99.百合展開だと主人公はイチコロでモブになる
カミーユのセリフは漢字以外はカタカナで表記していましたが、読み易さを考慮して、他の登場人物と同様、平仮名にさせていただきます。
「おいしぃ〜っ! 何ですかっ!? この真っ白な色からは想像できない濃厚は味はっ! 本当、日本のラーメンは最高ですっ!」
「よかったら餃子も食べてねっ」
「いいんですかっ!? ありがとうございますっ! ……ああ〜っ。お母さんがたまに作ってくれるラーメンも美味しいですが、何かこう……日本の深みを感じる味ですっ!」
ひなたは感激しながらラーメンを食べるカミーユに満足し、自分もその味を堪能していた。
「ところで、ひなたさんは何の美少女ゲームが好きですか?」
「私はけっこう古いのが好きで……え〜っと、『クラナデ』とか、『ストロベリーパラダイス』、あと『さかあがりタイフーン』とかが好き。知ってるかな?」
「あ、『クラナデ』は名前聞いた事あります! 確か伝説の泣きゲーなんですよね?」
「そう! あれやってた時は、よくコントローラーを涙と鼻水で濡らしちゃってたな……」
ひなたは、すっかり社会人としての生活に馴染んでいる今とは違い、昔のゲーム三昧の日々を思い出し、懐かしさを感じていた。
「でもね……今はやってないんだ。仕事するようになってからなかなかゆっくりゲームする時間がとれなくて……。私、いざゲーム始めちゃうとある意味普通の生活が出来なくなる位、没頭しちゃうから。今は人の動画を見るばっかりで。でもそれはそれで楽しいよ」
「そうなんですか〜っ。ひなたさんは、何のお仕事をされてるんですか?」
「私は公務員」
「コウムイン?」
「警察署で働いてるの」
「ええーっ! コップですかっ!? すごいですっ! バッグか服の下に拳銃持ってるんですか?」
「いやいや、持ってないよっ。非番……お休みの日は持ってないよ。でも休みの日でも外を歩くとつい、無意識に不審者はいないかってパトロールしてるみたいな気分になる時があるよ。」
ふと、以前非番の日に盗撮犯を捕まえた事を思い出してしまう。
自分で選んだ警察官という職業、しかし初めて目の当たりにした恐怖に向き合い、少しだけ強くなれた事、そしてそんな自分を助けてくれた袴田の顔が、ふいにフラッシュバックする。
ー あれ? 今なんで、私 ー
「ひなたさんは私の中ではインターハイの陸上選手だったんですけどねっ! でも警察官もカッコよくて素敵ですっ! 新しいキャラですっ!」
「キャラって……ははっ。」
「カミーユはどんなのが好きなの?」
「オホン。私はですね……けっこうマニアックなものが好きで、『キラキラくるる』と『Doki Doki 新聞部』に、あと最近ハマってるのは『輝け!私の乙女ロード』ですかね。どれもタイトルの割にグロいシーンやドロドロの展開があったりするんですけど、一風変わったようなのが好きです! あと最近は……実はBLものにもハマってますっ。いけない感じがたまらなく好きなんです!」
流暢な日本語で、何のてらいもなく自らのディープな好みを話すカミーユはどこか好感が持てる。きっと純粋に美少女ゲームが好きという気持ちから話しているからだろう。誰に遠慮するでもなく、素直に自分の好きなものを話せる、そんな人柄がひなたには魅力的に見えた。
「そっかっ」
「はひっ」
ズルズルと美味しそうにラーメンをすすりながら返事をするこの美少女は一体、どういった経緯で美少女ゲームにハマったのか……きっと現実世界でもモテモテだろうに……。
現実でも二次元でもモテモテなこの美少女に、また次に会う機会があれば会いたいな、とひなたは思った。
「ひなたさんのお友達で……」
「ひなたでいいよっ。それに敬語じゃなくてもいいよっ」
ひなたはもっとカミーユと近づきたくなって、思わずそう言ってしまった。
「あっ……うん! ありがとう! え〜っと……ひなたの友達で、美少女ゲームやってる人、いるの?」
「いや〜っ。なかなかいないねぇっ。大学の時は一緒にやってた友達はいたけど、今はまだやってるのかよくわからないし……あっ! いやいやっ! いるよいるよっ! 美少女ゲーマー!」
ひなたは、どうしてすぐに出てこなかったのだろうと自分を疑ったが、あの美少女プレイヤーをカミーユにも知ってもらいたくて思わず興奮ぎみに話す。
「知り合いの人がYou chubeで美少女ゲームの実況動画をアップしてて……」
「え〜っ! そうなのっ!?」
「うん。『さと寸の美少女ゲームチャンネル』っていうんだけど、面白いよっ。私は自分でやるとどんどんハマっちゃうから、代わりにその人の動画を見て楽しんでる。カミーユもよかったら見てみて? 面白いよっ。いろんな意味で。けっこうはちゃめちゃな実況しててね」
「わかった。見てみるよ! その人、知り合いなら、私も会える?」
「うん。その時は紹介するよっ」
「ありがとうっ! 今日はひなたに出会えて、美味しいラーメン食べれて、私は幸せだよっ! ラッキーな日だっ!」
「私もだよ。こんな可愛い美少女に出会えて、嬉しいよっ。ありがとうね。」
ひなたはまたカミーユと会う目的が作れたような気がして思わず笑顔が溢れ出す。
「はぁ〜っ! 美味しかった! ひなた、ありがとう!」
「いえいえ、喜んでもらえて満足だよっ」
2人はラーメン屋を出ると、このまま別れる事はせず、何となしに2人揃って秋波原の街を目的なく歩きはじめた。
「ひなたはよく来るの? ここに」
「うん。たまにね。やっぱり秋波原は来ちゃうね。ホームタウンみたいな、私の青春がいっぱい詰まってる場所だから。カミーユはよく来るの?」
「まだ1回しか来てないよっ。あっ! そうだ! 私アニャメイトに行きたかったんだ! よかったら一緒に……」
「いくいくっ! 私も随分行ってなかったから行きたいっ!」
カミーユの提案を聞き終わる前にひなたは食い気味に返事をした。
カミーユはひなたのまっすぐでキラキラした瞳に、優しい微笑みで応えた。
「ありがとっ。じゃあ、行こっ!」
「うんっ!」
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2人はほどなくしてアニャメイトにたどり着き、カミーユは目の前にそびえ立つ、ずっと来たかった場所に来れた喜びを噛み締めていた。
「ここがアニャメイトか〜っ! おっきいな〜っ!」
パシャパシャッ!
パシャッ!
カミーユは興奮して、周りの通行人を意に介さず、あらゆる角度からアニャメイトの写真を撮っている。
通りざま、道行く人々はカミーユの美少女っぷりに目を奪われながら通り過ぎて行く。
自分に降り注ぐ視線にまるで気付かない美少女はどんどん写真を撮り続ける。
周りの通行人にペコペコ頭を下げていたひなたは、苦笑いを浮かべながら、
「もういいかなっ? いくよっ。カミーユ、入ろっ?」
「うんっ!」
満足したカミーユと、そんな美少女をアテンドするひなたは、アニャメイトに入ると最上階から各コーナーを見て周り、それぞれの好きなものを教え合い、お互い知っている共通のアニメやキャラクターに出会うと嬉々として騒いでいた。
ゲームコーナーの階では、美少女ゲームのコーナーに入るやいなや、互いに目の色が変わり、ひなたは懐かしの良ゲーを探し、カミーユは新作のコーナーへそれぞれ足を運んでいた。
「うわ〜っ。本場のゲームコーナーは一味も二味も違うなっ。やっぱりネットで見るよりもこうやってお店で見たほうが全然いいなっ!」
カミーユは店内に陳列されているゲームの量に圧倒され、興奮のあまり人目もはばからず夢中で新作ゲームを一つずつ目を通し、吟味していた。
夢中でゲームを物色をする美少女にはもう美少女ゲームしか見えなかった。
その時 ー 。
ドンっ!
「あっ!」
「アイュ(痛い)!」
比較的静かな店内にカミーユの声が響く。
一つ向こうのコーナーでゲームを物色していたひなたは、カミーユの声が聞こえた途端、すぐさま美少女の元へ駆け付けた。
「カミーユッ!?」
膝をさすっているカミーユはどうやら人とぶつかって転んだらしく、しかしすぐに立ち上がった。
ぶつかったであろう、そばにいた男性が思わず声を掛ける。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「はいっ……。大丈夫ですっ。すいません。私、周りが見えてなかったです。あなたも、大丈夫ですか?」
「あ、俺は大丈夫です」
「よかったです」
「本当、すいません」
「いえ、私の不注意でした。ごめんなさいっ」
カミーユは男に一礼した後、ペロっと舌を出し、ウインクしながらその男性に微笑んだ。
絶世の美少女からの謝罪&必殺スマイルに思わず相手の男は、
(……!!
な・なんだこの子は……
めっちゃくちゃ……めっちゃくちゃに可愛いじゃねえかっ……!!)
「あれっ……?
うん? さと寸さん?」
男は駆け寄ってきた女性の方を向き、
「あれっ? 高橋……さん?」
(……?
さと…すん……??)
カミーユは驚いているひなたのセリフに、ついさっき聞いたような言葉を思い出す。
「うわ〜っ! すごい偶然! さと寸さんも秋波原来てたんですねっ! あっ! ちょっと待って! カミーユ、大丈夫!? ケガはっ!?」
「うん。全然大丈夫だよっ! ありがと。
ひなた、この人、知り合いなの?」
「うん。さっき言ってた、さと寸さんってこの人だよ。……あ、さと寸さん、この子はカミーユ。フランスからの留学生でさっきゲームセンターで知り合って、意気投合して一緒にアニャメイトに来たの」
「私、カミーユです。よろしくお願いしますっ!」
キラッキラの笑顔を見せられた悟は一瞬、時間が止まったかのような錯覚をした。
「………! あっ! は、はいっ! よ・よろしく……」
(うっぎゃ〜っ!!
マジかよマジかよ! なんだこの子は……! こんな可愛いさ……アリか!? アリなのか!?
こんな美少女……マジ、夢……レベルだ)
「てへっ♡」
挨拶がわりに改めて悟にウインクをする絶世の美少女は、目の前でたじろぐ悟をいとも簡単に虜にしてしまった。




