66.ノーマーク
「もしもし? 木葉ちゃん?」
「金田君〜。こんばんはっ! どうしたの?」
「あのさ、悟のやつクリスマスにバイト入れてやがったんだよ……」
「えっ? そうなの? あらら〜っ。」
「夢ちゃんを誘う前に既にシフト入れてたみたいで……。っていうか、正直なところ、俺と他の奴らが先に休み取ってたんだけど、まあそこんところは実際、俺にも責任があるんだけどさ……」
「う〜ん……いやいや、それはしょうがないでしょ。ところで悟君は夢と会いたがってたとか、何かそんな事言ってたっていうか、そういう雰囲気はなかったの?」
「全然。むしろ俺に夢ちゃんの相手してやってくれって言ってくる始末でよ。どうすっかな〜っ。木葉ちゃんは、夢ちゃんから何かクリスマスについて聞いてる?」
「ううん。これから私が夢を誘おうと思ってた位だよ。確かあの子、毎年クリスマスはどこも出掛けてないというか、予定を入れてたフシはなかったかな。私は毎年、友達とパーティーやったりとか、デートに誘われたりしてたから、はっきりと夢のクリスマスの状況を把握してた訳じゃないけどね。だから私もクリスマスに夢のスケジュールを抑えるのは難しい事じゃないと思ってたんたけど、実際、悟君がバイトならな〜っ。……仕方ないかね」
「ああ。あいつの事だから無理に休んでまで夢ちゃんを誘うってのは考えにくいし、もうこうなったら俺らが悟と夢ちゃんをくっつけるのはまた次の機会かな……。
ところで、木葉ちゃん。もし……もし、そうなったらよ?」
「ん?」
「もしこのままクリスマスに悟と夢ちゃんをくっつける計画を進められなかったらさ? 木葉ちゃんは、予定……空いてるんだよね?」
「うん。みんなと会おうって思ってたからね」
「それでさ……もう悟が来れないなら、悟と夢ちゃんの件はまた今度にしてさ……よかったら、俺と……デート……しない?」
……どうだろうか。
どうなんだろうか。
「うん、いいよ」
「……えっ? マジ!? マジでっ!?」
「まあ、せっかく金田くんも休み取れたんだし、私も、きっと夢もヒマだろうから」
「えっ? いや、あの……夢ちゃんはその……ちがくて、俺は ー」
「こらこらっ。夢を仲間はずれにしないのっ。このクリスマスは本当は4人で、悟君が夢ちゃんを誘わなかったら4人で遊びに行って、そこから私達の作戦に繋げていくって話しだったでしょ? 確かに悟君が初めから夢を誘って2人きりでクリスマスデートするなら私達の出る幕はないけど、今回悟君が夢を誘ってないなら仕方ない、せっかくだから3人で遊びに行けばいいんじゃない?」
「う〜ん。う〜ん。何て言うかな……え〜っと、俺としては」
「あのね? 金田くんよ? もし、もしだよ? 夢が悟君の誘いを待ってるとしたらどうする? 悟君が夢を誘いもせずにバイトを入れてるって知ったら、きっと夢はものすっごく辛いと思うの。わかる? 7年越しに奇跡の再会を果たした2人、そしてそこからの、ある意味2人にとっての初めてのクリスマス。夢よりもバイトを優先した悟君、何かしら理由があったのかも知れないけど、今年のクリスマスはきっと夢にとっていつもの、今までのクリスマスとはきっと違うはず。だから悟君が誘わないなら、私達が夢とデートしてあげようよ。金田君も悟君に夢の事任せたって言われたんでしょ? ね?」
(う〜ん。確かに…たしかにな〜っ。
確かにこのままだと、夢ちゃんが可哀想すぎる。
しかし……しかしだよ! 木葉ちゃん! 2人の事を考える君の優しいところは素晴らしいと思うよ! でも、俺は木葉ちゃんと2人でデートしたいんだよっ!
俺は……俺は自分の気持ちに嘘は付けないっ! ごめん、夢ちゃん! 俺はやっぱり木葉ちゃんと2人で ー !)
「嫌だって言うなら、金田君とも会わないから」
「おっけ。それでいこ。夢ちゃん誘おうぜ」
「よし決まりっ。夢には連絡しとくね」
はあ……いつになったら俺は木葉ちゃんとデート出来んだろ。悟、いつかこの借りは返してもらうからな……
次の週末、悟は秋波原に来ていた。
次のゲーム実況にプレイする予定の、先日発売されたクリスマスシーズン向けの美少女ゲーム「クロスメイド・クリスタル」を購入する為、それともう一つ、慣れないジャンルの買い物をする為、とはいえ、やはりここ秋波原なら、そのジャンルの品物が豊富にある為、朝から悟は店舗を探索していた。
「う〜ん。けっこうな品揃いだな……。けっこうな品揃い過ぎて俺みたいな何も詳しくない輩は逆に選択に困るな。まいったな……」
朝から店をまわってみるものの、なかなか判断がつかず、悟はこれはと思う物を見つけてはスマホでリサーチし、一品一品、レビュー評価を参考にしていた。一品のレビューすら、高評価・低評価がわかれ、商品を検索するほど、もはや自分での判断がなおさら出来なくなっていた。
2件目の店を出て、大通り沿いのガードレールに腰を掛け、ため息をつく。
「まいったな……。こうなったら、直接連れて来て選んでもらった方がいいかな。直接手渡しで格好をつけたかったんだが……しかし、無知ゆえ、全然気に入ってない物を渡したらそれこそカッコ悪い。やっぱり、どうせなら喜んでほしいしな……。とりあえず先に、予約しといたゲームを取りに行くか」
悟は秋波原の大通りを渡り、向かいのアニャメイトへと足を運ぶ。
「クロスメイド・クリスタルをご予約されている方は、スマホにバーコードを表示してこちらにお並びくださ〜いっ!」
あらかじめソフトを予約しておいた俺は、クロスメイド受け取り専用の列に並び、順番が来るのを待っていた。
「ふふっ。やっと来れた、アニャメイト。予約しておいてよかったっ。店頭で凸買いしてもいいけど、やっぱり確実に購入できるっていう安心感と、ゲームに対する期待値の表れという、私なりのゲームに対する想いも兼ねて、やっぱり私は物理ソフト予約派だな。早くパッケージを手にしたいっ」
いつもより、少し気合いの入ったバージョンのゴスロリ風衣装で、クロスメイド受け取り専用の列の後方尾に並ぶ美優の姿があった。
「今日はクロクリを受け取ったら、あのうさぎさん達のお店でパフェでも食べに行こうかな。週末だから混んでるかも知れないけど、この前食べたブランブロンプリンマーガレットスタープラチナ、超〜美味しかったから今日もそれにしようかな……あ、でも最近新しくなったキューピッド&マーガレットグルーミンドリーミンの新バージョンも食べてみたいな。う〜ん。どうしよ……んっ? えっ? ……あれっ!? あの人……」
列に並ぶ美優の5人ほど先に、購入の順番を待つ悟の姿があった。




