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なげやりクリティカル  作者: さと丸


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96/113

96.miyucoルート セーブします。



  きっと……今から俺は、告白される。

  

 ……のか……?



 (いや、まだ、まだわからん! とにかく油断は禁物だ! こんなシチュエーション、リアルじゃ初めてだ……。

 ここから先の会話は慎重にいかないと……っていうか急にハンパない緊張感が襲ってきた……大丈夫か、俺。何か逆に頭が回らねぇ……)



「……私、少し前に初めて……美少女じゃなくて、男の人に興味が出てきたんです。その人は美少女ゲームの動画を配信していて、いつも一生懸命に美少女を追いかけて、精一杯、女の子の事を第一に考えて、落ち込んだり喜んだり、たまにちょっと泣きそうになっていたりして……。この人は本当に美少女が大好きで、尊敬していて、誰よりも美少女の事を大切にしているんだなって伝わってきて……。

 私はその人の動画を観るようになってから、少しずつこの人の事をもっと知りたい、どんな人なんだろうって、日に日にその気持ちが膨らんでいって、いつの間にか、その人の事ばかり考えちゃうようになりました。でも、私はずっと男の人なんて大嫌いだって思っていたので、この気持ちは初め、憧れに似たような感じなのかなって思っていました……。

 

 それでふと、ちょっとしたきっかけでその人に会う事が出来たんです。こんなのってすごい偶然だなって。でも実はそれが既に顔見知りだった人だって知って、その時は、ああ、運命って本当にあるのかな……って思いました。


 でもその人の前ではいっつも私、モジモジしてしまって、だけどゲームや美少女の話になると、逆に周りが見えなくなる位興奮しちゃって、そんな自分がちょっと恥ずかしかったんですけど……その人はそんな私をすんなり受け入れてくれて、ますます私、その人の事が気になってました」



(これ……俺……だよな。

 

 俺の事、言ってるよな……。どう考えても俺と美優ちゃんしかわからない話しになってる気が……。

 しかも美優ちゃん、何か吹っ切れてないか? いつものしどろもどろな感じがないぞ……)



「……こんな私でも、そんな素敵な人に出会えたのは、きっと運命なんだって。ずっと憧れてた人が実は身近にいた人だったなんて。しかも私の事をちゃんと見てくれてて……。

 ……だから私、決心したんです。……じ、自分のルートを作ろうって……そしてその人と一緒に……れ……恋愛ルートを作っていきたいな……って……」



 (美優ちゃんは今……精一杯、俺に話してくれている。

 自分の事、俺の事、今の気持ちを精一杯に)



「多分……きっと、恋愛感情なのかなって思います。……だって、いつもその人の事考えたり、知りたかったり、あ、あと……何て……いうか……一緒にいたいって思ったり……して……。

 一緒にいたら、それもわかるんじゃないかなって……で、あの……そう、そうなんです……。

そうなんです……けど……」



(うん? なんか美優ちゃん、言葉尻が少しおかしいぞ……?)




「だ、だから……だからっ! 

さと寸さんは……す……好きな人………いますか?」




 美優は半泣きな顔で悟を見つめていた。

 これ以上ない、おそらく本人は気づいていないであろう、無理目な美少女の表情で。





やっぱり……




 美優ちゃんは、俺の事が好きなんだろう。




 目の前には、恐らく俺を好きであろう(告白未遂)、小さな無理目の美少女。


 心の中には、俺の追いかけ続けた幼馴染の美少女。




 俺は ー 。



 俺は ー 。




[        ]

[        ]




 何も……選択出来ない。


 最適解が何も出てこない……。

 



「さと寸さん……?」



(返事が……できねえ)



「あ……あの……」



(相槌すら打てねえ……クソッ! 美優ちゃんは勇気出して俺に言ってくれてんだ! なのに何だお前は! 勇気出せ! この3枚目がっ!)



 ぎゅっと目をつぶる悟の真っ暗な視界にふいに、初めて出会った時の美優が浮かぶ。





 〈ルートは……一つだけ……なの…… 〉





 ー えっ? ー





 〈ルートは……一つなの。

 ……沢山あったら他の子は悲しむの……〉




 …………。

 ……そうだよな。

 いや、できっこないよな。


 選択肢なんて、ねえんだから。

 こればっかりは……だな。



 悟は意を決したように、ゆっくりと目を開ける。

 そして美優の目を見て、



  「うん。いるよ。好きな人。

 俺の幼馴染の無理目の美少女なんだ」




 悟は今まで通りの優しい、可愛い妹を愛でるような、包み込むような笑顔で美優を見つめている。



 その時、はっきりと見開いていた美優の目から一筋、涙がつたう。



 美優は思わず悟と逆の方に顔を向け、涙を隠す。

 悟は続ける。



「俺の好きな人は幼馴染の無理目の美少女なんだ。ずっとフラれっぱなしだけど、俺はずっとこのルートを歩いてる。ゴールなんてまだまだ見えないかも知れないけど、俺は俺でこのルート、アイツを選んだルートを歩いていこうと思ってる。俺もアイツも、この先どんなルートが待っているか誰にもわからない。だけど、ずっと自分の選択したルートを歩いていくしかないかなって。それは誰に言われたって変える事が出来ない。決めるのは自分だから。

 美優ちゃんの選んだルートは美優ちゃんだけのもの。だからお互い、これからも自分で選んだルートを歩いていくしかないと思う。

 俺はそのルートを応援できるかわからない。だけどいつもずっと、美優ちゃんのそばでなにかしら美優ちゃんを支えたいと思う。それに俺はもっと美少女の話やゲームの話しを美優ちゃんとしていきたいし……。もし……これからも、美優ちゃんがよければ……だけど……」



 美優は下を向いて、悟の話を黙って聞いている。



 返事がない。何の返りもない。



「……………。」


「……………………。」



 しばらくの間続いた沈黙に、悟は自分が美優にした事を、少しずつ後悔していた。



(今じゃなくてもよかった……

今、こんな答えを美優ちゃんに伝える必要はなかった。

……いや、違う。美優ちゃんは真剣だった。

 こんな俺に、真剣だった)



 悟がもう限界だ、という沈黙の間、そのギリギリまで待っていた時、



「やっぱり、さと寸さんは美少女さんが大好きなんですねっ。私もなりたいな。美少女に」



 長い沈黙からは想像できなかったその答えが、悟の限界だった心を繋ぎ止める。



「い、いや……美優ちゃんは美少女だよ! 俺が保証する! ってかどの立場だよって感じかも知れないけだ……あ、あの……俺って……あ、いや、美優ちゃん、美優ちゃんはかなりの美少女レベルだと思うな! うん、マジで!」



 悟はどもりながらも、美優との会話を繋げる。



「ありがとうございます。私は……わたしの思う美少女になりたいですっ。さと寸さんにそう言っていただけるのが一番嬉しいですけどっ。

 じゃあとにかく、もっともっと綺麗になれる様に頑張らなくちゃ、ですね」


「美優ちゃんはもう、ラスボスレベルだとおもけど……」


「何か……その言い方、やです……。でももし私がラスボスレベルだとしても、ラスボスの後ろにはたいてい裏ボスがいるもんですよっ。……私、なれますかね……裏ボスレベルまで……」



「う、うんうん! なれるよ! 変な例えしちゃったけど……と、とにかく美優ちゃんは、俺にとっては最高に可愛い妹系無理目美少女だよ!」


「あ〜っ。チャカしましたねっ。妹はいやですっ!」


「ごめんごめん。まあ、実際可愛い妹系なら、右に出るものはいないよ。俺が保証する。うん」


「はぁ……妹系のラスボスですか……まさか、さと寸さんにそんな風に思われてただなんて……。私、負けませんからっ。こうなったら絶対ぜったい、さと寸さんがびっくりする位の裏ボスレベルの美少女になりますからっ。……だから、あ、あの……その、待ってて……ください……っていうか、待ってなくても、行き……ます……ので……」



「……うん。わかった」




 その時はどうなるかわからない。

 未来の事もわからない。



 しかし悟はそう返事をした。



 美優にもそれはわかっていた。

 未来はどうなっているか、誰にも知るよしはないと。




「今日は……会ってくれて、一緒にいてくれてありがとうございました。また会って……ほしいです。会えない時はさと寸さんの動画を見て、応援してます……から。……だからっ。これからも……よろしくお願いしますっ……」


「こちらこそ、よろしくお願いします。……あと、こちらこそ、今日はありがとう。……また、店にも来てね」


「は、はいっ。ぜひっ」


「一緒に……駅まで行く?」


「い、いえ……私はもう少しここにいます……」


「わかった……。じゃあ、またね、美優ちゃん」


「はいっ。また……ですっ。さようなら」


「うん。……じゃあね」




 名残惜しい気持ちのまま、2人は今日のデートを締めくくった。



 こんな時は、何をどれだけ言い合っても、いくら長い時間を一緒に過ごしても名残惜しいものだ。

 きっと。

 それがいい。それでいい。






 帰りの電車に乗り込んだ悟は、なるべく人の少なそうな場所を選び、座る。



 目を閉じて、先程の出来事を思い出す。



 好きなものが一緒で、俺の事を多分好きな、小さな美少女。

 ずっと一緒にいれば、すごく幸せなのかもしれない。


 往生際の悪い俺は情けなくも美優ちゃんとの将来の可能性について想いを巡らせてしまう。



 だけど ー



 悟はふいに目を開け、その途端、あまりの夕陽の眩しさに目がくらんだ。



 ……やっぱり現実はうまくいかない。

 決められた選択肢なんてない。俺はそれをわかってるはずだ。美少女ゲームをやればやるほど、現実にはそんな自分にとって都合の良い選択肢があるわけがないと。

 でも俺は何かしら、それらが自分の恋愛の力に、助けになると思い続けていた。

 だけどもそれは、やっぱり独り言のようなもので。

 実際に相手の存在する恋愛では、自分だけに都合の良い選択肢なんてある訳じゃない。



 悟はふと、いつかファミレスで美優が言っていた言葉を思い出す。



(いつか私、さと寸さんのルートに乗ってみたいな。その日まで、私は私のルートを頑張ります)



 

 美優ちゃんも、俺と同じ気持ちでいるんだろうか……。



 眩しいくらいの夕陽が差し込む車両に揺られながら、悟はそっと目を閉じた。






 沈みゆく夕陽を浴びながら、美優は悟と話していたベンチに1人佇んでいた。



 「あ〜あ……告白すらさせてもらえなかったな……でもだからこそ、ちゃんとフラれた訳じゃない、これはいつかまた、違う時に告白できるかもってサインかも知れない……! うん! もうこうなったらめっちゃプラスに考えちゃおう! 

 ……さと寸さんの優しさに甘えちゃってるかも知れないけど……でも逆にそんなの考えないで、遠慮しないでもっともっとさと寸さんにぶつかっていきたい! うん! ……あと、服もちょっとずつ……変えていこうかな……グスッ。さと寸さんの好みももっと知っていきたいし……そ、そうだよ。まだハッキリした訳じゃ……グスッ。うん……ないし……。次会えた時……は、グスン。……あ……あれ、なんか……涙が……止まらない……」




 美優の瞳から溢れ出す涙が頬をつたっていく。


 


 それは失恋の涙ではなかった。




 こんなにも悟を想い、こんなにも恋愛に前向きになれた自分への驚きの涙だった。




 「なんだ……私だって……ちゃんと恋愛、出来るんだ」



 涙に濡れた美優の顔から、笑みがこぼれた。



 夕陽が優しく、小さな美少女を包み込んでいた。



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