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75.チキン、買って


 木葉、金田、夢の3人は、悟の店のある天央寺駅に降り立っていた。

 底冷えしそうな冷たい夜風に吹かれながら、木葉がせっつく。


「ひゃ〜っ、寒いっ! ささっ、金田君案内よろしくっ! 早く行こうっ」


「ああ。しっかし冷えるな。これじゃ風邪引いちまうぜ。とりあえずまずはスーパーに寄って、飲み物とつまみ買って、それからケーキ屋、それから最後に悟の店って流れが一番楽なルートだ」


「わかった。よろしくっ」



 木葉と金田の会話をよそに、夢は一人浮かない顔をしていた。



「どうしたの、夢? 寒いの? 大丈夫?」


「うん。寒いけど、でも大丈夫。早く行こっ。……あの……やっぱり行くの? 悟のお店」



 木葉が目を丸くして夢の顔を覗き込む。



「え? 何で? 行きたくない? やっぱ会いたくないの? 悟君に」


「えっと、その……悟も仕事中だし、わざわざお店まで行かなくてもいいんじゃないかなって」


「でも、そのまま悟君を直接誘えるじゃん?」


「そうだけど……そんなに2人共、悟を誘いたいの?」


「おいおいやだな〜っ、夢ちゃんは。木葉ちゃんは悟と夢ちゃんの為にせっかくのイブの夜をだね、こうして店まで行って……ぐふっ!」



 金田の腹に重い一発が入る。


 金田に目もくれず腹パンを入れた木葉は、夢をその気にさせようと話し出す。



「まあまあ。無理にとは言わないけど、せっかくのイブなんだから、金田君の家も近いしせっかくだから声掛けようってのっ。でも、ひょっとしたら悟君もバイト終わったとしてもその後、他に用事あるかもしれないし? とにかく行ってヒマだったら声掛ければいいじゃん? もし悟君がイブの夜一人きりだったら、私達が近くにいるのに声掛けないってのも、それはそれでさびしいじゃん? ね?」


「うん。……でもあまりしつこく誘っちゃダメだよ? 急なんだし……」


「おや〜っ? いつから夢は悟君に対してそんなにおやさしくなったの? なになに? 大事にしたい的な?」


「もうっ! からかわないでよっ! 別にそんなんじゃないし、ただ忙しくしてたら、急に行ったら迷惑かなって思っただけっ!」


「はいはい。ったくこの子は。まあ行ってみないとわかんないから、とにかく買い出しが終わったらとりあえず寄ってみようね? ね? 夢ちゃん?」


「わかった……」



 金田と木葉は互いに目をやり、「とりあえず順調」と確認し、駅前のスーパーに歩き出した。






 「クリスマスチキンいかがですかーっ!」


「クリスマスの数量限定、ほっとホットのクリスマスチキンはいかがでしょうかーっ!」



 悟と店長は店前の歩道にテーブルを出して夜風に吹かれながら道行く人々にクリスマスチキンの呼び込みをしていた。

 あまりの寒さに頭がやられたのか、通行人がいようがいまいがやたらめったに叫びにも似た大声で必死にチキンを推している。道路を挟んだ向こう側の歩道を歩くサラリーマンが声に驚いて、棒立ちする2人のエプロンサンタを見ている。



「店長……思うんすけど、やっぱもうちょっと声抑えた方が逆によくないっすか? こんなデカい声出してたら来るお客さんも引いちゃいますよ。何か通る人もちょっと距離とって目の前を通っていきますし」


「何言ってんだ。こういう夜の寒空の中、必死になってやるからこそ、お客さんの目を引くんだ。想像してみろ。例えば道に可愛い子犬ちゃんが段ボールに入れられて捨てられてたとする。その子犬ちゃんはどうする? きっと人の目を引く為に、助けてもらうために頑張ってワンワン鳴くだろ? それに俺は体育会系だ。厳しい状況ほど、デカい声が出るようになってんだ」


「いや、俺らは子犬ほど可愛くも何ともないし、しかも俺は体育会系じゃないっす。俺が通行人だったら、こんなうるさかったら買おうかなって寄らないですって」


「考え方の相違だな。……しかしまあ、お前の言う事も一理、あるっちゃある。……じゃあやってみっか? 抑えめで。しかし、あれだぞ? 熱意は出すんだぞ? クリスマスですよ、プレゼントですよってな」


「いや、逆に何かむずかしいっす」



 店長もこの寒空の中、さっきの怒涛の注文ピークタイムを終えてそうとうの疲れが出ているはずだ。しかも今度は外に出て店外販売ときた。内心、俺の「抑えめ」提案に多少はほっとしているに違いない。



「クリスマスチキンで〜す」


「いかがでしょ〜か〜」



 二人共、疲れがピークだったのか、上がっていたテンションを一度下げてデカい声を出さずに呼び込みをすると、今度は逆にやる気のない店員風になり下がる。なんともはやだ。

 しかし、一度下げたテンションはそうそう元には戻らない。二人はまるで自分達が捨てられた子犬のように、だんだんと呼び込みの声が小さくなっていった。



「いらっしゃ〜せ〜っ……」


「チキン、いかがでしょうか〜……」




 もう、やめちまおう。店長。

アンタ、よくやったよ。追加でチキン揚げた時はこいつバカじゃないの? と思ったが、その心意気だけは俺が保証する。アンタ、頑張ったよ。

 だから、もう帰ろう。店じまいして帰ろうよ、店長……。






ー「いっぱい買っちゃったねっ」


「うん。こういう時って、何か選んでると楽しくていっぱい買っちゃうね」


「あんがと、金田君。重くない?」


「……いや、美女2人の前であんま情けない事言いたくないが、正直けっこう重いぜ。……ほら、この角曲がったらすぐ、悟の店だ」


「よっしっ! 行くよ! 夢っ!」


「う・うん……」



(悟、忙しくしてないかな? 急に行って大丈夫かな……びっくりしないかな……)



「ちょっと待ってっ、こっちはそんな急げねえよっ」



 早歩きになる木葉を、そしてそれに続く夢を追いかけようと必死で後をついていく金田の前で、角を曲がった木葉は一瞬足を止め、立ち止まった。




「何……あれ」




 「らっしゃ〜せ〜っ」


「チキン、いっっすか〜っ……」



 この寒空の下、精魂疲れ果てた男2人がエプロン姿にサンタ帽を被り、いかにも冷え切ってそうなチキンのそばで、死にそうな目をして立っていた。



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