その召喚に異議あり!
こんな話をしても誰も信じてくれないと思う。よくて厨二病扱い、下手をしたら病院送りになってしまう。でもどうしても記録として残しておきたかった。だから小説という形でネットに書き残しておくことにした。
当時高校生だった私はクラスまるごと異世界召喚というやつを経験した。なろう系によくあるテンプレそっくりだったので、詳細は割愛する。
私たちは異世界の王様の前へ連れて行かれた。王様いわく、魔王が率いる魔族の軍隊の侵略を受けているから助けてくれということだった。ここらへんもテンプレ通りだが、私の高校は進学校でヤンキーなんかはいなかったので、王様の発言をクラスの誰かが遮るテンプレ展開はなかった。
ここでクラスのリーダー的存在の大竹さんが手を上げて発言を求めた。こういうのは後で勇者のクラスとかスキルをもらうイケメンで長身の男というパターンが多いが、大竹さんは女だ。それでも170センチ台半ばという長身の美人なので、テンプレからはそれほど外れていない。ただテンプレでは成績優秀で部活は運動部に所属している文武両道というパターンが多いが、大竹さんは成績は優秀だったが帰宅部だった。文武両道なんて現実にそうそういるわけがない。
大竹さんは元の世界に帰れるのかと質問した。この質問もテンプレだが、それに対する回答はテンプレでも何パターンかある。このときは魔王を倒して特定のアイテムを手に入れないと帰れないというパターンだった。
これを聞いてクラスのみんなが騒がしくなった。自分たちを無理やり戦わせるために嘘をついているんじゃないか、みんながそう疑ったからだ。ここもテンプレの範疇だと思う。
だがここからテンプレからの逸脱が始まった。一週間くらい前に転入してきた天野さん(女)がいきなり王様を指さしてこう言ったのだ。
「異議あり! 帰るのに魔王のアイテムが必要というのは嘘ですね」
私の隣りにいた青木(男)はそれを聞いてこう呟いた。
「おいおい、逆転◯判かよ」
だが私は別のことを考えた。ひょっとして天野さんは以前にも異世界召喚を経験しているというパターンではないかと思ったのだ。異世界召喚を経験しているのであれば、当然帰還も経験しているはずだ。それなら王様が嘘をついているのを見破ることができる。
「余が嘘をついていると申すか? 不敬であるぞ!」
それまで温厚に話していた王様が逆上して怒鳴った。クラスのみんなの大半は王様を怒らせたことにハラハラしていたが、一部は天野さんがどんな証拠を突きつけるのかとワクワクしているようだった。
「私は帰還魔法が使えるのです!」
これは召喚経験者のパターンかと思った瞬間、天野さんの指先から光線が出て、王様の頭を吹き飛ばしてしまった。