95.miyucoルート⑤
「ここって……」
美優と悟が来た場所は、以前悟が夢にフラれた公園だった。
(ここは……夢が泣きながら俺をフッた場所だ。
まさか、ここに連れられてくるなんて……。
どんだけ無理目の美少女には共通点があるんだよ……。
俺の夢を想う気持ちが、まさか夢を傷つけてしまうなんて、その時の俺には予想もつかなかった事で、あれから俺はしばらく失恋モードになっていた。
あの時の夢の泣き顔はもう思い出したくなかった。なのになんでまた……。
あんな思いをさせてしまった事、あの出来事は心の中に閉じ込めておきたかった)
「……ここ、来た事ありますか?」
「いや……ないよ。初めてだよ」
また……。何で誤魔化しちまったんだろうか。きっと美優ちゃんに夢の存在を出したくなかったんじゃなく、忘れたかった夢の泣き顔を思い出してしまい、俺はそれをなかったことにしたいのかも知れない。
「……ここ、わたしのとっておきの秘密の場所なんです。いつも1人で来ていて、のんびりしたいときや、まだ帰りたくないな〜って時に。あと色々と考え事したり。
秋波原の中でもここだけはなにか、ポツンと忘れ去られたような静けさがあって……私、好きなんです」
「そうだよね……いいよね」
「えっ? やっぱり来た事あるんですか?」
「あ、いや、ないない! ……何か、ゆっくりするにはいい所だなって」
「はい。いつも1人で来てたから今日、さと寸さんと来れて、よかったですっ」
ー !!
(えっ ー ?)
夕陽をバックにした美優の笑顔を見た途端、何故か夢の顔がフラッシュバックしてしまう。
(はあ……俺って奴は……。
美優ちゃんに夢を重ねてんじゃねえぞ……。
何なんだよ……もう何も……誰も、傷つけたくない)
……うん?
(……いやいや、待て。まだ何も起こっちゃいない。ただここに来ただけだ。まず美優ちゃんは何で俺をここに? そもそもなんで俺を今日誘ったんだ? それぐらい聞いてもいいんじゃないか?)
さっきまで笑顔だった美優が急に下を向いて、
「今日……さ、さと寸さんとずっと一緒にいれて……あ、あとすっごく優しくしてくれて、ありがとう……ございましたっ。本当に……嬉しかった、です」
あれ? 美優ちゃん、また何か緊張してないか?
「い、いやいや。こちらこそ買い物に付き合ってくれたり、ありがとうね」
「わ……わた……あの、私……初めて……デート……でした」
(えっ!? やっぱこれ、デートだった!? しかも美優ちゃんめっちゃくちゃ緊張してるし……。こんな緊張してる美優ちゃん初めてだな……。何かこっちまで改まって緊張しちまう……)
「そ……そっか。何か……嬉しいよ」
(おいおいおいおい。何だそれ? もっと気の利いた事言えねえかな〜っ、俺よ! ……何か、なんか話せ! 俺!)
「……いや〜っ。美優ちゃんの初めてで嬉しいよ……」
(バッカ野郎! 何言ってんだ!? お前マジか!? 何だその言い方! そういえば前もこんな言い方して夢に呆れられたよな……ほんっと成長しねぇな俺。……もう泣けてくるわ)
「あの……私、男の人に興味がなくて……」
(ああ……そっか。そうなんだ。……じゃあ夢と一緒だ。
しかし……どうしてこうも一緒なんだ? 無理目の美少女は男ぎらいなのか?)
「そっか……。どうして……嫌いなの? 男の人が……」
(……ん? えっ?
じ、じゃあ何で俺は……?)
俺が内心ドギマギしていた間、美優はちゃんは少しずつ落ち着きを取り戻し、遠くを見てゆっくりと話し出す。
「私……男の人が嫌いでした。ずっとずっと。
下品だし、すぐ女の子を傷つけるし、思いやりもないし、いつも自分さえよければ女の子なんて何とも思わない人ばっかりで」
美優の普段と違う様子を察してか、悟は今の自分の感情を一旦置いて、黙って美優の話しに耳を傾ける事にした。
「なんでこんなにも醜い生き物なんだって、小さい時から本当にそう思ってました」
美優は絡めた自分の手を見ながら、どこか諦めにも似た、おだやかな感じで話しを続ける。
悟も何故か美優の顔を見る事が出来ず、つられて自分も美優の手を見ていた。
「そんな時、私はふとテレビに映った美少女ヒーローのアニメに釘付けになりました。
その綺麗で可愛い美少女を見た途端、私は一瞬時間が止まったような感覚でした。
そこに登場している美少女達がヒーローとして悪者をどんどんやっつけていくんです。
あんなに可愛いくて綺麗な女の子達が、弱い人を助けて、悪い奴らと戦っていく姿をみていると、私の心の中に空いていた穴に何かがスッと入った感じがしたんです」
美優は遠い目をしたまままるで別人のように、いや、これが本当の自分だというように緊張したり、しどろもどろになる事なく話していた。
そして美優の心は、今まで悟といた、どの時間よりも落ち着いていた。
「それから私は美少女達の事が気になって気になって、もっと観たくなってお母さんにアニメのDVDを買ってもらって毎日毎日、観ていました。
その時は本当に夢中になって観てて、今でも美少女達一人ひとりの変身ポーズができる位覚えています」
微笑みながら話す美優がふと、悟を見て、
「あっ……ごめんなさい。
ちょっと……引いちゃい……ますよね。……こんな話し……」
「ううん。大丈夫だよ」
悟は恋愛対象の女の子、もしくは可愛い妹としてではなく、ただ、純粋に美優の話に興味を持って聞いていた。
「それからずっと、私は美少女だけを追いかけて、私が見てきた世界は、そんな美しさと可愛いさが全てでした。そんな世界、2次元の世界と美少女ゲームにしかないから……」
「そっか……。
うん、何となく……わかるよ。その気持ち」
それは、俺も思っていた。
そう思っていた……。
ある一人を除いては。
ふと、何かを決心したように美優は真っ直ぐに悟を見つめる。
「……さと寸さんの思う美少女って、どんな人ですか? ……この世界にいますか?」
「えっ?」
美優は目を逸らさず、恥ずかしさと緊張のあまり、泣き出してしまいそうな位、顔が赤くなりながらも悟を見つめ続ける。
そして ー
「今、好きな人はいますか?」
それは俺にとって
俺の人生にとって、初めての質問だった。
俺に好きな人はいるかと。
聞かれた事もない。関心を持たれた事もなかった。
以前木葉ちゃんにそんなことを聞かれた事があったが、明らかにただの冗談や興味事ではない、答え方一つによって、その質問の意味が決まる、俺にとってすごく重要な問いかけに思えた。
美優ちゃんの、このただならぬ雰囲気が、俺にそう思わせた。
しかし、こればっかりは、俺の自惚れや、勘違いであってほしかったのだが……。
美優ちゃんのこの瞳はそうじゃない。
きっと……俺は今から、告白される。