68.美少女サンドイッチ
信号が青に変わる。
「あんな人って ー いるの?
あんな美少女……実際に……。
無理よ……! 何かわかんないけど無理よっ! あんな可愛い人……実際に……」
美優は夢のあまりの美少女っぷりに見惚れ、信号が変わった事にも気付かず、後ろから歩いてくる歩行者にぶつかってようやく我に返った。
(目が離せない ー 。
こんなのって……やだ……じっと見てるなんて、だめよ、だめっ! ほら、しっかり前を向いてっ! ……でも……)
美優は憧れていた。
そして追いかけていた。
いつからかこの獣ばかりの世界から救ってくれる絶世の美少女を。そしてそんな自分をこの汚れた世界から救ってくれる美少女が今、目の前にいるのだ。
美優の理性はまるで時が止まったかのように、かなり長い間、夢を見つめていた。それはそうである。目が離せないのだ。長年追い求めていた、2次元の中ではない、実際に存在するこの圧倒的な美少女を見つけてしまったのだから。
どんどん近づいてくる美少女。
磁石に吸い寄せられるかのように、美優は夢に近づいていく。
昔から知っているような、こちらからの一方的な親近感が相手にバレないように平静を装い、通り過ぎようとするが、美優はもう、無理だった。自分でもわかっていた。
無理目な美少女とすれ違う瞬間、ほのかに香るシトラス系に極上の甘いフルーツが混じった匂いを感じた瞬間、美優は長年追い求めていた絶世の美少女のオーラに包まれる。
自分の存在の全てを受け入れてくれるようなオーラに包まれながら、美優は確かな安らぎをその瞬間、感じていた。
美しさが全て ー
可愛さが全て ー
なの。
やっと ー 見つけました。
「えっ ー ?」
夢は一瞬、何か空耳のようなものが聞こえた気がして、横断歩道の途中で振り返るも、自分に声を掛けている人は誰もおらず、気のせいかなと思いそのまま横断歩道を渡り切る。
夢とすれ違った美優は、横断歩道を渡り終えるギリギリで踵を返し、元の来た方向へ渡り直し始める。
もう、色々と思考する前に、体が止まらなかった。
そんな自分の決断・そして選択をした事に、心地良さを感じ、そして安らぎさえ覚えていた。
美優は絶世の美少女に寄り添う妖精のように、夢の後をついていった……。
美少女ゲームを買い終えた悟は、もう一つの目的を果たす為、3件目の店内で商品を前にし、腕を組んでいた。
「う〜ん、わからん……サッパリだ。こういうのは値段が良いからといっても自分に合うとは限らないだろうし、とはいえ、やはりなるべく良いものに越した事はないよな……」
悟は夢へのクリスマスプレゼントを探していた。
夢の漫画を応援したいという気持ちから、自分には全く縁のない世界だが、漫画を描く時に使うペンをプレゼントしようと思い、自分なりに調べて物色していた。
「やっぱり夢に直接聞いた方が……いや、てか無理だな。聞いてもまず、俺自身がわからんだろうし。……やっぱ他の物をプレゼントした方が……。いやいや、こういうのは気持ちだ。自分なりに相手を思った上でベストな物を選べばいい。……もうこうなったら店員に聞くか? いや、何を聞けばいいんだ? ……これならもっと早くから、さりげなく夢に色々と聞いとけばよかったな……」
「……どうしても気になってあの人について来てしまったけど、どこに行くんだろう? ゲームソフト? グッズ系? ……あっ、ひょっとしてメイドさんをやっててこれから出勤とか? もしそうならお店を特定して通い続けちゃおう。そっから仲良くなって、覚えてもらって……えっ? ここに入るのかな?」
無理目な美少女は当然何の前触れもなく歩道の左側に立つ3階建てのビルに入っていく。
「……アトリ2号館? 何だろ? ここって漫画メインだった気が。……漫画買うのかな? それならそれで、この美少女さんの立ち読みしてるところをそっとバレないように近づいて、その可愛いさっぷりを拝ませてもらおうっと」
思考が既にストーカーになっている事にも気付かず美優は建物、いや夢に吸い込まれるようにビルに入っていく。
夢はそのまま店内奥へと進み、ペンタブレットやアナログのペンに筆、原稿用紙等が置いてあるコーナーに進む。
「えっ? 漫画を探しに来たんじゃないの? ここって、漫画を描いてる人がくるようなコーナーみたいだけど……」
夢は漫画を描く為の道具が揃っているコーナーに入ると一つずつ、何か目新しいものが入っていないか、一品一品物色し、時には棚を飛ばし、どこに何が置いてあるのかを全て把握しているかのように、いつも来ている雰囲気を醸し出しながら店内を見回していく。
(この人、漫画描いてるんだ……! こんな可愛い美少女さんが描く漫画、見てみたいっ! どんな漫画描いてるんだろう……。え〜っ! めっちゃ気になる! 無理目に可愛いくて、漫画も描いてるなんて、この人のこと、知りた過ぎるっ!!)
夢はコーナー突き当たりまで画材道具を確認すると、店内一番奥のペンタブレットや漫画の作成ソフトが並ぶコーナーへ入っていく。
(あっ、曲がっていっちゃった。……だめだめ、焦っちゃ。ちょっと間隔詰めすぎちゃった。ここは一旦距離を置かなくちゃ ー)
「あっ!? えっ? どうしてここに?」
「うわっ!? びっくりしたっ!!」
ー えっ? 何?
夢が入っていった奥のコーナーから男女2人の驚くような声が聞こえた。
(えっ? 何だろ? 今の女の人の声って、あの美少女さん? それとも……)
「マジかよ……。すげえ偶然。
何でわかったんだ?」
「え? 何言ってるの? 別にアンタを探してた訳じゃないわよ。 ……っていうか、悟、何で? 何でっていうか……えっ? 実は悟も描いてるの?」
(……悟? どっかで聞いたような……)
「いや……まあ、何だ、その……ちょっとな。見ようかなって。ペンとか……」
「えっ? 何それ。よくわかんない、悟……描いてるの?」
「いや、描いてはいないんだけど……その、まあ……」
「何よ、ハッキリしなさいよっ。……あ、ひょっとして描きたいの? ……それならそれで、私も特に詳しい訳じゃないけど、色々教えてあげようか? ほぼ独学だけど。……あっ、私に聞くの嫌だから黙ってたんだ? 何かそれも悟らしいね。ごめんね、こんなところ見ちゃって。どうぞどうぞ、勝手に店内ご覧くださいませ」
「どの立場で言ってんだよっ。いや、違くて……う〜ん。まあいいや」
(め〜っちゃ気になる〜っ! あの美少女さんが話してるのかな? 知り合い? ひょっとして知り合いの人も超美男子だったりして!? いやいやでもでも! 男は基本けだもの。そう、ちょっとやそっとの美男子じゃ私は揺るがなっ……! いや、そうじゃなくってっ! ……ちょっと覗いて見ようかな……。それにもしこの女の人の声が美少女さんの声じゃなかったら、とっくに離れてしまってて見失っちゃうかも知れない。うん。しかも美少女さんは私の事知らないし、大丈夫なはず! うん、よし。ちょっと顔出して覗いて見よう……)
美優は気配を消し、そ〜っと目立たないよう、2人の視界から入りにくいように、しゃがんでコーナーから顔を出す。
(………。)
(うん、この後ろ姿、やっぱりさっきの美少女さんだわ、一緒にいる美男子は ー?)
夢が話している男の顔を覗き込むと、そこには自分のルートにいるはずの男性がいた。
(えっ ー?
さと寸さん ー?)




