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97.金田の場合

 


 プップププッ。

 プップププッ。



「おっ?」



 週末の午後、なんの予定もない金田はのんびりベッドで寝転がっていた。

 鳴り出したスマホの発信元は大学の仲間だった。


 ピッ。



「ほいほい〜」


「うっす」


「どしたんだ、八ツ橋? 珍しくLaneじゃなく電話なんて。何かあったか?」


「あのさ、次の週末にセッティングしてくれた合コンあるじゃん? ごめんそれ行けなくなった」


「あん!? あんあん!? 何でよ?」


「いやさ……実は……彼女出来ちゃったんだよね。マジで」


「もういいか? 電話切ってお前の連絡先を消去するのに忙しいから」


「待てまてまてって……。いや、何というか俺はそれでも全然行く気だったんだけどな……。彼女の女友達経由で、どうやら俺が合コン行くってのを知って、妬いちゃったんだな、うん。まあそれでさ……本当急でわりぃんだけど誰か変わりに探してくんね?」


「マジかよ〜っ。いや、そもそもお前に彼女が出来たのはおめでとうと祝うべきだが……ってか、大丈夫か? 他探してもいいのか? 合コンまでに別れるかもしれねえからそのままにしとくか?」


「いやいや、普通応援するだろ? 本当、友達甲斐がねえよな、お前って」


「俺が友達って言えるのは、共に合コンで戦う仲間だけだ」


「ってか、キューピッドで評判のお前はいつになったら彼女作って合コンの主の引導を渡すんだ?」


「ああ……まあ、俺も気になってる子はいるんだけどさ。っていうか結構マジで狙ってんだけど……まあ、そのうち誰かにこの定例合コンは引き継ぐつもりだよ。いずれにしろ、いつまでも周りの世話焼いてばっかりしてらんねえからな。俺は俺の道を行かなきゃとは思ってるよ」


「そっか。そんな風に思うようになったって事は、よっぽどの子なんだな」


「まあ……な。いずれ紹介すっから。彼女として」


「おいおい。あんま先走んなよ。お前は自分の恋愛に限ってはいつも不器用なんだからよ」


「ああ。わかってるよ。今更のアドバイスありがとよ。んじゃ、彼女とよろしくな。そのうち紹介しろよ?」


「はいよ。じゃあな」



 電話を切った後、計らずもため息が出る。



「はぁ〜っ。……わかってんだけどよ……いつまでもこんな事ばっかしてらんねぇってのはよ……。家を継ぐのを先延ばししたくて大学には入ったが、いかんせん俺のキューピッドの才能が花開いちゃたもんだから正直、勉強よりも遊びにばっか時間かけてんもんな……。

 しかし……しかしだ。俺が木葉ちゃんと結ばれた暁には、ちゃんと将来を見据えて、大学にいる間はしっかり勉強して、ゆくゆくは俺の人生を木葉ちゃんとともに薔薇色にしてみせるぜっ! だから神様、お願いしますっ!! 勉強もします! 家も継ぎます! だからどうか、木葉ちゃんと付き合わせてくださいっ!」



 自分一人、彼女が出来ずこのまま周りに置いていかれる不安、勉強や家の事をそっちのけであるにも関わらず、しまいには恋愛成就の願掛けを本来やるべき事を持ち上げてお祈りをする金田の姿は、ある種誰にでもあり得る、悲しき人間の性なのであろうか。



 お祈りをしている金田に再び ー、



 プップププッ。

 プップププッ。

 


「わっ! ビックリした! ……なんだ、また八ツ橋かよ……。(ピッ。)もしもし……何だよ、今忙しいんだよ」


「すまんな何度も。そういえばこの前牧原が最近入ってきた留学生と仲良くなったみたいでさ。それがけっこう面白い奴みたいで、よかったら牧原にそいつに合コン参加するように頼んどこうか? あいつも確かメンバーに入ってたよな?」


「留学生? いたっけ? そんな奴。まあ留学生ってのはある程度、女子の気は引けるかもしれんが、日本語大丈夫なの?」


「多分大丈夫だろ。牧原と仲良くなってる時点でいけんじゃね?」


「ああ、そういえばあいつ英語からっきしだもんな。う〜ん……わかった。じゃあ頼むわ。何にせよとりあえず頭数は必要だしな」


「おけ。じゃあまたLaneするわ」


「おう。よろしくな」


「あとさ」


「うん?」


「お前も早く彼女つくれよ」


「やかましいわ!」



 笑い声を残しながら八ツ橋は電話を切り、金田は憎らしそうにスマホを眺める。



「……俺は彼女が出来ても性格は悪くならないでいよう……うん」



         ・


         ・


         ・


         ・


         ・

         


 合コン当日。


 金田は牧原と2人、とっくに集合時間を過ぎているにもかかわらず、未だ現れない残り一人の参加者を店の前で待っていた。



 「まだかよ……。女子達と他の男共は店に入らせたのはよかったけどよ、遅くねぇか? 外国育ちだから時間にルーズなのか?」


「ちょっと待ってくれ、さっき、今もう着くってLaneが……あ、来た」


「うん? どこだ?」



 その時、一人の女の子が金田と牧原の元に駆け付ける。


 女の子は牧原に、



「ゴメン! チョット迷ッチャッテ……」


「だから一緒に行こうって言ったじゃねえか」


「イヤ、チョット準備ガアリマシテ、待タセチャ悪イト思イマシテ……。ア? 金田サン、デスカ? 初メマシテ!」



 牧原の隣にいた金田に気づくと、その子はペコリとお辞儀をし、そして頭を上げたその瞬間、金田ははっきりとその美しく整った顔に気付いた。



(……えっ? 

……なに? この美少女……)



「金田サン……デスヨネ? アタシ、カミーユ・ブラン(Camille Blanc)デス! ヨロシクオネガイシマスッ! 今日ハ誘ッテイタダイテ、アリガトウゴザイマスッ!」



 目の前にいる、あまりに美しい整った欧米風の顔立ちとルックスに金田は思わず動揺する。



「あ、あの……牧原、君?」


「あ、ああ……そっか、お前には言ってなかったかもな。カミーユはその……」


「ワタシ、日本ノカルチャーガ大好キデ大好キデ、好キスギテ日本二留学シテキマシタ!」


「そ、そうなんだ……よろしくね。じゃあ、みんな店に入ってるから行こうか」


「ハイッ!」


 長く美しい金髪をなびかせながら歩くカミーユを店の入口に促し、金田と牧原は後に続く。



 美少女の後ろで男二人がヒソヒソとやりとりをする。



「おい、どうなってんだ? 女って聞いてねえぞ? しかもめっちゃくちゃ可愛いじゃねぇか」


「あ、ああ……すまんな。俺もどうしようかと思ったんだが、悩んでたらすっかり言うのを忘れてたわ」


「意味わかんねぇ事言ってんじゃねえよ。しかもこんなにレベルの高い子連れて来たら他の女子達ビックリするぞ、あと男共も」


「何女子に失礼な事言ってんだよ、人それぞれ好みは違うだろ? まあ気にせず楽しもうや。なっ?」



 牧原は何故か慌てる金田の様子を見て上機嫌だ。



「……ああ。とりあえず席を一つ女子側に移すわ」


(しっかしなんだ……あの可愛さは? 何というか、女の子女の子し過ぎて少し他の子達とは違うような……。しかしあの可愛さは夢ちゃんレベルだぜ。悟のいう、無理目って奴だ。こんな子に会った時の悟のリアクションが気になるぜ……)



「わぁ〜っ! 可愛い〜っ!!」


「マジかよマジかよ! ねぇ? どこの国から来たの?」


「うわっ……お人形さんみたい……アタシ、今日この子持って帰りたい!」


「やるじゃねえか! 牧原に金田! お前ら本当にでかした! よくやった! さあ飲め飲め!!」


 このカミーユという子が登場するやいなや、合コンの席は一気にクラスに可愛い留学生が転入してきたような、男も女も興味津々の首ったけのような状態になり、カミーユは質問責めに遭い半ば合コンではなくなっていた。

 


「どこから来たの?」


「センゲツ、フランスカラキマシタ」


「趣味は?」


「日本ノカルチャー全部デスッ! アニメ、マンガ、映画、ゼンブ好キデスッ」


「どうしてそんなに日本語が上手いの?」


「私ノ母親ハ日本人ナノデ、小サイ時カラ日本語ヲ話シテイマシタ」


「ねえねえ、カミーユさんは彼氏いるの? あ、いたら今日来てないかっ」


「エーット、恋人ハ〜ッ……」


「…………。」



 その場に居た全員がカミーユに注目し、息を飲む。



「……………。」


「募集中デスッ!」


「うおーっ!」


「おっしゃーっ!」


「ほいきたーっ!」


「神様ありがと〜っ!」



 思わず男共から歓喜の声が上がる。


 カミーユはウインクをしながら目元でVサインのポーズを決めたまま皆の視線を浴びている。



 男共の歓喜の声に耐えられなくなったのか、女子達のうち一人が、



「いや、ちょっと待ちなさいよっ! カミーユちゃんは恋人って言ったのよ? まだ彼氏なのか彼女なのかわからないじゃないっ!」


「そうよそうよーっ! 早とちりしないでよねっ!」



 女子達も何故かカミーユを渡すまいと躍起になっている。



「おいおい。何だよこれは……もう合コンじゃねえぞこれ……」



 ポーズを決めたまま、未だ微動だにしないカミーユの前の席で、金田はやれやれといった様子で異様な盛り上がりを見守っていたが、どうやら今日はこのままただの留学生歓迎飲み会になりそうな雰囲気だと悟り始めた。



 金田は隣に座る牧原に、



「おい、牧原。こんなダークホースがいたなら、先に俺に会わしてほしかったわ。まあ急な声掛けだったとはいえ、さすがにこれは今日、終始つかねえぞ。それにてっきり男が来ると思ってたしよ。すっかり八ツ橋にいいようにやられちまったぜ……あいつ、次会ったら覚えとけよ……」


「あ、ああ……。いや、俺もここまでとは……」




(いや……しかしとはいえ……表向き牧原の前ではそう言ってはいるが……ある意味、でかしたぞ牧原! そして八ツ橋! こんな超特大ホームランものの美少女は今まで俺の合コンに来た事がなかった! こんな美少女を拝めただけでも今日の男共はもうけもんだな。

 しっかし……やっべえぞ。マジで可愛いな。本当、無理目レベルってやつだぜ……)




「ねえねえ。カミーユちゃんはどんな人がタイプなの?」


「そうだな。とりあえずそれ先に聞いとかなきゃだな」


「タイプ? 属性ッテ事デスカ?」


「ハハハっ! おいおい、妙に日本語慣れしてる! ウケるっ!」


「私のタイプは……」 



 皆は目の前にオヤツをぶら下げられて今にも飛びつこうとする犬のようなキラキラした目をしている。


 


 「ズバリ! 美少女ヲタクデ、現実ノ美少女ト、2次元美少女トノ区別ガデキナイ位、バカナ美少女ヲタクノ人ガ、タイプデス!」



 カミーユに注目していた全員が、一瞬にしてポカン顔になっている。まるで自分達が聞き間違いでもしたかのような。


 周りの固まった雰囲気を打ち消すように金田が、



「は、ははっ……そ、そうなんだ? まあ、あれだ、さっき牧原も言ってけど、人の好みは千差万別だからなっ! まあ、色々あるさ! さ、カミーユちゃんも一旦落ち着いて、ハイみんな飲もうぜ!」


 

「乾杯ーっ!」



 改めて乾杯をし、何事もなかったかのようにそれぞれが飲み、話し始め、カミーユもそれに混じって、ようやっとみんな落ち着き楽しみ始めた。




 金田はビールを手にし、えらいキャラが出て来たなと思いながら、じっとカミーユを見つめていた。



(マジかよ……それってモロ、アイツみたいじゃんかよ……)


 

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