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81.木葉ビーム



 「ほれ、ビールのつまみにお前が揚げたチキンもあるぜ。じゃんじゃん食え」


「いや、もうじゃんじゃん売って見飽きたし、こんなに食えないんだが」



 悟は金田から、さっきまで店で作って売っていた山盛りのチキンの皿を差し出された。

 しかし勧められるまま、とりあえず1本、手に取って食べる。



「うまいか?」


「うまいはうまいが、さんざん売ったから何故かもう既に食べてた気がする」



(悟君、ホンモノのビールのつまみにチキン食べてる。もう大人だね。きひひっ)



 思わず笑みを浮かべていた木葉に悟が気付き、



「うん? 木葉ちゃんどうしたの? 何か面白かった?」


「えっ? ううん、何でもない。じゃんじゃん食べてよっ」


「だからじゃんじゃんはムリだって」



 チキンを食べる悟を前に、金田と木葉はニヤニヤしながら悟の顔を見つめている。2人して心の中でつぶやく。


 (早く酔っ払わないかな、コイツ)

 (悟君、早く酔っちゃえ)



 ふと自分を見つめる2人の視線に気付いた悟は、



「なに? なんだよ、さっきから2人共様子が変だぞ? 俺の顔に何かついてるか?」


「いやいや、別に。男前だなって」


「やかましいわ」


「そういえば悟君さっき、まだギリギリ未成年だって言ってたけど、誕生日っていつなの?」


「うん?」


「あっ、そっか木葉ちゃん知らなかったね。まだ知り合ってそんな経ってないもんね。コイツの誕生日は1月1日なんだぜ。なんかめでたくない?」


「えっ? そうなの? なんかってどころか、かなりめでたいよ、それ! おめでたいよ!」


「ああ……まあ……な」



 悟はいつも自分の誕生日を聞かれるたび、みんな一様に驚くリアクションをするのだが、さすがに毎度の事なので、さらりとかわす免疫がついていた。



「じゃあひょっとして、あれかな? 誕生日ケーキならぬ、誕生日もちとか食べるのかな?」


「ぶぁっはは! それ面白いな! どうなんだ? 正月だからケーキじゃなくてもち食べてんのか?」


「まあ子供ん時は餅もケーキも両方食べてたけど……」



 ふと、子供の頃は元旦の日は朝から餅が出て、そしてその日の夜は母親が自分の誕生日ケーキを出してくれていた記憶が頭をよぎる。

 


 (そういえば母親が入院するまでは毎年、お年玉と誕生日プレゼントを両方もらってまわりからは羨ましがられてたな。

 でも毎日、誰かのなんかの記念日だ。俺だけ特別という訳じゃない。それに今はもう……。

 いかんいかん……感傷に浸ってる場合じゃねえ……)



「まあ……ここんところは何もやってない。スーパーで餅買って食うくらいだ」


「え〜っ、そうなの?」


「まあ実家出て一人暮らししてるし、わざわざ正月から誰かと一緒に過ごすとかもないし、特に誕生日だからってこれといって何もやってないかな」


「え〜っ。悟君、ちょっとそれさびしいよっ。だめだめっ! そだ! 元旦の日はみんなで初詣行って、その後悟君のバースデーパーティーやろうよ! ねっ! 金田君もいいでしょ? 夢も誘うから!」


「マジか……正月からこいつの顔を見んのかよ」


「こっちもある意味つかれるわ。……っていうか、気持ちは嬉しいけど、さっきも言ったけど正月から集まるのって大変だろ? 年明け早々みんなも忙しいだろうし」


「つれない事言わないのっ。今年の誕生日は4人で集まろうよ! まあ……みんなも家族との予定とかあったら……あったら、やっぱり……その次の日、とか」


「だろ? 無理しないでいいって」


「まあ、それぞれどうすっか連絡し合えばいいんじゃね? とりあえず今はグイーッとやれ。な」



 金田は改めて缶ビールを当ててきた。まるで今の2度目の乾杯は俺の誕生日おめでとさん、とでも言わんばかりの。

 ついでか? ついでなのか? 金田よ。



 しかし……なんだこのビール。……ちょっとなんていうかこう……なんだろう。なんかグッとくるな。



 夢は相変わらず起きる気配がない。

 こうなりゃちょっと顔に落書きでもしたくなる。

こんな美少女をそんな形で汚してみるのもまた一興だ。ぐへへ。


 きたない妄想に浸っていると突然木葉が、



 「あのさ、夢が寝ちゃったついでに、今ここでしか出来ない話ししていい?」


「おっ!? なんだ木葉ちゃん? 聞きたい聞きたい! なっ? 悟」



 いやに乗り気の金田を無視して、



「うん? ……何だ?」



 計らずとも、俺は多少身構えてしまう。



「あのさ、夢と悟君って昔一体何があったの? 幼馴染の関係で偶然再会してさ、でも夢は初めずっと悟君に対して不機嫌というかつれない素振りをしてて、ただの幼馴染でも特別仲がいい訳じゃないなら、その時だけの再会で終わらせてしまってもう会う必要もなかったわけじゃん? でも、夢は悟君と再会してからはこうやってちょくちょく会ったり漫画見せたりして、でもいつも悟君に対してはこう……なんていうか手厳しいというか、会ってるくせにその……」


「ツンデレ?」



 金田がすかさず一言添える。



「うん……まあ、それもあるんだろうけど、最近は多分悟君に対してのテレ? みたいなものも入ってるんだろうけど……。

 以前ね、夢と悟君の話しをしてた時にさ……夢がポロっと、まだ許してる訳じゃない……って何か独り言のように言ったの。その時に私、2人は過去に何かあったんじゃないかってピンときたの。夢はずっと、悟君に対して何か思ってた事があったんじゃないかって」


「そういえば悟、俺にも前にそんな事言ってたよな。何か過去にやらかしちまったとかどうとか」



 そういえばこの2人はそれぞれが俺と夢にとってはおそらく現時点で一番近い存在だ。

 金田は俺を、木葉ちゃんは夢を、多分それぞれきっと一番知ってる、多分。

 でも俺と夢の2人の事を一番理解してるって訳じゃない。いや、もちろん理解して色々と知ってはいるが、全てではない。そりゃそうだ、俺達の事なんて、当人同志にしかわからない。もっといえば2人にとっても、この先はどうなるかもわからない。



 俺が無言を貫いていると金田が、



「……よっしゃ、じゃあしょうがねえ。話してみろ」



「いや、何がしょうがないんだ」


「私達もずっと二人を見てきててさ、そこはやっぱり気になる所なのよ。せっかくこうしてみんな揃って、しかも夢は今寝ちゃってるっていうこのベストなタイミングで、悟君の口から一体何があったのか知りたいな〜っ」


「いや、とはいえ何でもかんでも話したら俺と夢がお前らにどう料理されるか心配でたまらん」


「なんだよ、つれねえなぁ、そんな仲だったか? 俺らは。飲みが足りねぇんじゃねえか?」


「そうよ。金田君の言う通りよっ。つれないつれないっ」



 うっとおしい位の2人の説得に俺1人ではなかなか太刀打ちできない。くそっ、夢が今起きててくれればなぁ。……あ、今夢が寝てるから俺、詰められてるんだ。なるほど。バカか、俺。


 しかし、金田と木葉ちゃんの2人が手を組んだらどんな堅物な奴でも落ちそうな気がする。



「大丈夫、もし夢にバレそうになったらお酒のせいにして何話したか覚えてないってうやむやにしちゃうから。アタシたち、友達でしょ? ね?」

 

 「いや、ゴリ押しすぎるだろ、その言い訳は」



 そして……



 木葉が急に、いじらしく甘ったるい視線を送ってくる。


 

 「ねぇ……悟……くん……?」




 (……ん?? ……なんだ!? なんだこの木葉は?)



 悟は自分を見つめる木葉があまりにも可愛いく、そして色っぽく見えてしまい、思わずたじろいでしまう。



 「ねぇ……」



(なんだ? なんだなんだこの木葉の感じは? まさか……女の色気ってやつか? なんだこの破壊力は……なんか、ヤバいぞ……そしてズルいぞ)



 確かに、木葉もなかなかの美少女ではある。



 もし……もしだよ? 万が一、俺が夢に出会わず全く別のシチュエーションでどこかで木葉に出会っていれば、ひょっとしてひょっとしたらこの美少女に恋焦がれていたかもしれない位、それ位のレベルの女性だ。うん。

 まあ、夢の存在がある以上、そんな事はないけどね。ないけどね?

 しかし今のこの酒の入った木葉はなかなかに、というか、かなり色っぽい眼差しで俺を見つめてきていて……こんな視線で見つめられたら、金田がゾッコンなのもそれなりにうなずける。



 木葉は一向に、超絶男を落としにかかる美少女の甘い目線であなたをくださいビームを止める気配はなく、悟は妙に息苦しくなり、思わず金田のほうへ目を逸らす。

 金田はお前も木葉ちゃんビームにやられたな、と言わんばかりに何故か俺にドヤ顔をしてエア乾杯をしてくる。



 何なんだよ……この2人は。まいったな。



 やっぱ夢、起きてくれ。

 そしたら俺、話さなくていいから。お願い。




 

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