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82.名探偵 コノハ



 「うっ……わかった! わかったよ! 話すからちょっと、木葉ちゃん、その視線はやめなさい」



 木葉はまだビームをやめない。

 一度出してしまうとなかなか止められないのか?


 視界に入る金田が笑ってる……気がする。



 ……くっ!……ぐっ……!!


 だめ……やめて……。



 困り果てた俺を見兼ねてか、ようやく解放するように木葉はフッと笑顔に戻り、満足気に、



 「よしっ。じゃあ聞かせて♡」



 ふぅ……まいった。あんな目線、もし木葉ちゃんと2人きりの時にやられたら……。いかんいかん、いらぬ妄想が……。



 「……初めて人に話すんだけどな。って言ってもそもそも話す機会もなかったんだが」


 2人共、どこまで真面目に聞きたいのかわからないが……他人に話すのは初めてだな。



 2人の顔は見ずに、俺はテーブルを見つめながら、



「俺は子供の頃からずっと夢と一緒だった。

公園で遊んでで、子供同士ならよくある、どちらからともなく話しかけていつの間にか友達になってたってやつだ。

 学校ではそれぞれ友達はいるが、学校での時間以外はいつもずっと一緒だった。だけど小学5年の時、俺は突然夢の前からいなくなった。


 当時、母親が病気でさ、入院と治療の為に住んでた所とは違う、離れた病院で家族みんなで引っ越す事になってな。冬休み中に決まった急な出来事で、話が決まってから引っ越すまで数日もなかった。

 俺は夢にそれを伝えたかったんだが夢の家に行ったり、いつも遊んでる公園にも行ったんだが、何故かすれ違いばかりで会えなくてな。今思うと電話してもよかったのかもしれんが、顔も見ずに声だけで伝えるのが何か怖かったんだろうな。それに子供心に、もう会えないなんて事、電話で話す事がまず出来なかった。

 

 まあ、正直引っ越したら引っ越したで、また会いにくればいいか、位にしか思わなくなってしまって、そのうち新しい生活が始まったらだんだんそっちの生活に慣れていって、新しい友達もできて、でもたまにふと、夢の事を思い出すんだけど何か会いにいくのが怖くなってな。それに俺がいなくなった後、夢もまた友達でも作って遊んでんだろうって思ってた。っていうか、そう思うようにしてたのかな……」


 そう子供心に自分で落し所をつけて納得しようとしてた。と思う、その時は。



 「そりゃあキツイな……小さかった夢ちゃんからしたら……ってか子供なら普通に結構ショックだぜ。毎日一緒にいた幼馴染が何も言わずにいきなり消えるってのは」



 金田は目を丸くして、子供時代の夢に同情する。



「夢は俺が引っ越した事は、休み明け学校で先生から聞いたって言ってた」


「そうなんだ……」



 木葉は金田とは対象的にしんみりとしている。



 まあ、子供ながらに一緒懸命出来る事はやった。はず。その時は。

 会えなかったのも、何かしら意味があったのかもしれない。

 再会するまでの長い時間、お互いそれぞれに年齢を重ねて何かしらの成長なり経験なり、2人にとって必要だったのかもしれない。



 そうじゃないと、やり切れない。

 


 自分で言うのもなんだが、こんな悲惨な別れ方をしたのだから、今の自分は当時とは違うとはいえど、やはりいくつ年齢を重ねたとしても何かしら自分で落し所をつけていかなきゃやってられない。



 きっとそうだ。



 この別々に過ごした7年間は、2人にとって必要だったんだ。



 今はまだ、その答えはわからない。でも夢とこれから過ごしていくうち、きっとわかるだろう。



 俺がひとり、自分でいくつも落し所を探していると ー



 「まあこれは不可抗力というか、仕方ねえ事だったかもな。夢ちゃんの怒っていた気持ちもわかるが、お前のどうしようもなかった気持ちもわかる。とにかく今は何はともあれ再会できたんだし、めでたしめでたしだ。まあ飲めや」


「何でそうなる。何故酒をすすめる」


「大人になったらよ、まあ飲めや、ってタイミングがちょいちょいあるんだよ。わかんねえけど」


「適当だな」


「でも、それってさ……」



 木葉が口を開く。


「確かに2人共子供でどうしようもなかった事だし、悟君の引っ越すまでの経緯はもう夢に話してるんでしょ?」


「うん。まあ、ある程度は」


「ずっとそれで怒ってたのかな」



 ん? 何が言いたいんだ?



「悟君は出来る事はやったんだよね? しかも自分の家族の事なのに、夢がそれでずっと怒ってるのも逆に何か変、っていうか、本当にそれだけなのかな? って」


「え? どういう……」



「他に何か、あったんじゃないのかって事?」



 金田が割り込む。




ー 他? 他って何だ? ー



「う〜ん。何だかそれだとあまりにも……いや、夢の気持ちもわからないでもないけど、本当にそれだけの理由しかなかったなら、ちょっと……わがままじゃないかなって」




 わがまま?


 何だそれ? そんな風に考えた事なかったぞ?



「いや、夢はそんな子じゃないっていうか、ただのわがままな子じゃないし、もし本当にそんな子だったら……っていうか、2人も想像出来ないよね? その事だけでずっと怒っていた夢なんて。確かに悟君が急にいなくなった事はすごくショッキングな出来事だったはず。でもやっぱり何か他に理由があるんじゃないかなって」



 ううん? 

 ……そんな風に……考えた事なかったぞ。



「でもよ? 確かに夢ちゃんとは長い時間を一緒に過ごした訳じゃねぇけど、ひょっとしたらそんな超わがままな部分があるかも知れねぇぞ? 木葉ちゃんもとい、俺も幼馴染だった悟すらもまだわかってないだけで。なぁ? どうよ? 悟は」


「……いや、俺も確かにそう言われれば……。夢は俺に対していつも不機嫌だったり腹の立つ事を言ってきたりするが、やっぱりわがままとは別の気もする……っていうか、もし本当にそれだけで、俺がいなくなった事だけをずっと怒っていたんだとしたら……確かにちょっと無理があるというか、夢らしくないというか」


「だよね? 引っ越しの事は、お母さんの病気やお父さんの考え等も当然、というかむしろ2人が決めた事であって、悟君にとってもそれは不可抗力だったはず。それを子供の時だけならまだしも未だにずっと許せてないっていうのは……あ……あれ?」




 木葉が急に会話を止め、天井を見るでも見ないでもないような目線でぼんやり空中を見つめる。



 ん? どうした? 



 「ふふん……わかった。わかっちゃった」



 木葉が急に名探偵よろしくな感じで人差し指を立てて、名推理? を披露する。




「夢、きっと悟君のこと、好きだったんだよ」




 なっ!!

 マジかよ……


 マジけ……。


 

 木葉ちゃん、一体それどんな落し所よ……。





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