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88.どうして僕は

 

 元旦。


「え〜っと、元旦とは元日の早朝、日の出から午前中を指す言葉で 「旦」という字は、地平線から太陽が昇る様子を表す象形文字で、「朝」とか「夜明け」を意味するのだ。そのため、「元旦」は「一年の最初の日の出」という意味になるよ。gaagle AI より引用……。まあつまり、悟の誕生日ってわけだ。おめでと」


「何だよそれ……あくまでついでみたいに言うんじゃねえよ」


「ふふっ。相変わらず晶君面白い。何でこんなにも兄弟で面白さに差が出るのかな。不思議」


「おい、マジで言ってるのか? 本当にこんなのが面白いのか?」


「おいおい。お前にはわからんだろ。な? 夢ちゃん?」


「うん」


「夢、悟君をあまりからかっちゃだめだよ。昔からそうなんだから……本当ごめんね。悟君」


「ああ……晃弘君が俺の兄キだったらよかったのに。なあ夢、交換して?」


「何言ってんのよ……年を重ねてますます面白くない事言わないの」


「本当ごめんな。こんな弟で。あ〜不憫だわ。でもおめでと」


「もういいわ」



 ……しかし、何なんだろうか。正月早々この組み合わせは……。まあ、懐かしいっちゃあ懐かしいが、こんなに時間が経つと懐かしいというどこか異質な感じすらする……。



 クリスマスイヴの夜、兄貴の晶から連絡が来た。

 夢の兄である晃弘君に、会おうという連絡だったのだ。



 以前から夢の兄である晃弘君のほうは、ずっと俺の兄貴に会いたがっていたようで、以前俺が間を取り持った時、晶はさほど晃弘君に会いたいという感じではなく、俺と晃弘君は撃沈されたが、今回、どういう風の吹き回しか、晶から晃弘君に会うから俺に手筈を整えてくれとの事だった。


 俺はさっそく晃弘君に連絡し、あれよあれよという間に段取りが進んだが、何故かよりによってこの元旦という、忙しいのか忙しくないのかよくわからない、古来から続くおめでたい日に集合して、俺の最寄り駅である天王寺すぐそばにある、寒山神社へ初詣に行く事になった。しかも俺と夢付きで。

 

 ちなみに金田と木葉ちゃんは元旦は家族と過ごすらしく今日は不参加だ。

 まあ、お互い都合が合えば、と言っていたし今回はしょうがない。しかもこの状況であの2人がいたら状況はもっとややこしくなっていただろう。色んな意味で。



 そして内心俺は、晶は一体どういうつもりで晃弘君に会いたくなったのか気になって仕方がなかった。きっと晃弘君も同じ気持ちだろう。


 なんとなく俺達は図らずとも晶を心なしかマークしている気がする。



 本殿でお参りする列に並んでいた途中、晃弘君が、



「晶、今日は本当にびっくりしたよ。会ってくれるなんて……7年振り、かな?」


「ああ。そんくらいだろうな。しっかし晃弘は変わったな。何というかこう、痩せて心なしか大人しキャラになったというか……。夢ちゃんも変わったぞ。ますます綺麗になった」


「嬉しいっ。晶君も格好良くなったよ」


「おっ。嬉しいね。ありがと」


 夢は、晶にはいつも可愛い妹キャラを演じていたなと思い出した。演じていたというか、まあ晃弘君の幼馴染ゆえ、自然にそうなってるだけなんだろうが。しかしもうちょっとこの可愛げを俺にも向けられないもんかね。


 ほどなくお参りをする順番がまわってきて、俺達4人はそれぞれに手を合わせてお参りをする。



 俺は心の中で、


 (神様、今年こそ俺は夢と結ばれて、そしてYou Chuberとしてビッグになります! 精進しますので、どうかお守りください!)

 

 

 祈りにも似たようなお願い事に自然と、合わせる手と眉間に力が入る。


 先にお参りを済ませた夢が列を逸れ、そんな悟の横顔を眺めている。


 お参りを済ませ3人と合流した悟に、



「何、お願いしたの?」


「言わずもがなよ。俺は今年こそ更なる飛躍を求め……」


「あ、もういいや」


「おいっ」


「おっ、甘酒があるぞ。みんなで飲むか」


「さんせーいっ」


 

 悟の願い事より晶の提案に魅力を感じた夢は一番乗りで手を上げ、晶と甘酒のある方へ歩いていく。



 少し後ろを歩いていた悟と晃弘は自然と「その」会話をする。



「悟君。今日はありがとう。あれからずっと、自分で何とかするって言っておきながら何も出来なかった。今日はただ再会するのが目的だからあまり気負わずに自然に晶と過ごせればと思う。晶もあまり変わってなくて、何かホッとしたよ。本当にありがとう」


「いや、俺は特になにも。晶から連絡が来たし、晃弘君も俺にそんなに義理を感じないでいいですよ」


「そうはいかないよ。それに悟君が夢と再会してくれたおかげで僕はこうして晶にも会えた。本当に感謝してる。ありがとう」


「いや、いいですって。俺もまたみんなで揃ったのが嬉しいですから」




 きっと晃弘君は晶の事が、好きなんだと、思う。

 以前のやり取りで、俺は確認しなかったが多分、いやきっと、そうなんだろう。



 そこに触れていいものか、晃弘君も何となく悟君はもう察してるよね? と言いたげな感じだが、確かなやり取りはせずにギリギリのラインで会話をしている。

 


 当の晶はどうかというと、俺はおそらく「晶はそうじゃない」と思っている。

 ……なんとなくだ。なんとなくの、兄弟の感覚で……。

 いや、もし俺のカン(?)がハズれて、実は「そう」だったなら、俺は2人のやり取りに、兄弟とはいえどうこう言える立場ではないし、言うつもりもない。


 それはやはり晃弘君が直接、晶の気持ちを確かめるしかないだろう。


 そして変わって、俺が夢の事を好きだということは晃弘君は知っている? いや、気付いているのだろうか……。一度もそんな話をした事はないが、察しのいい晃弘君は何となく俺の夢に対する気持ちに気付いている気がする。


 何だかお互い、バレバレながらの隠し事を持っているようで妙にくすぐったい。



「お前ら、飲まないの?」



 晶が甘酒を片手に、俺達のほうを向いている。

 夢は我関せずといった様子で両手でアツアツと可愛く甘酒を口にしている。

 相変わらずの猫舌っぷり……うん……可愛い。

 他の参拝客も夢の美少女&猫舌模様に目を奪われている。



「ああ、飲むよ。飲もうか、悟君も」


「はい」


「悟君。敬語はいいよ。幼馴染なんだし」


「いや〜でも7年振りだし、急に大人になってるからなかなか、難しくて……まあでも、そのうち……」


「うん。わかった」



 夢は相変わらず晶には良い意味で馴れ馴れしい態度で接している。まるでいとこのお兄ちゃんといるような雰囲気だ。何というか、うまいなぁ。処世術とでもいおうか、夢のああいうところ……羨ましいな。いや、ただ単に夢は自然に接していて、俺が不器用なだけか?


 まるで4人の中で一番の末っ子のような(実際年下)俺は、もうちょっと晃弘君にオープンな態度を取ってもいいのかも知れない。確かに今は晃弘君と晶の事が心配だが、あくまでそれはそれ。俺はもっとみんなと昔を懐かしみつつも、楽しくやりたい。



「晃弘君、俺が取ってくるよ。待ってて」


「ああ。ありがとう」


 少し、勇気を出して砕けた言葉で晃弘君に話してみた。ああ……ちくしょう。こんな事でも少しの勇気が必要だなんて。大人になるのも不憫なものだ。要らない知識や遠慮ばかりを覚えてきちまったフシがある。



 少しずつ、4人が昔のように戻る事はないとしても、これからまた、沢山の時間を積み重ねていけばいい。もし晃弘君が晶とうまくいかなかったとしても、俺達はずっと幼馴染のままだ。何も変わらない。

 きっとそうだ。



「はい。晃弘君」


「ありがとう」


 

 悟は取ってきた甘酒を一つ晃弘に渡し、自分も猫舌ながらに味わっていると、夢がここぞとばかりに、



「あなた、ハタチになったからって調子に乗って飲み過ぎちゃだめよ」

 

「うん? 甘酒だぞ? これ。子供でも飲むぜ」


「そうやって油断してるとすぐ酔っ払っちゃうよ?」


「お前こそ、この前クリスマスの時、俺が来る前に速攻で酔いつぷれてたくせに。えらそうに言うな」


「あ、あれはただ疲れが溜まってただけだし……。別に普段、あそこまで弱くはないもん」



 一瞬、夢の疲れが溜まっていたのは本当だったかも知れないと思った。クリスマス前、自分の漫画を完成させた後、俺のチャンネルバナーやアイコンのイラストを描いてくれた事を思い出した。



「そ、そうかよ。まあ……気をつけるわ。ほどほどに。……しかし、誰の目をはばかるでもなく、俺はいつでも自由に酒が飲めるぞ。くくっ……これで俺もやっと大人か」


「ほんっとバカね。そんなので大人になれると思ってる悟みたいなのがバカな大人っていうのよ」


「なんだと、このっ!?」




 2人のやり取りを、2人の兄貴がどこか懐かしむように見ている。



「相変わらずだね。あの2人も」


「だな。全然変わってねぇ……。むしろ大きくなってもあのままのテンションでやり合えてるのが不思議でたまらん」


「だね。……晶は……今は?」


「うん? 何だ?」


「今も柔道、続けてるの?」


「……いや、もうやってねえ。働き始めた頃は社会人の団体にも入ろうかと思ったんだが、やっぱ仕事が忙しくてな」


「そっか……」


「まあ、毎日必死にやってたんだが、俺の憧れでずっと追いかけていた人が、五輪の予選決勝で負けた時、その人の意志を継いで俺が代わりに五輪に出てやる、なんて勝手に思って息巻いてやってたんだが……やっぱ上には上がいたわ。それを充分思い知らされた」


「そうなんだ……。また、やりたい? 柔道」


「ああ……まあ、たまに道着着て、畳の感触味わいてぇな〜って思う」


「じゃあ……またやってみたら? 柔道」


「う〜ん。まあ、確かに仕事が忙しくて仕事人間になっちまったが、たまにならいいかもな。まあ、体もなまってるし手始めにまずは悟あたりでもぶん投げてみるか」


「いやいや、ダメでしょ」


「だよな」



 しかめっ面をして微笑む晶の横顔を、晃弘は気付かれないよう、そっと見つめて、その懐かしさと安心感を感じていた。





  ー ああ……。この感じだ。




「どうだ? 今日せっかくだからこのままみんなで飯でも行くか? 悟の誕生日祝いも兼ねて」 


「うん。いいね。行こう」




  ー 懐かしいような。

 でも、懐かしくないような。




「おーい、夢ちゃん、今日このままみんなで飯行って悟の誕生日祝ってやっていいかな?」




  ー そうだよ……。

 ずっと想い続けてきたんだから。




「うん。いいよ。悟、今日ヒマでしょ? お祝いしてあげる」


「何でそんな恩着せがましいんだよっ。まあ……でも、ありがと」


「よしよし。いい子だ」




  ー ねえ、晶。

 どうして僕は、女の子を好きになった事がないんだ?




「居酒屋でも行くか? 昼間からでもやってるだろ。元旦からでも」


「ああ。確か年中無休のお店、駅前にあったよ」




ー どうして僕は、君をずっと想い続けていたんだ?




「渋いね。居酒屋で誕生日のお祝いって」


「まあ、いいだろ。悟だし」


「何だよそれ。居酒屋にも失礼だわ」


「よ〜しっ、レッツゴーっ」




  ー どうして僕は、君に ー




「ー おい? 晃弘?」


「……えっ? あっ?」


「行くぞ?」


「う、うん……」





 悟と並ぶ夢に続き、晶がその後ろを、そしてそのほんの少しだけ後ろを歩く晃弘が晶の手を見つめていた。



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