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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第二章 エルフ色々多種多彩
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 突如現れた増援二人に、モンスターたちの動きが止まる。

「ひ、姫様。あの……」

 言葉を発しかけたメルに、みなまで言わないで、とばかりにテレイシアが片手を上げる。

「とりあえず味方ってことで、今は信用して。……信用して、いいのよね?」

「ええ。アキカズも、方角は判ってるはずだから、じきに到着するわ。でも、あの子が到着する前に片付けるつもりでいくわよ!」

 カナエは神通力を高め、この場の神々の力を借りる。そして旋風の刃で空の敵を切りつけ、石礫の雨で地の敵を打ちつけ、モンスターたちを押していく。

 が、押していくだけだ。致命傷には遠い。通常のモンスターはまだ何とかなるが、触手を生やした別種たちは、ただ触手が生えているというだけではなく、体の耐久力そのものも強い。そのためカナエの攻撃では、歯が立たないとまではいかないが、なかなか倒せない。

 だがこれは、相手の強さだけが理由ではないと、カナエは感じていた。

「ああもうっ! ホントなら、わたし、もっと強いのに! この山でさえなければっっ!」

 カナエが上空で撃ち落とし、落下していったが空中で態勢を整えようとした巨大な怪鳥を、驚異的な高さのオーバーヘッドキックで叩き落したテレイシアが訊ねた。

「あなたも、なの? あたしは完全に使えなくなってるんだけど……」

 カナエはテレイシアに軽く目線をやってナイスフォローと伝えながら、休む間もなく次の敵へと対峙しながら、答えた。

「そうよ。この山の精霊力、わたしの国の言葉では神通力って名前だけど、それが弱ってる。おかげで、どうしてもわたしの術の威力が落ちてしまうの。わたしの場合、全く使えなくはないけど、あなたはコールドスの影響とか?」

「その通り……あっ!」

 怪鳥はまだ動いていたので、テレイシアはトドメに踏み潰そうとした。が、怪鳥の触手で足を払われ、その隙にまた上空へと舞い上がられてしまった。カナエの旋風とテレイシアの蹴りを喰らっても、まだ戦えるようだ。つくづく、バケモノな生命力である。

 メルも、風の精霊を纏わせた手裏剣と忍者刀で奮戦しているが、やはり苦戦している。こちらもカナエ同様、本来の威力は出せていないのだろう。

 徐々に三人に疲労が溜まり、溜まった疲労から焦りが、そして恐怖が芽生え始めてきていた。

 だがそんな時でも、神羅万象の八百万に通じるカナエの感覚網は、更なる敵の接近を素早く感知した。

「……! 危ない! 跳んで!」

 カナエが跳びすさりながら叫び、テレイシアと、そのテレイシアに寄り添う形でメルも、カナエと反対側に跳んだ。

 その一瞬後、三人が背中合わせに立っていたその地点に突如、間欠泉のように地を割って、長大な刃が突き出された。

 それは長く厚く鋭く、そして黒い剣だった。続いて、その剣の持ち主の手、体も出てくる。

「ちっ、かわしたか」

 ヴァンクーアだ。つい先ほどドーラッグを食べたばかりで効き目が最高潮なため、アキカズと戦っていた時よりも筋肉が盛り上がっている。

 今、ヴァンクーアは強化された筋力と魔剣の力を駆使して、土中を掘り進んで奇襲をかけた。だがヴァンクーアの奇襲は、この一手だけではなかった。

「! 姫様っ!」

 空中でメルが気づき、テレイシアを掴んで投げ飛ばした。ヴァンクーアの奇襲から身をかわした二人だったが、そうして跳んだその先にも、地中からの第二の奇襲が来ていたのである。二人で押し合って左右に分かれれば、二者択一で敵の狙いがテレイシアに向いてしまう可能性がある。だからメルは自分だけが動かず、そのまま敵の攻撃を受けることを選んだのだ。

 テレイシアを逃がして、一人で落下していくメルの、その眼下には、大きな大きな口が開かれている。

 それは土の竜、土竜、モグラであった。どこからどう見てもモグラだ。が、信じ難いほどの巨体である。もしもその全身が空洞であれば、焚き火をして食事をして一晩ゆっくり休めそうなほどに。そして、そんな巨体の一部と思いながら見てもなお、気持ち悪いほど不釣り合いに、口が大きい。メルとテレイシアとの二人はもちろん、それを二組にして計四人ぐらいを、一口でゴクンと飲み下せそうな直径と奥行きがある。

 こんな奴の胃袋に落とされたら、どんなことになるか判らない。メルは刀を逆手に持ち、巨大モグラの舌と下顎を貫いて突き刺した。それで落下を防ぎ、その刀の柄に懸垂をして上がろうとしたのだが、

「あっ……!」

 メルの両手両足に、太い触手が絡みついた。巨大モグラの背から生えた長い触手が、モグラ自身の口の中まで伸びて、そこにぶら下がっているメルを縛り、下へ下へと引いているのである。口の中だからモグラ自身にも見えなかったせいか、それとも届かないのか、触手が首に巻き付かなかったのは幸いだ。また、何本もの触手がそこにあるから、このままならメルが噛み砕かれる心配はない。

 だが、メルの体を引き下ろしにかかっている触手たちの力は強い。このままでは、いずれメルは力尽きて引っ張り落とされ、飲み込まれて胃袋行きだ。

「メル!」

 テレイシアがメルを助けに行こうとするが、その前にはまだまだモンスターたちがいる。触手を生やした強化版もいる。

 そして、それらのボスもいる。カナエが真正面から向かい合った。

「……アキカズが言ってた、ブラックエルフのヴァンクーアね」

「ほう。お前、アキカズの仲間か? そりゃあ生かしておけんな。しかも、」

 どけえぇぇと叫びながらモンスターたちに悪戦苦闘している、テレイシアを見てヴァンクーアは言った。

「あの時、茂みの中に見えた、あの髪にあの服。オレに石を投げたのはあいつだな。こんなに早く会えるとは思ってなかったぞ。手間が省けて助かった」

 ヴァンクーアは黒い魔剣を眩しい日光にギラつかせ、これ見よがしにカナエに向けた。

「お前もあいつも、この場でバラバラ死体にして、アキカズへの土産にしてやろう。いくぞ!」

 といってヴァンクーアはカナエに斬りかかる、と見せかけてぐるりと方向転換、モンスターたちと戦っているテレイシアに襲いかかった。

 カナエには背を向けているが、ここでカナエが一撃を浴びせて、それで倒せなかった場合、ヴァンクーアの攻撃が無防備なテレイシアに刺さる。アキカズから聞いているヴァンクーアの怪力、その武器の巨大さからくる破壊力を考えれば、テレイシアがまともに一撃を受ければ、即死は間違いない。

 カナエは、両手を地面に着けた。

「大地の神様、御力を!」

 カナエの祈り、カナエの神通力が地中に作用した。ヴァンクーアが一歩踏み出したその足下に突然、足首が埋まる程度の浅いものだが、落とし穴が発生する。

 ヴァンクーアにとっては、走っている最中、足首を掴まれたようなもの。テレイシアに向かってダッシュしていた勢いもあり、止まることはできず、思いきり転倒した。

「がっっ!」

 顔面から激しく地面に激突した、その激突音にテレイシアが気付いて振り向いた時、倒れたヴァンクーアを回り込んで、カナエが傍に来ていた。

「メルを心配する気持ちは解る、なんて軽々しくは言えないけど、今はこっちに集中して。わたしたちがやられたら、どうせ全滅よ」

 起き上がったヴァンクーアが、怒りを込めて二人を睨みつけている。その形相、その殺気に、テレイシアは圧されながらも負けじと拳を握り締め、気を引き締めた。

「解った。助けてくれてありがと。先にこいつを仕留めればいいのね」

「理解が早くて助かるわ」

 テレイシアとカナエは並んで、雄叫びを上げるヴァンクーアに向かっていった。


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