74.真っ赤なサンタさん
クリスマスイヴとはいえ、カップルばかりが夜の街を闊歩している訳ではない。家路へと急ぐ主婦やサラリーマンに学生など、様々な人が行き交うも、しかしとはいえ、やはりイヴの夜はどこかいつもと違う雰囲気がある。
そんな中、いつものゴスロリ衣装に赤と白を足したクリスマス風なアレンジを効かせた可愛いツインテールサンタが悟の店の方へと歩いていく。
「さと寸さん、いるかしら……いや、きっといるはず! 秋波原であの夢って美少女さんとお話ししていた時は確かバイトだって言ってたわ。とりあえず今はひなたお姉ちゃんの家に向かってるけど、ちょうどお店は通り道、もしさと寸さんがいるなら勇気出してお店に入ろうかな……でもひなたお姉ちゃんは、ご飯は買って帰るって言ってたし……どうしよう。せめてお店の外からさと寸さんの顔だけでも見れたら。でも、もし目が合ったらどうしよう……」
美優は迷いながらも、足取りはどんどんと悟のいる店の方へ進んでいる。
「よし……。一旦はお店を通り過ぎて、その時さりげなく横目でお店の中を見てみよう。それでさと寸さんがいて、しかもお店にお客さんがいなかったら、戻って入ろう。何かしら、おかずくらいは買っていってもひなたお姉ちゃんは怒らないよね? ……よし、そうだよ。そうしよう! 大丈夫、頑張って! あたし! 今日はイヴだもん! こんなところで頑張れないようじゃ、あの美少女なライバルの夢さんなんかに勝てっこないっ!」
美優は意を決して悟の店に近づく。
「いつも来てた店を通り過ぎるだけなのに、何でこんな緊張するのよ〜っ。ああっ。何か恥ずかしくなってきた……」
美優はさりげなく店の端から、誰に頼まれるでもなく無表情な顔を装い、店を通り過ぎる途中、肩にかかる髪を後ろに払う仕草をしながら店の中をチラ見する。
そのまま店を通り過ぎ……
(いたっ! さと寸さんいたっ! しかも何かチキン売ってたし! これよこれっ! チキンを買えばいいんだわっ。お客さんも2人しかいなかったし……ええいっ! 行っちゃえ〜っ!!)
美優は今度も誰に頼まれずとも、やたら緊張し固まった表情で店の自動ドアが開くのを待ち、そして店内へ入っていく。
「いらっしゃいませーっ! あっ!? 美優ちゃん……? いらっしゃいませっ! こんばんは」
美優はペコりと頭を下げ、うつむき加減で悟のいる注文カウンターへ進む。
「ど・どうも……こんばんは、です」
(な〜に緊張してんのよっ! あたし! 落ち着いてっ! 今日はさと寸さんの顔が見たかっただけっ! そしてチキンを買うだけなのっ。別にデートのお誘いや告白する訳じゃないんだからっ!)
「元気だった? 高橋ちゃ……ひなたお姉さんとのファミレス以来だね。今日は一緒じゃないの?」
「はい……ひなたお姉ちゃんはまだ仕事で、私は先に……ひなたお姉ちゃんの家で待ってる事になってて」
(私としては秋波原以来ですっ!)
「そっか。外寒かったでしょ? 今日は何にする? チキン南蛮かな?」
(おいおい。びっくりしたぜ……確か、miyuco姫って俺が知ってる事は、美優ちゃんは知ってるはずたったよな。でも今はこの話は無しだ。っていうかさっきまでの怒涛の忙しさのせいでロクに頭が回らねぇ。そもそも今、美優ちゃんはお客さんとして来てる。普段通りに接客すればいいか……うん。いいな)
「今日……は、チキン南蛮にしないで……クリスマスチキンにします……あの、ふたつで」
「はい。ありがとうございます。……実はね、今日はクリスマスチキンを注文しないお客さんにはチキンを勧める事になってるんだけど、チキン南蛮のお客さんにチキン勧めたら、チキンまみれでカブっちゃうでしょ? その辺がけっこう難しくてさ……まあでも、勧めちゃうんだけどね。ありがとうございます。ではチキン2つで。チキン2でーす!」
「……忙しかったんですか?」
「うん。さっきまでずっと忙しかったよ。けっこうマジメに死ぬかと思うくらい。少し前から客足が落ち着いてきて、今はもう落ち着いたところだよ。もし美優ちゃんがもっと早い時間に来てたら多分、酷い顔で接客してたと思う」
顔を見るに、明らかにクタクタになって疲れが滲み出ているのに、美優に優しい笑顔を向けるこの優しいお兄さんは、図らずとも、美優を落としにかかっていた。
「そ・そうだった……んですか。……よ・よかったです。遅く来て。気付いてもらえなかったかも……しれないし」
「そんな事ないよっ。美優ちゃんならすぐに気付くよ」
ーふと、悟は以前、誰かにも同じセリフを言った気がすると、思考を巡らせていた。
一瞬、夢の顔が浮かぶ。
「あ・あたしなんて、そんな……ありがとうございますっ」
「こちらこそ、いつもありがとうね」
「チキン2つーっ!」
「はいーっ!」
悟は店長からチキンを受け取ると丁寧に袋詰めし、美優の前に差し出す。
「はい。お待たせしましたっ。クリスマスチキン2個になります」
「はいっ……」
お会計を済ませ、心の中でクリスマスチキンを悟と食べるのを想像しながら美優はチキンを受け取った。
「また来てね。あ……あと」
悟は一瞬ためらったが、笑顔を浮かべて美優に、
「いつも観てくれてありがとうございます。コメントもいつも励みになってます。これからもよろしくね」
「……!!
……は・はいっ。」
美優は今日のサンタコーデの赤に負けない位に顔を赤らめ、ペコりと頭を下げて店を出た。
「ありがとうございましたーっ!」
(ああ〜っ、もうっ! さと寸さんったらっ! 恥ずかし過ぎるっ! 嬉し過ぎるっ! もう、泣きそうっ!)
走り出していた美優はふと足を止め、手に持つチキンを見つめてから、もう一度店の中に入る。
「いらっしゃ……あ、美優ちゃん? 他にも何か、注文し忘れたかな?」
美優の顔は真っ赤になりながら、悟の方へ泣きそうな視線を送り、
「メ……メ・メリークリスマス、ですっ」
悟はニコっと、優しい笑顔で美優を見つめ、
「メリークリスマス、美優ちゃん」
美優は顔をうつむかせながら、そのまま店の外へ出て、走り出していた。
「やっぱ可愛いな〜っ。マジで妹にしたいな。今度高橋ちゃんに一日お兄ちゃん出来ないか頼んでみようかな」
すると奥から店長が、
「おっしゃ! 準備オッケッ! 悟、こっち持ってくれーっ! 一緒に外に出して旗立てたら初めっぞ!」
店長はチキンの店外販売の準備をしていたらしく、長テーブルの上に売れ残ったチキンを並べ終えていた。
マジかよ。まあ……しょうがない。やるか。
売れ残り、いや、これから店長言うところの幸せのお裾分けだ。
イヴのお仕事も、あと一踏ん張りだ。




