、本来の腕と合わせて計六本。まるで昆虫だ。

 足は三本ある、と思ったが三本目は足ではなかった。足の間に、足以上に太い尻尾が垂れていて、ぬたっ、ぬたっ、と動いている。鱗に包まれた尻尾はまるでトカゲ、いやワニだ。

 膨張した胸筋や大腿筋、に限らず全身が、浅黒いのを通り越してドス黒くなっている。もう生物の肌の色には見えない。硬質で、だがツヤは全くなく、錆びた金属のようだ。

 おそらく、更なる新種のドーラッグによる変質なのだろう。もしも、人体にこんな変異を起こさせる薬物が量産されて、人間社会に広がったら……考えるだけで恐ろしい。

 この山だけではない、この国の為、そして全世界の人類の為にも、今ここで黒幕の企みを阻止せねばならない。と、アキカズやカナエが、そうやって決意も新たに闘志を燃やした時。

 ドズゥンドズゥンと、続けて、降ってきた。新たに二人、いや二匹の、同じ生物が。

「……な」

 最初のと合わせて、計三匹が並んだ。混乱するアキカズたちに戸惑いの声を上げる暇も与えず、三匹の魔獣が、

「グアアアアアアアアァァァァ!」

 大口を開け、六本の腕を振りかざし、襲って来る。

「大地の神様、御力をっ!」

 カナエが地に手を着くと、ヴァンクーアたちの足下、踏み出したその地点その真下に、足首を掴む大きさの穴が空いた。二匹はそこに踏み入ってしまい転倒するも、一匹は素早く反応して大きく跳躍、上から襲ってきた。

 ヴァンクーアの狙いはテレイシアだ。テレイシアが、メルも、迎撃に跳び上がった。

 が、ヴァンクーアは六本の腕で殴りつける、と見せかけて太く筋肉質な尾を鎖分銅のようにぶん回し、二人を弾き飛ばした。まだ疲労が回復しきっていなかったテレイシアはガードが間に合わず、その小さな体のほぼ全てを太く長く強く硬い尾で打ち据えられ、地面に叩きつけられる。

 着地したメルが慌ててそちらへ向かうが、その時にはもう、先に転倒していた二匹が立ち上がっていた。もちろんダメージなどはなく、三匹のヴァンクーアが地を駆け、倒れたテレイシアとそれを庇うメルに襲いかかる。

 カナエが叫んだ。

「アキカズ! ルノマ! 行って!」

 ヴァンクーアたちに向かって走りながら火の玉を、風の刃を、飛ばすカナエ。だがそれらは、魔獣三匹のドス黒い硬質な肌に対して、殆どダメージになっていない。若干よろめかせる、少し体勢を崩して前進を邪魔する、のが精いっぱいだ。

 アキカズの気光の刀なら斬れるだろうが、相手は六本腕で尾もあってこの頑強さだ。しかも、いきなり三匹に増殖して現れたのである。まだ増殖するかもしれない。そもそも、アキカズ以外の四人は、山が今のままでは本来の力を発揮できない。そんなところへ、更にモンスターの援軍がきたりしたら、もはや絶望的だ。

 そのことを、触手の狼二匹との戦いを経ていたアキカズとルノマは、すぐに察することができた。二人は目配せも掛け声もなく、ルノマを先に、続いてアキカズが、その場から離脱して走り出した。

 二人に反応して、テレイシアとメルに向かっていたヴァンクーアたちが一瞬、足を止めてそちらを向く。その隙に、メルは地面に黒い玉を叩き付け、テレイシアを抱いて跳んだ。

 白い煙が爆発的に立ち込め、辺りを覆う。煙玉だ。ヴァンクーアたちの目が潰れているのは一目瞭然だから視界を遮ることに意味はない。が、煙には臭いもあるので、嗅覚を惑わせることはできる。

 もちろんこんなものはすぐに晴れるし、そもそも今、メルたちにとって危険なのは個別撃破されること。可能な限り、集まっていた方がいい。遠くへ逃げるのは愚策だ。

 その狙い通り、三匹が煙の中にいる間に、メルはカナエと合流できた。テレイシアも、ダメージは浅くないようだが何とか立ち直っている。

 それにしても、とカナエは思う。一匹が三匹に分裂したのに、強さは三分の一になるどころか、前よりも強くなっている。カナエたちにとっては、単純に三倍になった以上の厄介さだ。

 ヴァンクーア自身の製造、ドーラッグの栽培と精製、そしてモンスターの召喚と、ダークエルフたちの技術は恐ろしい。ダークエルフの里を一つ滅ぼしたヴァンクーアや、そんなヴァンクーアと組んでいるらしい黒幕のことを考えれば、ダークエルフ間での統率が取れていないのがせめてもの救いだ。が、だからといって考えなしに暴れているだけとも思えない。この異変を起こしている黒幕の、最終目標は何なのか? 

 などと考えている間にも、三匹のヴァンクーアによる猛攻は止まらない。まだアキカズたちは魔法陣を破壊できていないらしく、カナエの神通力は思うように働かない。メルも同様らしく、風を纏わせた手裏剣も忍者刀も、やはりヴァンクーアには有効打になっていない。

 逃げ、かわし、受け流し、何とか凌いでいるが、それもいつまでもつか……

「肉の精霊よ! 骨の精霊よ! 血の精霊よ! 全て纏めて、気合の精霊よおおおおぉぉ!」

 テレイシアの力強い声が、苦戦していたカナエやメルの、重い空気を切り裂いた。と同時に掻き消えたテレイシアの体が、ほぼ同時に三匹のヴァンクーアを三方向に蹴り飛ばして散らせたかと思うと、その内の一匹の頭上にようやく残像ではない姿を見せ、左拳を右掌で包み、その右掌で左肘を押し落として、ヴァンクーアの脳天を思いきり打ち抜いた。

「ガハ……ッ!」


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