71.俺達も混ぜてくれ
「あ〜今日はヒマかもな。今年はそんな気がする」
店長がめずらしくレジカウンターのほうまで出てきてチキンレッグのポスターを見ながらつぶやく。
「まあまあ、ヒマならヒマでいいじゃないですか? ここんところずっと忙しかったし、お客さんは今日はケンチッキーでも行ってんじゃないすか?」
「バカ言えっ。今日の売り上げ少なかったら次の店長会議で報告する時、けっこう肩身狭いんだぞ。クリスマス限定のチキンがよりによって当日売れなかったらそれはそれで情けないもんだぞ。まあ、昨日までは忙しかったからまだマシかもしれんが」
「俺としてはヒマでもいいんですけどね。まあ確かに、今日だけヒマなのはちょっと寂しい気もしますけど」
クリスマスイヴの今日、昼からのシフトになっていた俺は、いつもなら忙しい時間帯のはずが、何故かお客のいない店内のレジカウンターに立ったまま、ボーっと外の道を眺めていた。店長もあまりのお客の入りの悪さに厨房にいるのが退屈だったのか、俺と並ぶようにして同じく、外の道を眺めだした。
「お前、今日はやっぱヒマなのか? バイト上がったらムリメな幼馴染とデートとかねえのか?」
「いや、なんも予定ないです。店長は?」
「俺もだ」
「そっすか……」
寂しい独り身の男2人は、そこで会話が終わり、また店の外を見る作業に戻る。
(今日は夢は金田と木葉ちゃんと会うんだっけか……)
先日、木葉ちゃんから、
「イヴは夢と金田君と3人で会うんだけど、悟君はやっぱバイトなんだよね? 夢の事はしっかり面倒みるからバイト頑張ってねっ!」
と、Laneが来てたが、今ごろ何してんのかな。
まあ、とにかく俺はバイト中なんだし、今日は寂しそうに佇んでる店長と一緒に仲良く過ごすとすっかね。
「店終わったら、どっか飲みにでも行くか?」
「いえ、それは悲し過ぎるんで遠慮しときます。すいません。それに未成年を飲みに誘わないでください」
「だな」
…… 一向にお客が来る気配がない。高橋ちゃん(警察暑)からの出前注文もない。一体どうした? 世間では何かあったのか? どこかでテロや地震が起きたとか、宇宙人が地球に降り立ったとか、クリスマスどころではない、何かしらのビッグなイベントでも起こったのか? それを俺と店長は何も知らずこの世界から取り残され、ただボーっと突っ立ってるって状況じゃないだろうな?
店長と俺、この2人だけが世界の真実を知る事なくレジの前にアホヅラぶら下げて突っ立ってるなら、こんな事してる場合じゃない、早くエプロンぶん投げて店を出ねばっ……!!
「店長」
「うん?」
「上がっていいすか?」
「それはだめだ」
「ですよね」
しばし沈黙。店長は無駄にナプキンを取り出し商品カウンターを拭き始めた。
俺さっきそれやりましたって、とは言わず、ただ黙って店長のデカい背中を見守る。
「来年こそは、2人ともクリスマスイヴは誰かと過ごしてぇな。……って事はつまり、そうだ……! 俺はもうイヴの日は店には出なくていいって事だ。おっしゃっ!!」
バカみたいな事を言いつつ店長は、カウンターを磨き続ける。
「ああ。こんなヒマなら休みにすれば良かった……」
俺の虚しい独り言は寂しい店内に響いていた。
「っしゃ〜っ! またストライクだぜっ!」
「すごいね、金田君は! そんな才能あったんだ?」
「まあね。こう見えて運動神経はいいほうなんだぜ」
「ボウリングに運動神経って必要? でもさ、このままストライク取り続けないと私達に負けちゃうよ? たぶん」
「いやいや、これ位のほうが盛り上がっていいよ。ハンデってやつ? さっきは2人の勢いにちょっと押されてただけで、こっからが本領発揮ってやつなのよ」
3人は金田 vs 夢・木葉コンビでボウリング対決をしていた。
「ほら、夢? 夢の番だよ?」
「えっ? あっ? うん……」
夢はどこか心ここにあらずといった様子で、木葉に声を掛けられて思わず我に返る。
「え〜っと……そっか。このまま私がガーター出さなきゃいいの?」
「まあ、それでもいいけどでも、半分は倒して欲しいなっ」
「まかせて。金田君、私達が勝ったら夜のディナーは私達の好きな所でいいんだよね?」
「おう。まあ、その前に俺に勝たなきゃいけないけどね」
「大丈夫だよ、木葉がいるし。よーし。頑張っちゃうか」
夢はボウリングの球を慣れない手つきで持ち上げ、レーンの方へ歩いていく。
夢の後ろ姿を見ながら木葉は金田に呟く。
「ねえ、金田君……」
「ああ。夢ちゃん……きっと悟の事考えてんだろうな。さっきからぼーっとしっ放しだ」
「何とか悟君に会わせてあげられないの?」
「いや、厳しいだろ。今日も店はきっと忙しいはずだし、アイツの事だからいくら俺や、ましてや夢ちゃんが連絡してもバイト抜け出す事はしねえと思うぜ」
「まあ、普通はそうだよね。わかっては……わかってはいるんだけど、あんな夢を見てると一緒にいるあたし達がなんか、2人の邪魔をしてる気がしてくるよ……何とかなんないかなーっ」
「う〜ん。こればっかりは、2人の問題だからな……ああーっ、早くくっついてくれればいいんだよ、あの2人はっ!」
「ガコーン!」
「うん? 何だ? まさか!?」
2人は会話に夢中で夢の投げる様を見ていなかった。
「やったーっ! ストライクだ! やったねっ」
「おいおい……マジかよ」
夢は2人の方へ振り返り、満面の笑みを浮かべている。
「まあ、とりあえず今日、あたし達が夢を楽しませてあげればいいんじゃない? 当然その為にはあたし達も楽しまなきゃね!」
「マジかよ……ストライクかよ。これ、マジで俺全部落としていかねえと負けんじゃね?」
「あれ? 私達に勝つ気でいたの? ふふっ。あまいな、金田君。今日のディナー、ご馳走してくれるの楽しみにしてるからっ」
「おいおいっ! おごるなんで言ってねえぞっ!」
木葉は金田にウインクし、自分のボールを掴み取り、レーンに向かう。
夢はストライクに満足したのか、ニコニコと大手を振って後ろに座る金田の隣へ戻ってくる。
「夢ちゃん、今日はさ……俺達だけで楽しもうよ? 悟は仕方ないよ。何なら今日は俺の事、さとるって呼んでいいからさ」
「何で? 金田くん……それ違う。ぜんっぜん違う」
「ですよね……」
「ガッコーン!」
「えっ……?」
「やったーっ! アタシも出ちゃった!」
「マジかよ。ヤベぇぞ、俺……」
「このままだと勝っちゃうな。どこ連れてってもらおうかなーっ。……あっ!? そうだっ……」
木葉はイタズラな顔でボウリングの勝利を確信しながら、金田へのリクエストをひらめいていた。




