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83.確証

 

 「夢はきっと悟君のこと、好きだったんだよ。そんな気がする。……っていうか、きっとそうだよ」



 えっ……? えっ……!?

 あん!? 

 何でそうなる!?



「オホン。私が推測するに……」



 動揺する悟をよそに、木葉名探偵は推理を展開する。



「ひょっとして夢は自分が悟君を好きってことをわかってないっていうか、好きだっていう自覚がなかったんじゃないかな? その時はまだ好きとかそういう感情がわかんなくて、女の子はいつの年も恋愛には夢中だったりするけど、中には夢みたいな恋愛に興味ない子もいるからね。良い悪い抜きにして。


 で、再会してしばらくは好きな気持ちすら忘れてて、というか自分でも好きなのかよくわかってなくて、悟くんに冷たい態度をとってしまってて……。


 でも夢は悟君の事しか好きになった経験がない。

 だけどその気持ちも、幼馴染からの愛着だったのか、ずっと一緒にいた友達っていう感覚なのか、自分の気持ちに対して確証がない、っていうか持てない、みたいな。


 ずっと甘えたかった、寂しかったって気持ちが夢のどこかにずっと残ってて……悟君がいなくなったからその寂しさに耐えられなくて、自分でも知らずにそういった気持ちを封印して過ごしてきて、で、そのまま悟君と再会しちゃったら、あら不思議、変わりに怒りの感情が出てきちゃったみたいな。まあ、私の推測だけど」




 ……。

 何だろ、それ……。

 可愛い過ぎるじゃねえか……。

 


 もしそうだったなら、随分とおれにとっては何というかありがたいというか、こそばゆいというか、しかもこっちにとっては都合の良い展開? じゃねえか?

 しかし、夢にとってはそれで済む問題じゃないが……。



「で、そんなこんなで今はツンデレ夢ちゃんの出来上がりってわけか……。おい悟、もしそうならお前1人で背負い込む事じゃなかったかも知れねえな。まあお前は案外、思い詰めるとこがあるから今の木葉ちゃんの話しを聞くまではそんな考えは微塵もなかっただろうけど」



 まあ、確かになかった。

 なかったんだが、そうなんだが……


 いや、しかし ー



「ちょ、ちょっと待てよ。……ただもし、自分でいうのも何なんだが、夢はただ、本当に悲しかっただけだったなら……寂しかっただけなら? ……俺の事が……好きとかそんなんじゃなくてさ……」




 ー 以前、俺が思わず電話で夢に告白してしまった時に、夢が泣きながら俺をフッた事を思い出す。



 もし、あの夢の涙がただ純粋に悲しみや寂しさからの気持ちだったなら、俺は大いなる勘違いをしてしまうかもしれない。




 俺はどうしても確証が欲しかった。




 夢自身が気づいていない、あいつ自身持っている事もわかっていない俺への気持ちの確証を。




 もじもじ考える悟に業を煮やしたのか木葉が痺れを切らし、



「だ〜か〜ら〜っ。もう、わっかんないかなっ! 

 好きだからだよ! 

 好きだから夢はそんなにも悲しんだんでしょ!?」





 ー 悲しい感情も、寂しい感情も、

 好きだからだ。



 好きだから苦しいんだ。



 俺もそうだった。

 ずっと。ずっとずっと。



 家族や友人しかり、人との別れは辛く悲しい。


 でもそれは、恋愛対象になる人物にもその感情は芽生える。



 なんでそんな単純な事を、俺はわからなかったんだ?

 おかしいだろ?




 だって ー 俺自身がずっと、そうだったんだから。




「でもね。悟君」


「はい……。何でございましょう」


「あなたからしか夢に会いに行けなかったのに、それを放棄した事は重々の重罪よ。そこはわかっておきなさいっ」



 確かに……それは俺にしか出来なかった事だ。


 夢は俺の居場所すらわからず、ただ悲しみにくれるしか出来なかった。



 

 夢に会いに行こうと思えば出来ただろ?


 何故、会いに行かなかった?


 会いたくなかったか? 

 そんな訳はない。


 じゃあ何でだ? 何でだよ。

 何でお前は夢に会いに行かなかったんだよ。



 今過去に戻れるなら、お前に言ってやる。

っていうか無理矢理夢の前まで襟を引っ張ってでも連れていってやる。


 


 ……わかってる。

 わかってるさ。




 きっとそれは、俺自身が弱かったからだ。




 あれだけ夢と離れるのが嫌で嫌でたまらなかったくせに、何度会いに行っても夢に会えなかった事で、自分なりにやる事はやったとどこかで納得しようとしてた。

 

 まるで、夢の事を諦めようとするみたいに。




 もし、夢に会えていたら、俺は伝えていただろうか? 



 あの年で恋や愛だなんてわかってたか?



 ただ、離れるとなった途端に、どうしようもなくやり場のない怒りや悲しみに飲まれ、自分なりにもがいていたが、心のどこかで親や環境のせいにして納得してなかったか?



 あの時、夢に会えたらきっと俺の話しを聞いても怒らなかっただろう。悲しい思いはさせたとしても。

 俺の母親のためだからと、きっと自分がどんなに寂しくても、きっと背中を押してくれたはずだ。


 本気で、必死でどうにかしたら、夢に会えたはずだ。伝えられたはずだ。




 ただ、わかる事は一つ。


 


 俺は、ずっと夢の事が好きだった。




 しかし、自分の気持ちを夢に告白してフラれるのが怖かった。

 夢に拒絶されて夢との関係が終わってしまい、引っ越し云々ではなく、本当に2度と会えない事が怖くて。



 木葉ちゃんが言ったように、夢にもし忘れている、封印した気持ちがあるとしたら、俺にもそれはあった。



 ずっと気付がないフリをして、封印して忘れたつもりでいた俺の気持ちは ー




 夢にフラれるのが怖かったから。



 俺は本当に、夢の前から姿を消したんだ。




 そして偶然再会するまでの7年もの間、俺は夢に会いに行かなかった。



 俺は自分勝手に無理目な美少女に、一人想い焦がれ続けていた。





 そう……

 ずっと逃げていた。




 夢は ー

 夢から逃げた俺を許せないんだ。




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