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62.金田くん、察してくれ


 年末のシフトが決まった翌日、俺は今度は早番で店に出ていた。昨日の編集作業に追加の収録で、俺は少し疲れていた。そう……疲れていた。しかしそんなところに朝からやかましい奴が絡んできた。



「えっ? なんだよ! お前、クリスマスにシフト入ってんのかよ!?」



 金田が両手を腰に当て、壁に貼ってあるシフト表を見ながら俺に背を向けたままわめいてる。

 何だよ急にエラそうに。



 「ああ……店長に任せたらそうなった」


「何だよそれ!? お前には自分の意志というものが無いのか?」


「何そんな怒ってんだよ? そもそもお前と立山が綺麗にカブらずシフト入れっからこうなったんだよ。

そもそも俺の意志を入れたら、お前らの思うようにはいかなかっただろ? そんなに俺とシフトがカブってないのが寂しいのか? なんなら俺が店長に頼んでやろうか? 金田寂しがってるんで、追加でって」


「いや、それはお断りだ。 どうすんだよ?」


「なにが?」


「ほれ。ここ。入っちゃってんじゃん、クリスマス」


「おうよ。それがどした」


「おいおい……バカなのか? お前、バカなのか?」


「何でクリスマスにシフト入れたらバカなんだよ。クリスマスにケーキ売ったり世の恋人達の為にお店で働いている方達への侮辱だぞ? それ」


「ど〜すんだよ」


「どうするって、働くよ。お前こそバカなのか?」


「いやいや! 夢ちゃんどうすんだよ!?」


「待て待て〜いっ! 何故うぬは夢の名を出す! 関係なかろう! 夢とクリスマスは!」


「あるに決まってんだろ! もし夢ちゃんが予定空いてたらどうすんだよ! そもそも俺はクリスマスに向けて何かしらお前は行動とるつもりだと思ってたんだけどな!」


「だから何でそんな怒ってんだよ。俺がどうしようがお前が怒る事でも何でもないだろ。頭冷やせ。冷凍庫に頭突っ込んでこい」

  


「お前らが入ってっと、本当朝から疲れるわ。もうちょっと大人しく仕込みできねーかな? 僕ちゃん達?」



 後二言、三言でもこのままの調子で喋ってたら、間違いなく店長がキレるタイミングだ。俺も金田もそこはよく知ってる。



 金田が少し声のトーンを落とす。



「この前のディスティニー、2人でけっこういい雰囲気だったじゃねえか。そして熱が冷めやらぬうちに今度はクリスマスだ。何ともありがてぇタイミングじゃねえか。それをお前は無駄にするのか?」


「何だよ? いい雰囲気って。……お前丘の方でパレード見てたって言ってたけど、俺らの事見えたのか?」


「(あっ……やべ。双眼鏡で悟と夢ちゃんを見てたなんて言ったらコイツ怒り狂うだろな……)いや……見えてねえけど、帰り際、何となくいい雰囲気だったからさ……」


「そうか? よく見てんな。でも別にそんなでもなかったと思うが」


「何とか休んで夢ちゃんをデートに誘ってみろよ? まだ夢ちゃん何の予定も入れてないかも知れないぜ?」


「夢に予定があろうがなかろうが、俺はバイトだ。さっきシフト見ただろ」


「う〜ん。何だろな〜っ。この聞かん坊のわがまま王子は」


「やかましい。しかし王子と呼ばれるのはやぶさかではない」


「おいおい……もう知らねえぞ! ……よし! わかった! 俺が夢ちゃん誘うぞ! いいのか! いいのかそれで!?」


「ああ、いいよ。もし夢の予定が空いてたら、お前が相手してやれ。無理目の相手が出来るならな。俺としても、夢が暇を持て余せるなら、別に構わない」


「おいおい……俺のクリスマスの予定を暇を持て余すレベルに落としてんじゃねえよ。マジで誘うからな!? いいのか!? 本当だぞ!?」


「ああ。誘えるなら誘ってみな。何なら連絡先教えてやろうか?」


「いいよ! 木葉ちゃんに聞くから! 本当お前、何なんだよ〜もうっ。悲しくなってくるぜ! 無理目にひたすら一途なお前はどこに行っちまったんだよ〜っ!……ひょっとして……お前……夢ちゃんとなかなか上手くいかねえからって、あっちに……2次元の方に……いっちまったんじゃねえだろうな?」


「ハズレてはいないが、2次元に熱いのは元々だ。俺はたまたまシフトが入ったクリスマスにただバイトするだけだ。頼むからそんなに騒ぐな。この愚民が」


「お〜いそこのサボってる奴ら〜っ。そろそろ店開けてくれ〜っ」


「はいっ!」



 俺は金田の追随から逃げるように優等生ばりの返事をして、店のシャッターを開けに行った。



「マジかよ……絶対夢ちゃんを誘うと思ったのにっ! 予定が変わったって木葉ちゃんに連絡しねえと……うん? ……待てよ? ……何なら俺はそのまま木葉ちゃんと2人きりでクリスマスデート……的な? ……いや、どうよこれ! アリなんじゃね!? イケんじゃね!? ひょっとして悟……お前、俺と木葉ちゃんのおせっかいな作戦に実は気付いてて、それを見越して逆に俺と木葉ちゃんを2人にしてくれようと……おい。マジか…。マジかよ、悟……。お前ってやつは! ……ちくしょ〜っ!! お前ってやつはよーっ!!」



「やかましいぞ! この愚民がっ!!」


 店長が何かキレてる。





 何だよ……俺も「その日」だけは休み入れたかったんだよ、ちくしょう……。店長にフラれただの何だの言われて逆にムキになったが素直に休みにしときゃよかった。別に理由は何とでもなっただろうし…くそ。……まあでも、実際に金田が夢を誘ってくれたら、きっと夢の事だ、木葉ちゃんも誘うだろうから(予定がなければ)、そうなったら3人一緒にいてくれた方が俺としても心配しなくていい。……もし木葉ちゃんが既に予定アリだったとしても、まあ金田なら、大丈夫だろう。色んな意味で……。

 という事で、金田くんよろしく。



 厨房に戻ろうとした所、レジカウンターで小銭を数えていた金田が、



「悟、色々とうるさく言って悪かったな。俺もちょっとしつこかったよ。まあお前と夢ちゃんの事だし、俺がどうこう言う事じゃねえしな。夢ちゃん誘うとか、うっとおしい事言って悪かったよ。まあバイトでも何でも頑張ってくれ」


「あ……お前は、その、夢を誘うんじゃないのか? そうじゃないのか?」


「いや、いい。悪い冗談だったよ。まあ、正直あの無理目な子とクリスマス……そんなたいそうな事が一瞬頭をよぎったが、今の俺にはさすがにハイクオリティ過ぎるから、もう少し下げた、しかしまだまだ俺にはレベルの高い、挑戦しがいのある子を誘ってみるよ」





 おいおい……初めは大して気にならなかったけど、金田とのやりとりで何かちょっと心配になってきた。




 夢……お前はクリスマス

 どうするつもりなんだ……!?




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