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79.約束ねっ。


 「う〜っ。さぶさぶっ」



 悟は一度家に帰り、金田の家に向かう途中、買い出しの為コンビニに寄っていた。



「あいつらきっと酒飲んでんだろうな。やっぱ店長の言ってたように俺だけ無難にコーラとか買ってったら……引かれるよな。夢はともかく、金田と木葉ちゃんがそれで良しとは言わなそうだな……まいったな。しかし酒とはいえ、何買ってけばいいんだ? ノンアルとか買ってったら白い目で見られるかな……」



 ふと、スマホが鳴る。



「おっ? あ……夢」



「アンタいつくるの? 2人とももう既に酔っ払ってるから私だけじゃもう無理 早くきなさい」


「うっ……マジかよ……。しょうがねえな。……そうだ、逆にそのまま2人を飲み潰して、夢と2人きりになってやろう。うん。よし……『今コンビニで買い物中 終わったらすぐ向かう』 ……っと」


 

 悟は夢に返信した後、よくわからないまま酒を買い物カゴに数本入れ、そして無理に勧められた時の為に自分用にノンアルコールのものも数本追加し、レジに向かう。


 コンビニを出て、悟はまた足早に金田の家に向かう。途中何組かのカップルが腕を組み、幸せそうに悟とすれ違っていく。



 「ああ……やっぱああいうのと出会くわすと腹が立つな……なんでだ。人は人だし、別に関係ねぇじゃねえか。いちいちクリスマスのカップルに腹立ててちゃ持たねぇぞ、俺。……しかも俺はこれからめちゃくちゃに可愛い美少女とクリスマスパーティーなんだ。しかもそんじょそこらの可愛い子じゃねえ。とびきり無理目の可愛い子とパーティーなんだ。しかし……おごるな、俺。油断するな、俺。金田の家にはまず、恐らくデキあがっているであろう金田と爆弾投下たまにグッジョブ娘がいる……まずはその2人をグイグイ飲ませて、2人がぶっ潰れて寝入ったら、その後は夢と2人でラブラブなクリスマスを過ごすんだ。……まあ、シチュエーションは金田の家と少し不満があるが……。いや、ここはそんな事言ってる場合じゃない。一刻も早く金田ん家に辿り着いてまずは2人をグデングデンにさせなければ……しかしその前に俺が飲まされてブッ倒れないようにしなきゃな。……っていうか……何だこれ? クリスマスだろ? パーティーだろ? しゃらくさい作戦なんぞ立てずとも、俺はただ、夢に突っ走ればいい。あとは出たとこ勝負だ……。待ってろっ! 夢っ!!」



 なるべく急ぎ足で金田の家に向かっていたものの、一度自分の家に寄ってから金田の家に向かうとなると、かなりの時間のロスと距離が生まれる為、結構な時間をずっと早歩きで向かっていた悟は、なかなかに体力を消耗していた。寒さにやられながらも夢に会いたい一心で急ぎながら、今夜のクリスマスイヴを少しでも長い時間を夢と過ごしたかった。途中、通り過ぎていくタクシーを拾おうかと迷ったが、悟は何故か意地のような気持ちでひたすらに歩き続けた。


 


 ふと、昔の記憶が蘇る ー




 小学5年生の時、2学期の終業式が終わり、夢と2人で雪の降る通学路を通り家路に向かっていた途中、道を挟んだ向こうに明るく照らされた街の商店街の入り口が目に入り、悟は夢の手を取って賑やかな明かりの灯る商店街の方へ連れ出した。


 商店街全体がクリスマスのイルミネーションで彩られており、クリスマス風にデコレーションされたお店や暖色系の照明が灯り、商店街を行き交う人々の笑顔で彩られた街並みは、冬の寒さも忘れそうな位の温かさがあった。


 その光景を見た2人は浮き足だって商店街の中を歩いていく。


 その途中、夢が、



 「ねえ、悟。サンタさんっていると思う?」


「サンタ? 夢は? いると思うか?」


「あたしは……いると思うな。実は去年、お父さんが私の部屋に入ってきて、プレゼント置いてるのを見ちゃったんだ。でも、あたしはやっぱり……サンタさんはいると思う」


「まあ、俺もだ。どっちかっていうと……いると思うな。まあでも、うちなんかに来なくても、世界のどっかには、いるんじゃねえかなって思う」


「だよね。だって……そうじゃなかったら、サンタさんっていう存在がこの世界にそもそもなかった気がするもん」



 2人は子供ながらもどこか冷めた目線でサンタクロースについて語っていたが、商店街の途中、広場に置かれたサンタがトナカイを連れてプレゼントを運ぶオブジェを見て、それに見とれる2人の心はときめき、目の輝きはいっそう眩しくなっていた。




「いつか会えるかな。サンタさんに」



 夢がサンタのオブジェの放つ照明に照らされながら、明るい笑顔で悟に聞く。



「ああ。会えるさ。それにもし、サンタがいつまで経っても夢に会いに来ないなら、いつか俺がサンタになって夢に会いに行ってやる」


「バカっ。悟はサンタさんじゃないでしょ? それに悟ならすぐにわかるし」


「いやいや、この前テレビに流れてた歌で、恋人はサンタクロース〜♪ って言ってたぞ。だからお父さんでも恋人でもサンタクロースにはなれるんだ。だから俺がなっても大丈夫なんだよ」


「えっ? じゃあ悟は私の何?」


「えっ……そりゃあまあ……あれだよ、何ていうか……その……」


「何?」


「その……あっ、あれだ! 大事なやつだ! そうだ、大事なやつだ!」


「ぷっ。何? その、大事なやつ? って。ウケる」


「いいんだよ。何でも。大事なやつだったらサンタにでもなんでもなれるんだよ」


「ふーん。そっか。じゃあいつまで経ってもサンタさんが私の前に現れなかったら、悟を呼んだら来てくれるの?」


「おう。任せとけ」


「ほんとに〜?」


「本当だって。サンタはうそつかねえ」


「そっか。じゃあ楽しみにしてる。でも今年はきっとお父さんがサンタになってくれると思うから、来年は悟にお願いしようかな」


「いいぜ。家の鍵、空けといてくれよな」


「バカ。そんな事できる訳ないじゃないのっ。サンタは煙突やベランダから入るんだから。もし忘れてなかったら、部屋の窓は空けといてあげるわ」


「おいおい。そこは絶対忘れるんじゃないぞ。入れなかったら凍え死んじゃうからな」


「その時はトナカイに乗って急いで帰ればいいじゃないの」


「……おいおい。トナカイも連れてかなきゃいけねぇのかよ……」


「何とかなるでしょ? サンタさんなんだから。約束ねっ」


「やれやれ……」



 2人はしばらく広場のサンタクロースのオブジェを見つめながらも、お互い密かに来年のクリスマスを楽しみにしていた。


 しかし悟はその1ヶ月後に、夢の前からいなくなってしまった。





 「……もう、大分昔の事だ……。でも夢は、覚えてんのかな……」




 思い出を噛み締めながら歩いているとようやく、金田の家が見えてきた。



 悟は息も絶え絶えながら、金田の部屋の明かりが見えた途端、安堵し、疲れた体とは裏腹に悟の心は妙に落ち着き初めていた。


 ようやく金田の家に着いた。が、しかしすぐにはインターホンを押せず、しばらくその場で肩で息をし、うつむきながら上下に揺れるコンビニ袋を見つめる。



 「7年振りに出会えた、俺の無理目の美少女……やっと一緒に、クリスマスを過ごせる」




 深呼吸をして、オートロック玄関の前に立つ。



 「302……と」


 

 呼び出しボタンで金田の部屋番号を押す。



 少しの間があり、そして、



「おー。遅かったな」



 金田の声。



 「ガチャリ」とオートロックの空いた音がして、悟はマンションの中へ入っていく。



 エレベーターに乗り込み、金田の部屋の階で降りて部屋の前まで来た悟は、神妙な顔つきでインターホンのボタンを押す。



「はいよーっ」



 金田の声がする。


 ドアの向こうからドタドタと走って玄関に向かう音が聞こえてきた。



「ガチャ」



 ー? あれ?



「いらっしゃーいっ! 遅かったね! 悟君! さあ、入って入って! アタシの部屋じゃないけど」



 出て来たのは木葉だった。



 あれ ー ? てっきり金田が出てくると思っていたが……まあいい。夢までとは言わず、なかなかの美少女に出迎えられる事はそうそうない。しかも金田に比べれば、木葉ちゃんに出迎えられるほうが、迎えられる側としての喜びは天と地の差ほどの差がある。 



 「お待たせ。ごめんね。思ったより遅くなっちゃって」



 急いで来たものの、確かに待たせてしまったので、軽く謝罪をして部屋に入る。



 早く、夢に会いたい。

 お酒を飲んでほんのりとした赤ら顔で俺に、「遅かったじゃないのっ!」なんてツンデレ感満載でからんでくる夢が想像出来る。



 ごめんな。お待たせ。

 やっと着きましたよ。あなたのサンタが。



 「悟君が来るまではゆっくり飲もうかと思ったんだけど、いざ始まったらけっこうなペースでやっちゃって……あ、金田君今トイレ行ってるから。でね……アタシと金田君、そこまでするつもりはなかったんだけど……思ったより弱くて。一緒に待ちたかっんだけど、ごめんね。てへっ」



 俺に続いて廊下を歩く木葉から何故か謝られ、一体何の事かといぶかしみながらリビングへはいると、そこには……。

 



 「ほんと、今さっき、こうなっちゃって……」




 テーブルに頭を突っ伏して飲み潰れた夢がいた。





 「おいおい……なんでやねん」





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