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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第三章 遠~~くから来たエルフたち
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 どれだけの時間が経ったのか。モンスターたちに囲まれながら、ヴァンクーアと戦うテレイシアとカナエは、どんどん消耗していた。モンスターたちは僅かながら数を減らせたが、ヴァンクーアはまだ、ほぼ無傷だ。

 そもそもヴァンクーアだけで充分に強敵なのに、そのヴァンクーアと戦いながらモンスターたちにも対応しているのだから、苦戦させられるのが当たり前である。

 いい加減に、ヴァンクーアを何とか倒してしまわないと、確実にこちらが先に力尽きる。そう考えたテレイシアは、

「カナエ! 合わせて!」

 石を拾ってヴァンクーアの顔に投げつけながら、自身は一旦右に跳んでから、ヴァンクーアに突進した。カナエはそれを受けて、左に跳んでから、神通力で手に火を纏い、丸めて固めて投げた。

 ヴァンクーアから見ると、正面からは視界を塞ぐように石が、左からは地を蹴ったテレイシアの鋭い蹴りが、右からはカナエの放った火炎弾が、同時に殺到している。

「小賢しいっっ!」

 二度も同じ手は食わん、とばかりにヴァンクーアは、まず頭突きで石を砕いた。と同時に剣を振り下ろし、カナエの放った火炎弾を斬りにいく。

 この火炎は、ヴァンクーアの知る魔術の炎=魔力の塊とは違い、火の神様から借りた火を、カナエの気光で練り上げたものだ。ヴァンクーアの持つ魔剣は、魔力相手には効果が高いが、気光となるとそうはいかない。簡単に斬ることはできず、まるで激しい河の流れに剣を突っ込んだような抵抗があった。が、それでも、

「ふんっっ!」

 ヴァンクーアは強引に、筋力で剣を振りきり、刃を押し込み、火炎弾を斬り裂いた。火炎は空中で四散し、消滅してしまう。

 石を頭突きで砕くのとほぼ同時にここまで行ったヴァンクーアだが、カナエの攻撃に対処するのに時間がかかったため、流石に次の行動は同時とはいかなかった。

 正面に頭突きをした瞬間の、その無防備な横っ面に、テレイシアの跳び蹴りが見事に突き刺さる。が、多くのモンスターたちを殺せないまでも叩き伏せてきたテレイシアの蹴りが、ヴァンクーアには通じなかった。

「ぬるいわ!」

 ヴァンクーアの太い首が大きく振られ、テレイシアは弾かれた。ヴァンクーアは自分の顔面とテレイシアの足との真っ向勝負で、正面から押し返してしまったのだ。もちろんダメージなどない。

 テレイシアは、殴り飛ばされたわけでも投げ飛ばされたわけでもないので、難なく着地できた。こちらもダメージはない。だが、今の攻撃がヴァンクーアに通用しなかったことは、テレイシアの心にダメージを与えた。

「くううぅぅっ! あたしの精霊術が使えていれば、こんなことには……っ!」

 テレイシアが、地団駄を踏む。

「一瞬だけ、小さな一箇所だけでいい! この山の精霊力が、正常になってくれればっっ!」

『……』

 叫び悔しがるテレイシアに、カナエが駆け寄る。

 テレイシア自身、少なくとも今の自分の格闘術が全く通じないことは理解したはずだ。だが、この悔しがりよう。その表情や声に、負け惜しみではないものをカナエは感じた。

 まだまだ正確には正体不明だが、「古代エルフ王国の王女様」であるらしいテレイシアのことだ。何か、カナエの想像もつかない力を秘めていてもおかしくはない。

「ねえ。この山の状態では、一瞬だけ一箇所だけ精霊力を回復させても、すぐまた乱れて元通りよ。それでも?」

 テレイシアは、心底悔しそうに頷きながら答えた。

「そうよ! ほんの少しの間、あたしの周囲だけでいい! 本来の、この山のこの場所の、リューミヤクの精霊力を受け取ることができたら! あたしの本来の力が戻って、こんな奴に負けはしないっ!」

 そんなテレイシアにヴァンクーアは、

「ふん。悪いがオレには、全力のお前と正面から戦ってみたいとか、そういうカッコいい騎士道精神だか何だかはないんでな。今、お前が弱っているなら好都合。そのまま殺してやる」

 黒い魔剣をこれ見よがしに翳して、テレイシアの恐怖を煽った。

「そもそも、どうせオレには、この山の精霊? など、どうこうできないしな。そしてお前たちにもできないのなら、意味のない話だ。ああ、もしかしてアキカズにはできたりするのか?」

 からかうように言って、カナエを見るヴァンクーア。カナエはその目を見返して、

「できるわ、あの子なら。僅かの間、僅かの面積でいいなら、できる。乱され弱っている神様たち……精霊たちを、正常にできる」

「ほう。だが、奴がここにいないのではどうにもならんな。大人しく死ね!」

 と、踏み込んだヴァンクーアの剣は、カナエとテレイシアを惨殺されるのには使われなかった。横合いから飛んできた四条の銀光を弾くのに使われた。

 が、剣術の心得がなく怪力任せに暴れるだけのヴァンクーアには、その全てを叩き落とすことはできなかった。振り回される剣を掻い潜った一条が、ヴァンクーアの左目に命中。鋭さだけではなく厚さと重さを兼ね備えたそのモノは、ヴァンクーアの頭ごと揺らすほどの衝撃を与えながら、眼球に深々と突き刺さった!

「ガアアアアァァッ!」

 右手で剣をめちゃくちゃに振り回し、左手で顔を覆って、指の間から血を溢れさせながら、ヴァンクーアは後退した。ぐじゅっ、という水音と共に、左目に突き刺さったそれを抜き取って、地面に叩きつける。

 それは、普通の人間のこめかみにでも刺されば、頭蓋を割ることもできたであろう大きさと厚みのある、十字の手裏剣であった。

「姫様! 遅れて申し訳ありません!」

 宙で手裏剣四つを投げたメルが、テレイシアの傍に着地した。

 テレイシアの顔に、安堵と歓喜が浮かぶ。

「メル! 良かったぁ……あたしは大丈夫、あなたは?」

 メルもテレイシアの無事を確認して、ほっとした表情だ。

「ご心配をおかけしました。何ともありません。彼のおかげで」

 と、メルが指した先を、テレイシアは見た。カナエも視た。

 そこには、すっぱりと首を斬り落とされて倒れている巨大土竜と、何匹ものモンスターたちの死骸があった。そういえばいつの間にか、そちらへの援軍に向かったのか、テレイシアたちの方にはモンスターがいなくなっている。

 次から次へと斬りまくられるモンスターたちの、その中央には、黒い鎧を着て刀を振るう少年がいた。

「アキカズ!」

 今度は、カナエが歓喜の声を上げた。そのカナエの耳に、

「……アキカズだと?」

 ヴァンクーアの、怨嗟の籠った声が届く。

 まだ隻眼になったダメージから立ち直れていないらしく(視界の削減や遠近感の狂いなどだけではなく、頭部の衝撃で脳が揺らされたからだろう)、少しふらついている。が、カナエとテレイシアを相手にしていた時とは比較にならない怒気が、どんどん膨らんでいくのがカナエには感じ取れた。

 受けたダメージと、アキカズの到着とによる、ヴァンクーアの更なる凶暴化。カナエは恐怖しつつも、先程思いついたことを実行に移していく。

「二人とも、着いて来て! テレイシアの力、戻せるかもしれない!」


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