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98.ひなたの場合



 高橋ひなたは考える。



 ここぞという時の人生の大事な決断の瞬間は、誰にでもある。ひなたはいつも人生の道筋、目標、大体の行きたい場所は決まっていた。そしてそこに向かう時は、本来の天真爛漫な性格もあってか、周りの状況に左右されたり、自分の考えがブレることはない。ない、のだが、大雑把すぎるのだ。照準が。ピント合わせが。

 まあでもしかし? 大体の事は上手くいってきたし、ある程度自分の人生の充実度合いでいくと結構満足しているほうだ。

 人生で起こる様々な障害や問題は、実際その時になってみないとわからないものだし、問題が出てきた時、その都度その都度微調整しながら対処してきた。

 しかしひなたは今、考えなければいけなかった。


 目の前にあるUFOキャッチャーの景品に埋もれている、お気に入りのキャラを救い出さなければならない。



 もう少し右か。左か。

 前か。はたまた後ろか。



 こういう時は一番やってはいけない事がある。

 「考え過ぎ」だ。



 それで良い結果が出る事もあるだろうが、ひなたの場合は、どうもそれは上手くいかない。ひなたの性格上、そうするとおかしな方向へいってしまうと自分なりの人生経験で、それを肌で感じていた。



「うん。やっぱりこのままで」



 深呼吸をして意を決し、人差し指をかざす。



「いっけっ! どうかお願いっ!」



 祈るような思いでスタートボタンを押す。


 カチッ。



 UFOキャッチャーのアームは流れ作業の如く、ゆっくりと動き出し、ひなたの狙う獲物の頭上へと降りて行く。



 ウィーン。……ガッシャン。

 ズズズッ……。ググググ……。



 アームはひなたの狙い通り、お目当ての獲物を掴む。



「そうっ、そうよ……! そのままっ! そのまま上にっ……!」



 が、しかし……。



 ガチャン。ズルッ。

 ……スーッ。カコン。



 アームは獲物を持ち上げた瞬間、掴んでいた力が不十分だったためか獲物はスルリとその「手」からこぼれ落ちた。そのまま虚しくもアームはひなたの目の前にある受け取り口で、何も持っていないその手を広げる。



「あ〜っ! なんでなんでっ! もう〜っ。まただ……。もう、やんなっちゃう……」



 ひなたはUFOキャッチャーの腕前には自信があった。しかし、いうほど狙った獲物を取ってきたかというと、そうでもない。ただ、好きなのだ。UFOキャッチャーが。

 そこに楽しみがあると、それだけで不安な気持ちはない。そんな気持ちがひなたのUFOキャッチャーへの自信だった。それも結構。が、しかし、今日はもう三千円も費やしてしまい、ひなたのメンタルは軽くやられていた。


 もう、今日は餃子食べて帰ろうかなと思った瞬間、斜め後ろのUFOキャッチャーから声が聞こえる。



「マジか。すっげえな……」


「何であの角度から狙えるんだ?」


「お金払って代わりに頼みたいわ」


「っていうか、あの子、めっちゃ可愛くね?」



 ひなたは声がする方へ振り向くと、何人かのギャラリーが一人の女の子の周りを取り囲んでいた。

 気になったひなたはその台へ行き、ギャラリーに混じってその様子を伺う。


 ギャラリーの見守る中、アームはおそらく狙っているであろう獲物の少し横に降りて行き、このままいくと少し狙いがズレるんじゃないかと思っていたが、アームは器用に獲物の背中についているタグの輪っかに入っていき、そのまま獲物本体ごと持ち上げた。



「うわっ。すごいっ」



 みんなが見守る中、ひなたは思わず声が出てしまったが、ギャラリー達はそんなひなたの声を意に介さず、アームの動きを見つめている。


 そしてそのままストン、とアームは隅の穴へ獲物を落とし、受け取り口から景品が出てきた。



「おお〜っ」



 思わず息を飲んで見守っていたギャラリーから拍手の音が上がる。



 女の子は景品を手にして振り返り、ギャラリーの方へ軽く会釈をしたその瞬間、一瞬、場の空気が固まる。



 UFOキャッチャーの腕前に見惚れていたギャラリー達は、今度はその女の子の容姿に見惚れてしまっていた。



「うわっ。可愛い……」


「えっ……マジかよ」


「綺麗な顔……。ヨーロッパ系の人かしら?」


「アリガトウゴザイマス。ヤッパリ日本ノUFOキャッチャーハ本当ニ楽シ過ギマス!」



 誰に人見知りすることなく、眩しい笑顔を振りまくその天真爛漫さは、どこかひなたと通じる所があった。



(すっごい綺麗な子……。2次元美少女のモデルさんみたい。それに本物の金髪ってやっぱ何か違うな〜っ。旅行か何かで来てるのかしら)



 ひなたはそう思いながら美少女を見つめていると、視線に気付いたのか、美少女はふとひなたの方へ向き、2人は目が合った。



 美少女はひなたにウインクをし、一瞬、ひなたは戸惑いながらも美少女に微笑み返す。


 すると、美少女はツカツカとひなたのほうに近づいてくる。



 (……えっ? 私? 私のほうに向かってる?)



 内心ひなたは驚きながらも、微笑んだ状態のまま、美少女が来るのを待ち構えていた。


 

 美少女はひなたの前に立ち止まり、顔をジッと見つめて、



「アナタ、サテハ陸上部のインターハイ選手キャラデスネ?」



( ー うん?)



 何を言っているかわからないまま、ひなたは思わず切り返す。



「わ……私が?」


「ハイ。ソノショートカット、アナタノスタイルノ良サ、見ルカラニ主人公ヲ別ルートニ連レテイク重要キャラデス!」


「えっ……」



(う〜ん……。やっぱり何言ってるか……どうしようどうしよう。とりあえず、イエス•アイ•アムって言っておいたほうがいいかしら……)



「アナタ、美少女ゲームハ好キデスカ?」


「えっ? ……あ、はいっ。好きですっ!」



 ひなたは思わず声高に答えた。


 そしてその時、ピンと来た。



(あ、私の見た目が「そういう」キャラに見えるって事ね! わかったっ! アイガリッ! よっ!)


 

「う〜んとう〜んと……。あなたも、主人公の恋路を図らずとも迷わせてしまう異国の地から召喚された絶世の美少女キャラよっ!」



 ひなたは、自分自身の美少女ゲームスキルから思い付く限りの印象を、目の前の美少女にカテゴライズしてみる。


 

「アリガトウゴザイマースッ! 私ハソンナキャラニ見エマスカッ?」


「ええっ! もちろんっ! もう超重要キャラですよっ!」


「ソウデスカ〜ッ! 実際ニ、ソンナ事ガ出来レバ私ハ、トテモエキサイティングシマスッ!」



 ひなたはいつの間にか、目の前の美少女に興味津々だった。



「旅行で来られたんですか?」


「イエ、私ハ留学生デス。日本ノ事ヲモット知リタクテ、フランスカラヤッテキマシタッ! 申シ遅レマシタ。私ハカミーユ。カミーユ•ブランデス! アナタ、トテモ可愛イ。アナタハ……」


「あ、私はひなた、高橋ひなたです」



 ひなたは初対面の、しかも外国人でこんな美少女に自己紹介をする自分が、どこか不思議な感じがしていた。



「アナタハトテモ可愛イカラ、イッショニ主人公ノルートヲ阻止シマショウ!」


「ハ、ハイッ!」



 ひなたはいつの間にか、外国人美少女と共に、美少女ゲームの主人公をかき乱すキャラに仕立て上げられてしまった。



「ソシテ最終的ニ、私トアナタハ、ライバルニナルノデス。イイデスカ?」


「えっ。そんなそんな……カミーユさん程の可愛い子をライバルだなんて」



 ひなたは一応、「そのつもり」でカミーユに返答する。



「ソウイウ設定ナンデス」


「は、はあ……」  



 グゥ〜ッ……。



 2人の会話の途中、いきなりカミーユのお腹が鳴り、一瞬沈黙が流れる。




「ア……ゴメンナサイデス。チョットオ腹ガ鳴ッチャイマシタ……テヘッ。デス」



 カミーユはペロっと舌を出し、恥ずかしそうにウインクする。



(え〜っ! なになにっ! 超可愛いんですけどっ!!)



「ソウダ! ヒナタサン、ヨカッタラ一緒ニゴ飯ヲ食ベニ行キマセンカ?」


「えっ? えっ? 私と?」


「ハイッ! 私オ腹ガ空イテキチャイマシタ。日本ノラーメンガ食ベタイデス。ドコカ美味シイ所、案内シテイタダケマセンカ?」



 ついさっき、ひょんなことから話したばかりの外国人の女の子。

 明るく、眩しいオーラを放つ超絶可愛い美少女の魅力に、グイグイ引き寄せられていたひなたには、断る理由がなかった。



「は、はいっ! 私でよかったら是非っ! あっ、ちょうど近くに美味しいラーメンと餃子のお店があるので行きましょう!」


「アリガトウゴザイマス! シルププレッ!」



 2人はまるで昔からの知り合いのように肩を並べゲームセンターを出ると、ひなたの慣れた足取りと、今にもスキップしそうな位のカミーユのステップで一緒にラーメン屋を目指し始めた。




 だけど、どこか少し、奇妙な雰囲気が2人から漂っていた。





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