73.そのつもりでした
「ハンバーグ大盛りと、チキン南蛮お待ちのお客様、お待たせしましたーっ!」
「唐揚げ弁当2個とのり弁!」
「はいっ! お待たせしました! お客様、ご一緒にクリスマスチキンはいかがでしょうかっ?」
「あ・ああ……じゃあ……2つお願い」
「ありがとうございますっ!」
「幕の内3つとチキン3つ!」
「はいっ! 幕の内3つとクリスマスチキン3つのお客様、お待たせしましたーっ!」
店は閉店2時間前から怒涛の忙しさになり、2人は半ばパニックになりながら、お客から見ても異様なテンションで店を切り盛りしていた。
あまりの悟の必死の形相でのチキンのおすすめに、思わずたじろいで注文をしてしまうお客もちらほら、途切れないお客の出入りに2人は鬼のような形相で弁当&チキンを売りさばいていた。
あといくつチキンが残っているのか、悟は一瞬のスキを見てバックヤードの方を振り返ると、何と店長は更に追加でチキンをフライヤーに突っ込んでいた。
「何やってんすか!? マジすか!?」
「何やってって、仕事だよ! プレゼントだよ! クリスマスだよ!」
もう店長はおかしくなっていた。
「マジかよもう〜っ!! いらっしゃいませーっ!」
もう店長はほっとこう。あとは野となれ山となれだ。売れ残ったら売れ残ったらで、もうヤケクソで男2人、店頭販売でも何でもやってやる。
2人共、頭がおかしくなっていた。
ー 「ねえ、どこにいくの?」
木葉にエスコートされるがまま、電車に乗った夢と金田は、ルンルンな笑顔を浮かべる木葉に戸惑っていた。そして夢が痺れを切らし、木葉に尋ねる。
「ん〜とね。金田くんち」
「うん……? ええっ!? マジかよ! 聞いてないよ!?」
「えっ……えっ? そうなの? 木葉?」
金田と夢が揃って驚く。
木葉は2人の反応を意に介する様子もなく、
「そりゃそうだよ。言ってないもん」
「いやいや、言おうぜ! 先に!」
「だって、この前一人暮らしって言ってたでしょ? 大丈夫かなって。それに行き先はアタシに任せたって言ってくれたし」
「いや、それ店じゃないじゃん!? ちょっといきなり……そんな……」
「だめ? だめなら、しょうがない、乗り換えて山田屋の鉄板焼きかランチョンマークの方に向かおうか?」
「いや……それはだめって言うか、無理過ぎる……」
「うん、わかった。じゃあやっぱ金田くんの家で。いいでしょ? 美女2人がイヴに部屋にくるんだよ? 最高じゃない? これって最高のクリスマスプレゼントじゃない?」
金田は木葉からの急な、しかしある意味二度とこんなチャンスはこないだろう的な提案を受け入れるべきか悩んでいた。
(マジかよ。木葉ちゃんのみならず、夢ちゃんと2人で俺の部屋ってか……部屋片付けてたっけ? 隠すもんとか、特にないか? 大丈夫か……?)
「じゃあ駅に降りたら、買い出しに行こう! 金田君、お店まで案内してね?」
「えっ? ……店? 店ってどこの?」
「金田君のバイト先だよ。今、悟君いるんでしょ?」
夢が驚いて木葉を見つめる。
「そうなの? ウチの店で買ってくの?」
「まあ飲み物やお菓子はコンビニで買うとして、食べ物は悟君のお店で買おう! そしてついでに悟君にも声掛けちゃおう!」
夢は目を丸くし、あたふたとしながら何か言いたげな表情をしている。
木葉は夢に気付かれないよう金田にウインクをする。
金田はとっさに木葉の意図を汲み取り、初めからそのつもりだったのだと理解した。
「金田君、ほんとにいいの?」
夢が心配そうに金田を見つめる。
「……いや、夢ちゃんありがと、大丈夫だよ……。確かに美少女2人が俺の部屋に来るなんて、今まで1人すら来た事ないのに、いきなり2人ときた。こんな幸せなシチュ、断るほうがバカだ……うん」
金田はまた下手な三文芝居よろしく、車両の天井を見上げながらつぶやく。
(木葉ちゃんも木葉ちゃんで、それならそうと早く言ってくれればな。それなら部屋も綺麗にしとけたのに……いや、あくまで木葉ちゃんは普段の俺の生活が見たいのか。うん。それならしょうがない。木葉ちゃんが家に来てくれるだけで、俺にとっては大進歩だ!)
「よし、じゃあ電車降りたら金田君にバトンタッチだ! 金田君、よろしくね!」
「おけっ! 任せてくれっ」
「もう……木葉ったら、何でも先に決めちゃうんだから。まあ、別にいいんだけど……」
夢はやれやれといった様子で窓の外を見ながらも、内心、悟に会える事が嬉しいのか、その気持ちを隠し切れず少し微笑んでいた。
(きひひっ。悟くん、もう少しでサンタとトナカイが君の恋人を連れて行くよっ)
木葉は夢の微笑みを見逃さなかった。