63.あなたとクロスしたい
PCの前で頬杖をつき、ポッキーを咥えながら悶々とした表情で美優が画面を眺めている。
「今日秋波原で発見! 思わず尾行しようかと思ったけど、彼氏と待ち合わせだったみたい。残念!」
「彼女と来たソフトクリーム屋の子、超可愛いんだけど……! アイスじゃなくてこの子をペロペロして〜っ!! と、一瞬彼女の存在を忘れた俺は何て奴だ! しかしこの可愛すぎる子のせいだ! 男なら、致し方ない」
「今日のあの子はこちら。 淡い水色のフリルのスカートに、そして見よ! この美しいばかりの白シャツを! っていうか透けてね? これ透けてね!? いつも追っかけてる俺へのサービスかな」
もはや悪質とも取れるコメントと一緒に3次元の美少女画像を乗せて、今日の「獲物」とでも言わんばかりの狩猟報告をバカ丸出しでアップしてくる獣ども。サイトを荒らすバカ達はこのサイトが2次元美少女専門だという事をわかってないのだろうか、こんな輩がこのサイトに入ってきていい訳がない。こんなクズ共を日々見つけては削除し、追い出す作業。まだ見ぬ2次元の美少女を追い求め、同じ想いを待つ人達と築いてきたこの「ルルーラ美少女図鑑」は、こんな獣どもの為に開いたサイトではない。何ともいえない、怒りにも似たやるせない気持ちで、美優はじっと画面とにらめっこする。
「本っ当、許せない。アンタ達のやってる盗撮、ストーカー行為は犯罪ものよ? なんでこの神聖な2次元美少女達の集まるサイトをアンタ達に汚されないといけないの!? もうほんとウンザリだわ。マジでバカ獣どもを駆逐したいっ!」
もちろん、美優の純粋な2次元の美少女への憧れに賛同し、サイトを盛り上げてくれている同志は沢山いる。その同志達も、よからぬ投稿を見つけては管理者(美優)へ逐一報告をしてくれる。
「もう、自分一人じゃこのサイトを管理するのも疲れちゃった。こんなに大きくなってきたし、お小遣い使って、ちゃんとした所に管理してもらおうかな? そっちの方が私自身の活動やゲームする時間も確保出来るし……」
美優が中学3年の時に立ち上げた、この「ルルーラ美少女図鑑」という、まだ見ぬ2次元の美少女達を探求し、同じ想いをもつ人達との交流場、そしてお互いの情報提供の場になればと思い立ち上げたサイトは、今は登録者数2万人越えのそこそこのサイトになっていた。
「ああ…さと寸さんの動画、早く上がらないかな。こんな時はさと寸さんの美少女愛を感じて一緒にルートを堪能したいな。……でも。ふふっ」
美優はスマホを手に取り、Laneの楳野 悟のトーク画面を開く。
「どうしよっかなっ。さと寸さんのLaneをゲット出来た時点で、もう半分は目標を達成してるようなものよっ。後は私の出方次第。今度はお店に会いに行くか、それとももう一度Laneするか。……どっちを選択しても楽しすぎるっ! このルート! もうすぐクリスマスだし、頑張ってさと寸さんに近づく事でひょっとしてひょっとしたら、さと寸さんと一緒にクリスマスルートっていうのも……うん、アリね。
……あっ!? クリスマスと言えばもうすぐ「クロスメイド・クリスタル」の発売日だ! 週末、秋波原に行こうっと! ……さと寸さんも、クロスメイドやるのかな。やってほしいな……。そしてさと寸さんの選ぶルートを観てみたい。……そうしたら、もっと私はさと寸さんの事がわかって、近づける気がする……」
「なになに……今年のクリスマスはこれ一択! 今ルルーラ美少女図鑑から、推しに推しに推しまくりたい美少女ゲーム「クロスメイド・クリスタル」をご紹介!! ……ふむ」
(以下メーカー掲載文抜粋)
「あなたと、クロスしたい ー」
きっと貴方と見つける ー!
古より100年に一度だけ姿を表す幻の聖夜の教会 ー
そこには選ばれた者だけが読む事の出来る、美少女サンタの召喚呪文が記されている聖書がある ー
さあ、貴方も旅立とう! 行く先々で出会う、美しく魅惑的な美少女サンタの子孫達と共に ー!
メイドに猫耳、女剣士と女盗賊、そしていつか夢に出てきた白銀のオオカミを連れた女の子 ー 貴方が選んでくれれば、それが本望です。どうか、私達をあの教会へ連れて行ってください。その時はきっと ー 。あなたのサンタに、私はなります ー。
クリスマス向けのデザインと幻想的なストーリーで恋人のいない(失礼♡)アナタにもきっと満足出来る一本! この際、アナタも素敵な美少女達と素敵なクリスマスを過ごしましょう! 発売後のプレイ感想や、攻略アドバイス等、どんどんコメントお待ちしてます!(ルルーラ美女ゲー担当 桜ミンミ)
「そっか。前から話題だったけど、もう出るか。やっぱこういう時期に合わせたゲームがいいかな。バイトのシフトがパンパンだが、まあ何とかなるだろう。『のんのんぴよる』が終わったら、すぐに取り掛かればクリスマスまでに間に合うだろ。なるべくこういうのはタイミングを合わせたほうがいいだろうし。何せ今話題のゲームだし、旬をねらって行くか」
俺はシフトを確認した。
「よっしゃ。この日に買いに行くか……」
俺はリマインダーをセットして、ひと息つく。
……ふと、よぎる。夢の事が。
夢は、クリスマスどうするんだろうか。
漫画描いてんのかな?
友達や木葉ちゃんと会うんだろうか?
それとも……いや、彼氏はいない……な。
とにかく、俺は無理だ。今さら休む訳にもいかねえし、適当な理由をつけて……って思ったが、実際今さら何かしら理由つけて休むのはやっぱ何か違う気がする。
この7年間、クリスマスに夢に会うなんて考えもしなかっただろ? でも今はいつでも夢に連絡できる。それだけでも、充分ありがたい事じゃねえか。25日は休みだ。せめてその日だけでも会えたら……。
まあ……一応……探してみるか。
俺はスマホを手に取り、なれないジャンルの探し物を初めた。