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60.miyuco姫


 仲良くクリームソーダを食べながら談笑する高橋ちゃんとその従姉妹であり、俺の妹(予定)である、桜川 美優 ー 確かに可愛いが、いや、ふっつ〜に可愛いお年頃の女の子なのだが、俺はこの子に対して何か、腑に落ちない感情を煩わせていた。


 以前に見た顔だったのだが、それは実は度々弁当を買いに来ていたのだという事がわかり、出会った時に感じた俺の既視感の謎は解けた。しかしそれとは別の、また違う種類の既視感のような、何とも言えない感覚が俺の頭の中でグルグルと回っていた。



「でね、さと寸さん、今度美優が実況してる所を生で観てみたいんだって。そういうのって、見せてあげられる?」


「いやぁ、それはちょっと……難しいかもしれないですね。撮る時は何て言うかこう…結構独特なテンションで、一人で気持ち切り替えて熱くなっちゃってるんで、なかなか人には見せられないというか……すいません」


「いえいえ、何か素人ながらどこまでがアレなのかわからないから、何となく聞いちゃったけど、そうだよね。ごめんね」



 ソーダ娘はストローを噛みながら、じっとこちらの顔を見ている。

 


 何か……ストローを咥えてじっと俺を見るこの表情…どっかで見た気がする。



「そう言えば美優も、自分でも美少女ゲームやってるんだよね? さと寸さんがやってきた美少女ゲームはほぼやってるんだって」


「ええっ? そうなの? 美優ちゃん?」


「うん……。一番好きなのは『ガーリュシュクロスファンタジー』、推しはランプリで、『あの日の現視研』と『ハミダシスターライトEx.』は同位、最近ハマってるのは『どこみて?ここみて?くるみちゃん』だけど、一番好きなのはヒルハ。さと寸さんの動画を観直してから『限界スプラッシュ』のDLCが気になってるけど、今両方やってる、でものんちゃんが出てこなくなったから、今は我慢してストーリー優先でまほリンにいってる……ます」



 急に覚醒したゴスロリ少女・美優は、かなりの早口でいくつかのゲームの感想と現プレのゲームを教えてくれた。



「そっか。なかなかにやってる感じだね。すごいね、高校生なのに。勉強もしながらだと、大変でしょ?」


「家では勉強しない。ゲームだけ……なの」



 あまりの早口と瞬時に沸騰したテンションから我に返ったのか、美少女プレイヤー美優はなるべく平静を装うように、ゆっくりと話した。




 わかる。わかるよ。その気持ち。




「そうなの?」


「うん……はい」


「美優はね、学校でしか勉強してないのに、学年4位のトップクラスなんだ。すごいでしょ? 私がやった訳じゃないけど」


「すごいっすね……」



 俺はさっきから感じている違和感を突き止めたくなったのか、この目の前のゴスロリ子に色々と質問してみたくなった。



「美優ちゃんは、どうして美少女ゲームが好きなの?」



 こんな質問、偏見と言えば偏見かも知れないが、元々美少女ゲームは2次元男子専門を発祥のことわりとし、今では2次元美少女達も市民権を得て久しいが、そもそも美少女ゲームは「エロ」の要素もあり、今の女子、しかもこんなお年頃の子が進んでやるゲームとは、いささか思えない。ゲームの特性上、年齢制限があり、未成年がプレイする場合は「その部分」がカットされているソフトがあるとしてもだ……いや、やはり偏見であり、失礼なのはわかっている。でもそれでも、俺はこの目の前にいる違和感バリバリ感じてしょうがない子ちゃんが気になって仕方がなかった。



 出会ってまだ小一時間も経っていないが、これまでの間、見た事のない真っ直ぐな瞳で俺を見つめ、先程とは打って変わった、凛々しい口調で話す。



「これが本当の私」と、言わんばかりに ー。



「世の男共が、汚れた獣だから。

 だから私は美少女をずっと探し続けてるの。 

 私が見てる世界は、美しさが全て、可愛いさが全てなの。そんな世界、2次の世界と美少女ゲームにしかないから」




 ……だな。そうだよな。


 わかる。わかるぞ。その気持ち。


 そうだよな。そうなんだよな。




 高橋ちゃんは可愛い過ぎる従姉妹に対して相変わらずそうかそうかとわかっているのかいないのか、大きな瞳を細めて相槌を打ちながら、可愛い従姉妹の頭を撫でている。




 この子……マジで妹にほしい。




「確かに美少女は、存在そのものが夢を与えてくれるよね。僕もそうだよ。でも僕は男だから、世の中の男は獣…って言われると少々いたたまれない気持ちになるけども、でも僕は僕なりに、美優ちゃんの言ってる事、わかるよ。本当に。……よかったよ。そんな想いを持ってる人が僕のチャンネルを観てくれて、本当に嬉しい。ありがとう」


「だから…だから、さと…寸さんの事、応援して…ます。いっか……あっ…いつかきっと、さと寸さんのルートに……乗り…たい。……はい」


「え〜っ!? 何よ美優、さと寸さんのルートって!? あなた本当にさと寸さんの『動画』が好きなんだねっ! ひなたお姉ちゃんは嬉しいよっ! 美優が好きな事に熱中してくれて! そんな一生懸命好きな事やってる美優はやっぱ好きだなっ」




 あれ ー? 待てよ ー?



 ……そうか。今のでわかった。

 俺の心のモヤモヤが取れた。


 わかった。


 この子は



 「miyuco姫」だ。



 美優ちゃんは、俺にバレてるって知ってるのか?

 知らないのか? 知らずにさっきの様な事を言ったのか? それとも ー。



 しかし、「美優」→「miyuco姫」。


 他人ならともかく、実際自分でコメントしたチャンネルの主に会い、さっき高橋ちゃんが言ってたエピソードや、美少女ゲームに対する考えを俺自身が聞いたら身バレすると思わなかったのか? ガバガバだろ〜っ!? こんなの、すぐわかっちゃうぞ! まだ年頃でああいった動画界隈の事について深い理解がなく、そこまで考えてなかったという事か? ましてや俺に会えるとも思っていなかったからか?



 とにかく、美優ちゃん自身が、俺にmiyuco姫である事がバレてると自覚してるのか、それともしてないのか。……俺は一体どう対処すればいいんだ?




 ……いやいや、落ち着け。




 普通は…普通なら当たり障りのない所で、俺の対処法は「知らんぷり」だろ?



 目の前の女の子がmiyuco姫本人とは知らずにいても、他にもコメントをくれている視聴者がいるゆえ、ピンポイントでmiyuco姫だなんてわからなくてもそれはそれで常識的にそんなに失礼な事ではない…だろう。いや、むしろ気付かないほうが普通だろう。


 なので俺は、うん。そうだ。「知らないフリ」でいよう。「優しい嘘」ってやつだ。

 うん。そのほうがいい。もし美優ちゃんが、「さと寸さんにバレた!? どうしよう!」となり、慌ててしまい、そのまま距離を取られてもう2度とこの可愛い妹(未だ暫定)に会えないのは、俺としてもやり切れない。それにそのほうが美優ちゃんにとっても今後、伸び伸びとお兄ちゃん(俺)に会いやすいだろう。


 


 うん。その選択で。



 

 じっとストローを咥えながら、やはり見覚えのある表情で俺を見る未来の妹は、ズズっとメロンソーダを飲み干し、



「じゃあ美優、そろそろアネキのとこ送ろっか? さと寸さん、今日は本当にありがとうございましたっ!」


「あ、はい! こちらこそ、美優ちゃんとお会い出来てよかったです! ありがとうございます」


「あ…あと。」


「うん? どうしたの? 美優」



 妹 (もうそうなってくれ)がスマホを取り出し、そっと俺の方に向ける。何だこのちっちゃくて可愛い手は。



「Lane…とか…。」


「あっ! ごめん、さと寸さんもしあれだったら ー」


「いえ、いいですよ。……今日はありがとうね。よろしくね」



お互いの連絡先を交換し、店の外に出る。



 高橋ちゃんと従姉妹の背中を見送りながら、また美優ちゃんに会えるかな、と思った矢先 ー。

 

 


 ピピン ー。



 Laneから通知が入る。



 おもむろにLaneを開く。

 ……うん? 何か今、差し出し人の名前が ー。



 「今日はありがとうございました。

  やっと、このルートに乗れました。

 これからもよろしくおねがいします。なり。」



 「美優ちゃんか…ルートって……はっ!」




 差し出し人 : miyuco



 美優ちゃんから届いたLaneのアカウント名を見て、俺はまたも美少女にやられた。




 「やっぱわかってたのかよ……もう、何なりよ。」



 


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