異世界・オブ・ザ・リビングデッド
天野さんは光線を放出したまま腕を振り回して、その場にいた異世界人たちをなぎ倒してしまった。あまりの予想外の事態に、私も含めてクラスのみんなは呆気にとられて声も出せなかったが、まもなく女子たちから悲鳴が上がった。事態をいち早く理解した者たちは、床に伏せて頭を腕でカバーした。
天野さんの光線が止まったときは、その場にいた異世界人たちは全員死んでいた。スプラッター映画でもあまり見ないような凄惨な光景がリアルに目の前にあった。女子の半分ぐらいは泣いていたと思う。
そのとき大竹さんが、天野さんに向かって叫んだ。
「天野さん、何やっているのよ! 王様に証拠じゃなくて光線を突きつけるなんて!」
それを聞いた青木がぼそっと呟いた。
「へえ、大竹さんってゲームやるんだ」
いやまあ、確かに大竹さんはそういうタイプに見えないが、今感心すべきことではないだろう。だが青木以上にぶっ飛んでいたのは、やはり天野さんだった。
「何か問題がある?」
「問題だらけよ。こっちの人たちの協力がなければ、私たち日本に帰れないのよ!」
大竹さんは冷静かと思ったら、案外そうでもなかったようだ。
「こちらの人間は私たちを帰すつもりはないわよ。戦争の駒として死ぬまで使い潰すつもりだから」
「天野さんになぜそんなことがわかるのよ?」
「彼らには前科があるから。この世界の人間たちはちょっと困ったことがあると、すぐに異世界召喚に頼る癖があるの。異世界召喚は本来は禁忌なんだけど」
魔王による侵略って、ちょっと困ったことの範疇なのだろうか? それとも王様が嘘をついていたのだろうか?
「だから、天野さんはなぜそんなことを知っているの?」
私は二人の会話が口論にエスカレートしつつあるのを危惧して、割って入ることにした。
「大竹さん、落ち着いて」
「私は落ち着いているわよ!」
「いいや、落ち着いてない。今の大竹さんはらしくないよ。普通の人間は指先から殺人光線なんて出せないよ」
私がそう言うと、大竹さんは口を閉じて天野さんと私を交互に見始めた。
「それは違う」と天野さん。「あれは殺人光線ではない、破壊光線」
本人にはこだわりがあるのかもしれないが、ぶっちゃけどっちでもいい。
「話したことなかったけど、天野さんって天然なのか?」
青木が私にそうささやいた。私に言わせれば青木もそうだと思うが。
「ひょっとして、天野さんは以前にもこの世界に召喚されたことがあるんじゃないかな」
天野さんイコール召喚経験者説に自信を持ち始めていた私は、思い切って訊いてみた。
「なぜそう思うの?」
「普通の人間にはさ……破壊光線は出せないし、天野さんはこの世界のことを知っている。それに帰還魔法も使える」
後の二つは本人の自己申告だけだから証拠にはならないが、それを言っても天野さんの機嫌を損ねるだけだろう。
「なるほど。私が以前にもこの世界に召喚されて破壊光線を身に着けたあと自力で日本に帰還して、また召喚されたと考えれば全ての説明がつく、というわけね」
この天野さんの言葉を聞いて、クラスの何人かは納得したような表情になった。
「でも残念、私がこの世界に来たのは今回が初めてよ」