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86.クリプレルート


 「あ〜っ。楽しかったな……。こんな楽しいなら毎日クリスマスやりたいぜ」



 寒空の中、駅へ向かう途中で金田が呟く。



 みんなでケーキを食べた後、4人は夢と木葉を終電に乗せる為、なかなかに楽しかった、そして俺的にはかなり収穫のあったパーティーをお開きにして駅に向かっていた。


 金田の隣を歩く木葉が、それは違うと言わんばかりに、



 「え〜っ? それだとクリスマスのありがたみが感じられないでしょ? イベント事ってそういうものだからいいんじゃない? まあでも、こうしてみんなでパーティーするのはやっぱ楽しいよね。金田君、またよろしくたのむよっ。またご馳走になりますからっ」


「なんで俺がまたご馳走する事になんの!? おかしくない? ……まあでも木葉ちゃんとデートでもってんなら、話は別だけど……ね。……ねっ?」


「う〜ん……。何言ってるか……ちょっとは、わかるかな……」


「……えっ? えっ!? マジで!? やっと? いいのっ!?」


「う〜ん。しつこい男は嫌われるけど、金田君は思ったよりしぶとい。しかしディスティニーもクリスマスも一緒にいるとなかなかに楽しいとみた。それに面倒見もいいときた。まあ、たまには……だけど、また機会があれば、金田君のいつも言ってるわけわかんない事を考えてみてもいいかなって」


「めっちゃ……めっちゃ遠回りな言い回し……! でもやっと……!! 俺は嬉しいよっ! 木葉ちゃん! これで俺はもう悟のお守りからは卒業だ!」


「こらこら。夜中にうるさいよっ。それに悟君と夢の事は引き続き私達が見守らないとね。それに2人がどうなってくのか、私はとってもとっても気になるし」


「え……。俺はそれより木葉ちゃんとの将来の方が気になるんだけど……」





 金田と木葉の後ろから、悟と夢が少し後に続いて歩いている。



「何だかお似合いだね。あの2人」


「いや、全然。釣り合っとらん。金田にはもったいなさすぎる」


「なんで?」


「あいつは俺と変わらぬ3枚目、そして木葉ちゃんはモデル並みの可愛さときた。どう考えても釣り合わんだろ」


「やれやれ……ほんとあなたって……。金田君に対して失礼過ぎるわ。友達でしょ? ……あ、わかった。妬いてるんでしょ? みっともないわよ?」


「妬いとらんわ!」


「そう? じゃあそういう事にしといてあげる。ふふっ……」



 夢がからかうように、イタズラな笑顔で悟の顔を覗き込む。


 まださっきのお酒が抜けていないのか、夢の顔はほんのり赤らんでいる。

 悟はどことなく、そんな普段よりも色っぽさが足された絶世の美少女に見つめられ、



(ぐっ……なんなんだよ。その可愛さは……頼むからそんな表情でこっち見ないでくれ……)



 悟は照れているのを隠すかのように、



「……ふん、友達だろうが何だろうが、俺は現実を話している」


「そう? まあ、悟はお子ちゃまだからね。そんな見方をするのも美少女ゲームばっかりやってるからでしょ」


「おい。お前今、全国の美少女ゲーマー達を敵に回したぞ」


「大げさよ。どんな人だってちゃんと中身を見てる人は見てるわ。悟が子供なだけ。悟は美少女ゲーム、可愛い女の子が出てるからやってるんでしょ?」


「……いや、それだけじゃねえよ」


「他には?」


「そうだな。いろんな女の子とやりとりが出来るとこ、かな」


「やりとり?」


「いろんな女の子とのシチュエーション毎に選択肢があってよ、狙った女の子を落とす為にけっこうそこで頭使うんだが、選択を間違えるとその子と結ばれなかったり望んだエンディングに辿り着けなかったりするんだよ。で、ストーリーを進めていく上で時には切ない気持ちになったり時には笑ったり……。たまに秀作に出会えるとマジで感動して涙流しちゃったりもするし。まあ、色々奥が深いんだよ」


「……そっか。じゃあいっそのこと悟は美少女ゲームの女の子と付き合えばいいんじゃない?」



「バカ。それはあくまで2次元の世界だ。現実じゃない」


「現実じゃないなら、お似合いじゃなくてもいいんだ?」


「ん? どういう……。はっ……!? バカやろっ! 俺だって頑張って男を磨いてんだよ!」


「じゃあ金田君は磨いてないっていうの? あんなにも木葉に一生懸命になってるのに?」


「ぐ……」



 確かに、俺だってそうだ。



 俺だって女性からモテるほど男前な訳じゃない。正直金田とトントンの3枚目だ。というかドングリの背比べだ。大して変わらん。と思う。

 それなのに俺は無理目な美少女の夢と結ばれる為にああだこうだ日々奮闘している。


 ……果たして俺は他人の恋愛に対してどうこう言えるほど恋愛に長けているのだろうか? 確かに美少女ゲームで数え切れないほどの美少女達といろんな恋の駆け引きをしてきたが、果たしてそれは本当に俺の恋愛観に役立っているのだろうか?




 『現実は決められた選択肢なんて用意されてねえぞ』




 そんなような事を言っていた店長の言葉を思い出す。



 無理目の幼馴染美少女を何とかしたくて俺は日々頑張っている……つもりだ。しかも俺が美少女ゲームを始めたきっかけはこの無理目の美少女と結ばれたいがために、色んな恋の経験を積みたくて始めたんだ。だからもし、最終的に俺は夢と結ばれない……なんて事になったら、俺の今までやってきたこの美少女ゲーム人生は……一体何だったんだっていうんだ。



 夢と結ばれない。

 そんな事は考えられない。

 将来、俺以外の男が夢の隣に寄り添うなんて事はあり得ない。考えたくもない。




 俺なんだ。

 夢の隣にいるのは ー 俺なんだ。  



 

 駅が見えてきた。


 悟にとってはなんてことない、いつもの駅だが、4人一緒だと何となく新鮮な気持ちになっていた。



 (ああ……しかし思った以上に楽しかったな……少し酔っ払ってしまったが……はっ!? この楽しさ……これが、酒パワーなのか!?

 とにかく……何だってこのイヴの日にこんな美少女2人を帰さにゃあならんのだ……なあ? 金田よ。)



 ふと隣を見ると何故かウキウキ顔で木葉ちゃんを見送る金田の顔。


 何だ? どうした? なんかいい事あったのか?

 ……まあ、こいつなりに何かしら今日は収穫があったんだろう。



 ……おっと。そうだ。


 忘れるところだった。

 俺はさりげなく夢の方に近づき、



「あの、さ……」


「ん? 何?」



 右手に持っていた紙袋を夢に差し出す。



「……これ。……あれだ、その……プレゼントだ。クリスマスの」


「えっ?」


「あんまりクリスマス感がない包装だけど……そこは、ちょっとすまん」


「なになに〜っ? やるじゃん、悟君!」



 驚いている夢の肩越しから何故か木葉が興奮している。



「……あ・ありがと……」


「お、おう……」


「やるな、悟。ってか、お前ひょっとしてそれを取りに行ってたから来るの遅かったのか?」


「えっ? い、いや……まあ……その、何だ……」


「いいじゃんいいじゃんそんなの! それより夢、よかったね!」


「う・うん……」



 悟は夢がいつものようにツンデレ対応をするかと多少身構えていたが、下を向き少し照れているいつもの様子と違う夢を見て、



「ま、まあ……あれだ。遅ればせながらのサンタクロースだ。随分と待たせちまったが……」



「 ー !?」



「何だよ? 遅ればせながらって。今日はイヴだぞ? 何も遅れてねえぞ?」



 金田がツッコむも2人の様子に何かしら察したのか、木葉が金田の腰に肘打ちする。



 「いてっ。木葉ちゃんなによ? まあ俺は痛いのもキラいじゃないけど……」


「それは何言ってるかわかんない。とにかくシッ!」



 下を向いていた夢がようやく顔を上げて、



「……ありがと」


「おう……。まあ実際喜んでくれるか自信ないけど」


「いや……嬉しい。悟からは何もらっても」


「いや、まだ中身見てねえだろ」


「嬉しいの」


「……そっか。じゃあ……よかったよ。喜んでくれて」



 あまりにも夢のいつもと違う様子に悟が戸惑っていると木葉が、



「じゃあ行こっか。夢」

 

「……うん」


「じゃあお2人さん、今日ありがとね。とっても楽しかったよ! 悟君、夢はちゃんと送るから安心してねっ」


「あ・ああ……ありがと」



 夢と木葉は仲良く改札へ向かい出す。



 木葉が先に改札を通り、続く夢もそのまま改札を通るかと思いきや、ギリギリのところで立ち止まって振り返り、こちらの方へ戻ってきた。



「何だ? どうしたんだ?」



 悟の前に立った夢はいつものイジワルそうな顔をして悟を見つめる。

 さっきまでの恥ずかしそうに照れていた夢はもういない。



「どうした? 夢。忘れ物か?」


「私からもプレゼント。……ちょっと待っててね」


「ん? 待つ……? どういう事だ?」


「金田君も、今日はありがとっ。またね」



 疑問を抱えた悟をそのままに、夢は2人に手を振って改札の向こうで待つ木葉と合流し、仲良くホームへと消えていった。


 相変わらず金田は終始、満足気な笑みを浮かべながら2人が見えなくなっても手を振っていた。




「あ〜あ。帰っちゃったな……。まあでも、美少女2人とイブを過ごせたってだけでもかなりのモンだ。俺達も帰るか」


「そうだな。あ、悟。もうそろそろ俺はお前の面倒みねぇから」


「うん? なんだよそれ」


「俺はこれから今まで以上に木葉ちゃんの事で忙しくなるから、お前のお守りは出来ねぇって事」


「いや、お守りもなにも、頼んだ覚えはないんだが……。それにお前に守られたり面倒見てもらってる感覚は今の今まで一度もなかったぞ」


「やかましい。とにかく俺は木葉ちゃんとの事で忙しくなるから、お前はお前で夢ちゃんとの事は自分でやるんだな。俺や木葉ちゃんを頼らずにな」


「ふん。おせっかいありがとよ。夢の事くらい、自分で何とかするさ。逆に俺に木葉ちゃんとの事でフォローさせるなよ?」


「いや、申し訳ないけど、お前の美少女ゲームの知識は役に立たんからいいわ。ましてや木葉ちゃんだぜ? 一筋縄では行かねぇ相手だしよ。」


「まあそんな事言うなよ。お前が困った時、ひょっとしたら万が一、クリティカルなアドバイスが出来るかもしれないぜ」


「あいよ。その時は頼んまっせ。美少女マスターさんよ」



 金田は軽く手を振り、自宅への道へ戻っていった。





 家路に向かう途中、ふと夢の事が頭をよぎる。



 俺は約束を守れただろうか。


 いつの日か夢のサンタになってやるって約束を。



 いいや、なれていない。



 実際、俺はただプレゼントを渡しただけだ。

 夢に心から俺という人間を求められていたなら、俺はきっと夢のおもうサンタになれていた気がする。



 まだまだだ。こんなの。



 夢と再会してから始めてのクリスマスイヴ。

 クリスマスなんて今までの俺には縁のないイベントだったが、夢が現れ、そして金田に木葉ちゃんに、少しずつだが俺の人生が美少女ゲーム三昧の日々から変わろうとしている。



 「それでもやっぱり1人で帰るのはさびし〜なーっ」



 思わず、何となしに声に出てしまった独り言を発した後、スマホが鳴る。



 夢からのLaneだ。



 何だ? まだ電車に乗ってるだろ……? どうした、何かあったのか……?


 急いで開いたメッセージには、



 「プレゼントどうもありがとう 私からもプレゼントあげるわ 大切にしなさいね 

 あと メリークリスマス」


 

 相変わらずの上から目線の言葉遣いが、かえって夢の照れ隠しになっている事は悟もわかっていた。


 そしてLaneのメッセージと一緒にいくつかのデータファイルが添付されていた。



「……ん? 何だこれは。これがプレゼント……なのか?」



 おもむろにデータファイルを開く。


 そこには……。



「こ……これは……」



 ファイルの中身は、以前悟が夢にお願いしていた自分の動画チャンネル専用のバナーやアイコンに使う美少女の絵が数点入っていた。




 それは夢から悟への、

 美少女達のプレゼントだった。




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