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わたくしと合戦準備

 アグリオスが別邸に突然押しかけて来た翌日、わたくしは朝からアグリオスとの対決に備えその準備に追われていた。


 その時間を提示したのはわたくしでアグリオスもそれをすんなり承諾したと、昨日の騒ぎが収まった後に眼鏡君が伝えに来たまではよかったのだが、当日になってみれば使用人なしで自分の身支度に加え、人を迎える準備で大忙しである。


 掃除は昨日のうちに魔法でなんとかしたが、やはり広い建物全ての隅から隅までやると時間もかかるし疲れるので、アグリオスがさっさと帰ると信じて玄関から応接室に移動するまでに目に付きそうなところだけ。


 それから玄関の封印は解いておいて、しかし何があってもいいようにアグリオスを迎える応接室には迎撃用の罠や護身用の付与を仕掛けて――アグリオスはともかく、アグリオスの取り巻き一号のフィリップ・カバーンは学園時代の態度や昨日の玄関を力尽くで突破しようとしていた様子からして、あまり深く考えることなく行動タイプっぽいですからね。

 権力を持つ者が味方だと思っている時は、自分自身に力があると勘違いしている残念なタイプ。

 ドラゴンの威を借るグリフォンのような小物男で、アグリオスよりこいつの方が、感情任せに何かやらかしそうで要注意ですわ。



 おかげで今日は朝から身支度に追われることに。

 わたくしに興味のない夫のために着飾るなんて癪に障りますし、そもそも面倒くさいのでシンプルなドレスでほどほどにしておきましょう、ほどほどに。

 シンプルなドレスでほどほどでしたら、使用人の手伝いなどなくともわたくし一人で着られますからね。


 といっても公爵家が用意してくれたドレスはゴテゴテとして派手なものか、フリルたっぷりの妙に可愛いものばかりでわたくしの好みのものが少ない。

 少ないだけで全くないわけでないので、その中からわたくしの好みに近いシンプルで上品、そして何より動きやすそうで一人でも楽に着られそうなドレスを選んだ。


 上品な青色がベースのマーメイドラインのドレス。

 ただ夏物なのでガッツリと肩が出ていて少し寒そうなので、ドレスの色に合わせて薄い青色のレースのショールを羽織っておきましょう。


 化粧も面倒くさいので眉を整える程度の薄化粧で……ああ、でもここ最近の冒険者活動で少し日焼けをしてしまいましたから、それを誤魔化す程度には粉をはたいておかないといけませんわね。

 粉をだけだと病人みたいなので目の周りと頬に明るい色を差し唇にはベージュ寄りのピンクで光沢のある紅でいいかしら。


 化粧品も公爵家で用意してくれているもので、上質なものばかりやたら種類が多いのはさすがですわね。

 実家でろくに使用人も付けてもらえなかったおかげで、化粧も少しくらいなら自分でできましてよ。

 当時は義母のことをおクソババアとか思っておりましたが、おかげでこうして一人で身の回りのことができるようになったのはある意味ありがたいことなので一ミリの万分の一くらいは感謝して差し上げましょう。


 髪の毛は複雑な髪型は無理なので、そのまま降ろしてしまいましょう。

 あら、あらあらあらあら……ここのとこ毎日三つ編みをしていたので、もともと癖の強かった髪の毛が更にうねうねしてしまいましたわ。

 ま、そういう髪型ということにしておいてもバレないでしょう。



 アグリオスを迎える準備と自分自身の身支度は完璧なのだが、一つ大問題が発生してしまった。


 その大問題とは――別邸に使用人がいないということ。


 アグリオスと面と向かって話し合いなので、わたくしが一人二役をするのは無理。

 先日眼鏡君相手に使った方法は、学園時代に武術関係の成績が良かったアグリオスには通用しないだろう。

 というかあんなガバガバで誤魔化されるのは眼鏡君くらいでは?


 さて、困りましたわ。


 さすがに客人にお茶を出す使用人くらいいないのは不自然ですよね。

 しかし無い袖は振れないので、そこはすっぱり諦めて別の方法を考えましたわ~。




 眼鏡君へ


 本日、わたくしは母の従兄弟の曾祖母の弟の孫の再従兄弟の葬式で臨時休暇を頂きましたので、わたくしに代わってアグリオス様を応接室に案内をしてお茶を出す役をお願いします。

 お茶っ葉は厨房のいつもの棚に入っている緑色の箱に入っているものでお願い致します。できるだけ濃いめに淹れて下さい。

 すごく苦くて渋いかもしれませんが、東方で常飲されているそういうお茶ですので気にしないで下さい。

 お茶菓子はそこの大根の漬物でも出しておいて下さい。


 マルガリータより




 なんという完璧な手紙。

 どうせアグリオスが別邸に来る前に、先振れも兼ねて眼鏡君が少し早めに来るでしょうし、眼鏡君なら厨房側の勝手口から勝手に入るでしょうから厨房にこの手紙を置いておけば完璧ですわ~。






「ちょっとちょっとちょっとおおおお!? マッマッマッマルマルマルマルグリット様ぁ!?」

 身支度を終わらせた後はアグリオス様とその不愉快な下っ端達を迎え撃つべく、本日の戦場である応接室の最終チェックを念入りに行っていた。

 そこへノックと同時に飛び込んでくる騒がしい男。


「返事も待たずに入ってくるなんて、マナーがなっていないうえに、落ち着きのない眼鏡ですわね」

 マルガリータではすっかり見慣れている眼鏡君だが、マルグリットとしてまともに顔を合わせるのは今回が初めて。

 先日はカーテン越しでの面会でしたからね……にも拘わらず初っぱなから騒がしい男ですわね、クロード・レック。


「あああああ~~~、急いでいたのでつい! 思わず! うっかり! ノックの返事を待たずに突っ込んじゃいました!  あ、一応はじめまして? というわけでもないのですが、先日はカーテン越しでしたので、念のため! 眼鏡ではなくクロード・レックです! そそそそそんなことより、これは何なんですかーー!!」


「何なんですかと言われても、マルガリータに聞いて下さいませ。わたくしはマグリットですので何もわかりませんわ。そこに書いてある通りに、お茶を淹れてお茶菓子を出せばよろしいのではなくて? それより貴方、アグリオスがこちらに襲来する先触れできたのではなくて? 騒いでいるお時間はありますの? 早くお茶の支度をされた方がいいのでは? 今日は使用人がお休みなので応接室の方の準備はわたくしがやっておきますわ。ええ、とても念入りに」


 眼鏡君の手には、わたくしが厨房に置いておいた手紙がしっかりと握られている。

 そして騒がしいながらも、お茶とお茶菓子の載った配膳台が用意されているのは優秀である。

 あら、アグリオスに出すお茶菓子など大根の漬物で十分かと思っていたのですが、別のお茶菓子を用意したみたいですわね。

 しかしその手紙についてはわたくしではなく、メイドのマルガリータが書いたものなのでわたくしはよくわかりませんわ~。


 お茶菓子の準備もしてくれたみたいですし、後はアグリオス達がやってくるのを待つだけ。

 先触れの眼鏡君が来たということはそろそろアグリオスもやって来るだろう。


 その前に護身用を兼ねて仕掛けておいた罠を念入りにチェックしておかなければ。

 絨毯にそこを踏むと風魔法が発動してフワッと足が浮く付与をしただけの魔法罠なので、パッと見ではわからないはずだ。

 アグリオス側からわたくしのいる方へ踏み込もうとしたら、そこを踏んだ方の足がフワッとしてすっ転ぶだけの可愛い罠ですわ。


「応接室の準備? 見たところ掃除も行き届いているようですし、他に何か準備すること何てありま……すっ!? は? はあああああぁ!? ちょっと!? 何ですかその絨毯にこっそり忍ばせてある魔力! これ、付与の痕跡ですよね!? 何やっちゃってるんですか!? あっ、飾ってある美術品や壁に掛かっている絵画にも何か付与の痕跡がぁ~」


 チッ! 悔しいけれど仕事はできる眼鏡のようなので、はやり気付いてしまいましたわね。

 これだから、勘のいい眼鏡は嫌ですわ。


 どうしましょう、やはりアグリオスの手下なので罠を解除するように言われるか、もしくは罠のことはアグリオスに報告するか。


「あああああああ~、足元はここだけですね。他に僕が引っかかりそうなものはないですよね!? ないならもう時間がないのでこのままいきましょう。見たところ普通にソファーに座っていれば発動しないものばかりですし」


 え? 手下君!? それでいいの!? 自分に被害がなければそれでいいの!?

 わたくしにはその方が好都合ではありますが、あの腰巾着男といいアグリオスはもう少し部下をちゃんと選んだ方がいいのではないかしら?



 ポーーーーーンッ!



 爪の先くらいアグリオスに同情しそうになったところで、玄関に取り付けられている呼び鈴型魔導具が鳴る音がした。

  

お読みいただき、ありがとうございました。

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