76.わたし達があたためます。
「らっしゃ〜せ〜っ……」
「はいっは〜い。クリスマスチキンですよー……いかがでしょうか〜っ」
息もなにも合ってない、ただ疲れ切った2人の男が閑古鳥よろしく店の前に立っていた。
木葉と夢に追いついた金田が、2人の肩越しから店の前を覗き込む。
「なんだあの2人は……何やってんだよ。マジで今日休みでよかったぜ……。俺たちに気付いてる様子もねえ。ただボーッと突っ立って……。こんなさみぃのに、店ん中でやりゃあいいのに。バカだな……うん。バカだ、アイツら」
「ねえ、金田くん。ちょっと声掛けてよっ」
「いや、ヤダ。何か2人に見つかっちまったら俺も仲間入りさせられそうな気がする……」
夢はこの寒空の下、店の前でチキンを売っている悟の姿を見て、何やってんのという気持ちと、悟の顔が見れた安堵感からか、思わず悟に近づいていった。
「あっ? 夢ちゃ……」
思わず金田が夢を止めようとするも、
「……おっ? いらっしゃいませ〜っ! クリスマスチキンはいかがでしょうかっ!」
死んだ魚の目をして、ただの呼び込みリピートロボと化していた店長は、近づいてきたハイレベルな美少女に気付き、はっ! と我に返り、とっさに営業スマイルを浮かべる。
「悟……? 大丈夫?」
「えっ? あっ……! あれ? 夢?」
「ねえ、大丈夫? 悟?」
「お・おう……。っていうか、えっ? ここで何してんの? どうして……?」
「メリークリスマスっ!」
夢の肩越しから、明るい笑顔で木葉がひょこっと顔を出す。
「よっ。お疲れさんっす。店長も」
続いて金田が声を掛ける。
「えっ? 何でなんで? 何でお前ら、ここにいるの?」
木葉が夢の手を握り、
「今日は私達3人でイブのパーティーをやるって事は……知ってたよね? ……それでさぁ、晩ご飯を食べに行こうって事になったんだけど、金田君がどこもお店取れないから、ウチに来いよって……で、連れて来られちゃった。てへっ」
「おいおい、金田、お前マジかよ……」
「いやいや! 木葉ちゃん!? あれ? おっかしいなーっ!? それ、ちょっとおかしくない? 何か俺、悪い奴になってるけど!?」
「おう、金田。こんな美少女さん達とイブにデート出来るなら、そりゃ休みたくもなるわなぁ。まあでもしょうがない、せっかく店まで来たんだからやってけ、サンタ」
「いやいや、今日は自分休みっすから。しかもほら……もうすぐ閉店時間じゃないっすか? 遠慮しときます。こんな寒空の中、仲良くチキン売ってるラブラブの2人の間に入るのも悪いんで」
「遠慮はいらねぇ。やってきゃいいのに」
「いや無理っす。勘弁してください」
夢が悟に歩み寄る。
「悟、頑張ってるね」
「お・おう。まあ、仕事だしな。さすがに外での声掛けはちょっとキツいけどな」
「ちょっと、悟、鼻水出てない?」
「えっ? うそっ!?」
「嘘だよっ。出てても気付かない位、寒いんでしょ」
「……まあ、ずっと立ってた訳じゃないし、ほんの少しの時間なら大丈夫かと思ったんだがいざ、外に出てみたら一瞬で冷えた」
「風邪引いちゃうよ?」
「そうだぞ? 悟くん。まあ、でもその時は夢に介抱してもらえるけどねっ。ひひっ」
「こらっ。木葉っ。余計なこと言わないのっ」
「悟、この娘がお前の……あれか? ムリメな幼馴染か?」
「あ……はい。まあ、そうっす」
「可愛いじゃねえか〜っ! しかも2人共可愛いなーっ! やっぱ青春してんなお前らっ! 俺も混ぜてほしいわ!」
「どうもっ! 初めましてっ! 私、桃野 木葉といいますっ! そしてこっちは、小山内 夢ですっ! 寒い中、お疲れ様ですっ!」
「ああ、いつもバカな悟と金田がお世話になってます。店長の袴田です。よろしくです」
「何すか、その親みたいな挨拶は」
「何言ってんだ。ある意味俺はお前らの保護者だ。こんな可愛い女の子達に、悪さしないか見張らないといけないしな」
「店長さん、スッゴくガタイがいいですねっ! 素敵ですっ!」
「おおっ。ありがとうございます。聞いたか? キミ達? 俺もまんざらじゃあないぞ?」
「いやいや、店長はちょっとあれっす。年ハミでてます」
すかさず金田がツッコむ。
「何だよ、それ。ちょっと位だろ? そんなの、別にいいじゃねえか。俺もまだまだ恋愛できる年だぞ?」
「そうですよねーっ。こらっ、金田くん。店長さんに失礼な事言わないのっ。カッコいいですよっ! 店長さんっ!」
「ありがとね。マジで嬉しいわ、俺。悟、お前こんな可愛い女の子達と友達だったなんてな。これからもよろしくな」
「なに俺にゴマすってるんすか。ところで何で店来たの? 何か買っていくのか?」
「いや、すでに色々買ったんだ。悟、お前バイト終わったら予定ないだろ?」
「いや、何だその軽く失礼な言い方は。まあ確かに予定はないが……」
「おけ。じゃあ終わったら俺ん家来いな。待ってっから。待ってっからって言っても先に容赦なく食べてるけど」
「ほらっ。夢も」
「えっ? ……ま、まあ私達もそうそう2人揃ってこっちまで来る事もないから、ヒマだったら来ても……いいんじゃない? ……かな。まあ別に無理しなくてもいいけど」
「何言ってんの〜っ。もうっ素直じゃないんだから。悟君、無理してでも来てね! 待ってるから!」
店長が会話に混じり、
「じゃあどうだ? チキン買ってくか?」
「はいはいーっ! いただきますっ! 10本で!」
「ええっ!? マジかよ? 木葉ちゃん!?」
「いいねーっ。若いから沢山食べれるよなっ! ありがとうございますっ!」
「金田くん、ありがとっ」
「ええっ!? また俺のおごり?」
「うふっ、金田くん。ありがとっ」
悟も真似して乗っかってみる。
「やめろっ! 気色悪いっ! まあ、これで買い物は終わりだし、2人もはるばるこっちまで来てくれたから、今日は出させていただきますよ」
「ほれ、2本サービスだ。もってけ」
「え〜っ! ありがとうございますっ! 店長さんっ!」
「ええ。これくらいでよければ。バカな悟と金田の相手をしてもらっているせめてものお礼です」
「いや、だから親かよ……」
「店長さん、ありがとうございますっ」
夢も店長に計らずとも無理目な笑顔でお礼をする。
やれやれといった表情をする悟は、急に現れた3人のお陰でつらい寒さを、しばしの間忘れていた。
「悟……本当、大丈夫? 風邪引かないでよ」
「ああ。ありがと。大丈夫だよ、このくらい。みんなも早く金田ん家行って温まりな」
「おう。じゃあな。待ってっからよ」
「おう」
「店長さんっ! ありがとうございますっ!」
木葉が明るい笑顔で店長に挨拶をする。
「はいっ、こちらこそ、ありがとうね! 寒いから気をつけてね!」
夢もペコリと店長に頭を下げ、そして悟に小さく手を振り金田と木葉の後を追う。
美少女達の笑顔で一時の安らぎを感じた悟と店長は、残りのチキンを売る気力が湧くどころか、逆にすっかりやる気を失っていた。
「……店頭の分のチキン、何本売れた?」
「え〜っと……さっきの金田への12本を入れて……18本すね」
「よし、片付けるか」
「うっす」
「今日はちょっと早いがもう閉店だ。少し位、早くシメてもいいだろう。メチャクチャ売り上げあったしな」
「はい。今日は俺的にも記録的に忙しい日でした」
俺たちは何の迷いもやり残した感もなく、手際良く店頭販売のチキンや備品を片付け始めた。18本て……。
これが終わっても、まだ店自体の片付けがあるから、金田の家に行くのはもうちょっとかかるな……。
長テーブルを2人で持ち上げ、店内へ運ぶ途中店長が、
「やっとわかったよ」
「え? 何がすか?」
「お前の言う、ムリメって事の意味が。……あれ、本当に無理目だぞ。大丈夫か? お前」
「ですよね。でもイブの今日、こんなタイミングで会えるなんて思ってなかったっす。これはきっと俺に運が向いてるって事ですよ」
「フラれたら遠慮なく言え、胸かしてやっから」
「そんなんいいっす」
「ああ〜っ。俺のイブはこのまま終わっちまうのかぁ〜っ? くそっ。悟、テーブル入れたら店の方の片付けやっといてくれ。俺は外で残りの分やっとくから」
「は〜い」
「ああ……俺も青春してぇな〜っ。一体、いつになったら1人で過ごすクリスマスが終わるんだろうか……」
独りボヤきながら店の前で旗をたたみ、店長は閉店作業に取り掛かった。
「……あれ〜っ? もう閉店なのかな……ちょっといつもより早くない? なんでだろ。クリスマスだからかな?」
一人背中を丸め閉店作業に没頭する店長の後ろから、店の方に歩いてくる高橋ちゃんの姿があった。




