8.何であんたが……
「はいっ!今回も引き続きガーリッシュクロス、ガリクロから「リンリン・ウイッシュ」のメイド達みんなで合宿に行くところ、ひょんなとこから居合わせた主人公のヒカルが何故か同伴する事になったってところからですね〜……」
「…何これ。何で? 悟?」
スマホの画面から垂れ流されるゲーム実況の動画から聞こえるのは、明らかに今日会った悟の声で、そして画面には2次元美少女達が所狭しに立ち並び、どうやらみんながバスに乗ってその中の一人の男の子らしきキャラクターに詰め寄っているらしきセリフが聞こえてくる。
「だめっ!ヒカルは私の隣っ!」
「あら、そんな態度でいいのかしら? 昨日あなたの洗い忘れたパンティー、しっかり洗濯して干しておいてあげたの、誰だっけ?」
「いやいや、拙者も忘れては困りますぞ?いつもヒカル殿にアツアツのおしぼりを冷ます事なく交換し続け、常に抜かりないえちえちサービス…コホン。快適サービスを提供している拙者を差し置いてヒカル殿の隣に鎮座しようという不届き者、そんな蕪村者は拙者が斬って差し上げますぞ」
「ねぇ……ヒカル。私じゃ、私じゃだめ……かな?」
画面上には明らかに夢にとってはカオスであろう世界が繰り広げられている。
「何なの?これ……私はゲーム実況に対してそんな詳しい事は知らない。見てるのもピヨぐらいだし。でも明らかにこの動画……何か変」
このチャンネルの登録者数は300人余り。
しかし動画の再生数は3000回ちょっと、なのになんで自動再生とはいえピヨの次に?……多分登録者数に見合わない再生数が出た、いわゆるちょっとバズった感じになっちゃって、それがYouChubuのオススメに出てきたって事?
「しかもこれ、絶対悟だよね?さっき〈さと寸〉って名乗って近い名前言ってたし!それに今日、動画配信やってるって言ってたし!……でも、もしかしたら、たまたま声と名前が似てるだけかも知れないし……」
「いや〜ここにきて選択かーっ! いや、わかってましたよ! わかってたけどね! でもここで選ばすのはちょっと酷というもので! 今この時点である程度ルート絞られでもしたらキッついしなーっ。また後で秘蔵っ子キャラとか来たら泣くよ! 泣いちゃうよ! せめて混浴シーンまで待ってよ〜!」
いや…でもやっぱ似過ぎてる。悟に。
「別に勝手に好きな事やればいいけど、何か、何かこう……何ていうのかな? こういうの。これ……私の幼馴染だよね? でも何ていうか……何かこのテンション……腹立つ」
「う〜ん。じゃあ僕が今隣に座って欲しい人は……」
「こいつ、自分でセリフ声出して読んでる」
にぎり絞めたバスタオルを持ったまま、夢はベッドの横で立ち尽くしたまま、悟の動画に釘付けになっていた。
「何の動画やってるの?って聞かなかったけど、まさかこんなゲーム実況してるなんてね。こんなの顔も出さない、声だけならカメラなんていらないじゃん。
なんでわざわざ嘘まで付いて……」
一瞬、バスタオルを握る手の力が緩む。
「まあ、私には関係ないけどね? 本当に関係ないけどね? 私も私でやりたい事やってるし! でも悟ってもっと何か、こう……」
ー 「はっ……」
「私、悟の事…決め付けてる…。悟は悟で生きてきて、色々あったよね。趣味だって、それこそ性格だって変わる事もあるよね。私だって変わったもん、色々と。だから、その人が変わってしまって会いたくなかったら、別に会わなきゃいいじゃん。今日だってたまたま、偶然再会してお兄ちゃんの事頼んじゃったけど、別に私までその時にいる必要ないし、なんならもう会う必要もないし。だから別に悟は悟で好きな事やればいいし、私がどうこう思ったり言う事じゃない。
幼馴染は幼馴染。ただ昔、いつも一緒にいただけ。それだけだし、私が悟のやってる事に対してどうこう言う事じゃない。2人共、もう大人なんだし自分の好きな事すればいい」
ー 好きな事をやっていればいい。本当にそう。
なら、何で?何で私、こんなに怒ってるの?
………ああ、そうか。
きっと、本当に心から楽しんで好きな事をやってる悟が、うらやましいんだ。