59.ファンミ
「あっ! こっちです! さと…楳野さ〜んっ!」
「あっ! はいっ」
ファミレスにて、奥の席から呼ばれる高橋ちゃんに気付き、俺は席に向かう。
「こんにちはっ。さと寸さん、今日はありがとう。はいっ、この子だよ? ほらっ。挨拶して?」
「は・初め……まして。桜川 美優です。…はい」
俺の前に座る高橋ちゃんの隣に座っているゴスロリ風の格好をした女の子はしどろもどろな感じで俺に挨拶をする。
「あ、初めまして。楳野…いや、さと寸でいいんでしたっけ?」
俺は何故か高橋ちゃんの方を向き、いい大人ながらも自分の自己紹介の仕方を仰いでしまう。
「どっちでも大丈夫だよ! ってか、ごめんね。話してるうちに、本名も言っちゃって…」
「いえ、大丈夫ですよ。高橋ち…高橋さんも好きに呼んでください。……え…と、改めて、楳野 悟です。よろしく」
「はい…っ。どうも、です」
もじもじとうつむきながら、おしっこを我慢しているのか? とでも言いたげな様子で照れながら挨拶をする。
何だ? このイジリ甲斐のある可愛い妹風ゴスロリキャラっ娘は……。
しかもこの娘、どこか見覚えがあるぞ……?
どこで会った?
「ごめんね〜急に会ってもらって。この子…美優もさと寸さんのチャンネルを観てて、私の知ってる人って伝えたら、是非一目会いたいって言ってね。まあさと寸さんは顔出ししてないから、大丈夫かなってちょっと心配したんだけど、無理してない? 大丈夫だったかな?」
「あ、顔出しはしてないですけど、別にNGっていうんじゃないんで、その辺は特にこだわりないというか、大丈夫です」
「よかった。ありがとう。よかったね、美優っ」
「う・うん……はい。」
先日、店に高橋ちゃんが来て、従姉妹が俺の動画のファンらしく、よければ一度会ってやってくれないかと相談にきた。警察服のままだったから、店内は少し騒然としていたが、俺としてはこの高橋ちゃんも俺の動画のファンとしていつも観てくれているので、こんなまだまだ前頭的な存在の俺としては、ファンの頼み事を断る術はない。理由もない。二つ返事で了承したところ、今回の運びになった。
「そういえば、美優もたまにさと寸さんのお店に行ってるんだよ? 見覚えあるかな?」
「えっ? そうなんですか? 確かに…見覚えのある感じがしました。いつもありがとうございます」
確かにたまに店に来る、チキン南蛮を注文するゴスロリ風な女の子が来ていた。……そうか、その子か。
ペコリと従姉妹の方へ頭を下げる。
じっと俺の顔を見ていたのか、目が合うなり、さっと下を向いて目を逸らした。そして顔が真っ赤だ。
……おいおい。マジかよ。
何だ、このテンプレ的な可愛さは。高橋ちゃん、こんなリーサルウエポンを隠し持っていたとは。
店で見た時は、ファッションの方ばかりに気を取られてたのか、ここまで可愛らしい印象はなかった。
クソ…俺の美少女スカウターは故障しているのか?
「美優はたまにうちに遊びにきてね、その時さと寸さんのお店に寄ってお弁当を買って私の帰りを待っててくれてるの。私が帰ったら部屋の掃除がしてあったり、洗い物やっておいてくれてたり、私としては可愛いだけで充分なのに、なかなかしっかりしてる子で、もうなんならずっとウチに住んでてほしいくらいっ」
高橋ちゃんはロリ子の頭飾りを上手くよけながら頭を撫でている。溺愛してるな。この人。
「ひなたお姉ちゃん、やめてよっ。だめっ」
ズッキューン!! だから何だよ!
慌てて両手で頭を覆いながらも、ちゃっかり年上の従姉妹にいじられるこの妹ロリッ子は!
お兄ちゃんはいるのか? リアルでいるのか?
いるなら今度、そのリアルお兄ちゃんを呼んできなさい。仲良くしたいから。
「うちに来たら一緒にさと寸さんの動画を観るんだけど、一通り観たはずなのに、また昔の動画とかを観返したりしてて、本当にファンなんだよ、美優は」
ニコニコと、そして自慢気に自分の従姉妹の事を話す。
「でね? この選択うらやましいな〜っあたしもそうしてほしいとか、こんなシチュなら絶対キスよね、さと寸さんは大胆だとか、アタシもこんなルートに乗っかりたいとか、しまいには声の調子がおかしいと思う、風邪かな? とか心配までしちゃって、大分アタシよりさと寸チャンネルにドップリで、美少女ゲームが好きなのかさと寸さんが好きなのか、聞いてるこっちがわからなくなるくらい ー」
「お姉ちゃんっ!」
ロリっ子ちゃんは高橋ちゃんのすそをちょいと掴み、恥ずかしいのか、これ以上はやめてと言わんばかりに顔を赤らめ、高橋ちゃんの顔を覗き込むように訴えている。
………こんな顔で覗き込まれてみろ。
大概の「妹」好きな2次元専門男子は落ちるぞ、確実に。保証する。
「いや、はは……。まあ、ありがたいです。一度観た動画をまた観てもらえるっていうのは、何か、嬉し過ぎます。ありがとう。……美優ちゃん、でいいかな?」
「は、はい……。です」
高橋ちゃんに向けていた表情から、さっと我にかえり、赤らめた顔のまま、こくりとうなずく美優ちゃん。
ああ……もうだめ。「すいません! この子テイクアウトで!」
「いいじゃん!? せっかく好きな実況者に会えたんだから、こういう時こそ、主さんにいかに自分がその動画を好きか伝えなきゃ! でしょ?」
「でも、お姉ちゃんは、何か…言う事が恥ずかしいよ〜っ。やめてよっ。」
もじもじと、体を左右にふりながら高橋ちゃんに食い下がっている。
おい……まだか! テイクアウトの準備は!!
「とにかく、僕も嬉しいです。高橋さんだけじゃなく、こうしてリアルに動画を観てくれる人に会えて。
…しかし、高橋さんもですが、こんな可愛らしい従姉妹さんがいて、うらやましい限りです(出来ればうちに妹としてきてくれ)」
「いやいやっ。さと寸さん、照れますよっ。美優はともかく、私までそんなそんなっ。まあ、でもありがとうございます」
「いえ、あまりこんな事言うのも何ですが、うちの店のバイトも言ってますって。警察署に出前行く時、いつもカウンターにいる方に癒されるって。僕もそうですよ。やっぱり警察署はちょっと怖いというか、たじろいでしまうというか」
「そんな嬉しい事言われちゃうと恥ずかしいな〜っ。
聞いた? 美優? 私もまだまだイケるって事よっ!」
「……ひと…一つだけ…」
「んっ?」
なんだ ー?
妹(暫定)は、いつの間にか下を向き、やはり顔を赤らめながら、何とか聞き取れるか細い声でつぶやいた。
「ルートは…一つだけ……なの…」
「どしたの? 美優?」
「ルートは……一個なの。
……沢山あったら他の子は悲しむの」
「なになに? ルート? ああ、ゲームの話し? それならわかるよ。そういえば確か、さと寸さんの動画、最近一人に絞ってあまり他の女の子へ変えたりしないよね? 私も聞きたかったんだけど、何かやり方変えたのかな?」
「えっ……ああ、はい。正直、色々と他の女の子も気にはなるんですが、もうちょっと一人の女の子を深掘りして、狙いを定めたほうが、観てくれてる側からも動画に没入しやすかなと思いまして。古参の方からしたら新鮮かも知れないし、新しい登録者もここのところ、恐らくそれがきっかけか……まあ、確証はないんですけど、増えていて、しばらくはそのスタンスでやって行こうと思ってます」
「うん。いいよね、最近のさと寸さんの動画。そう言われれば何か…うん、動画の一貫性? っていうのかな? 何かハマって観れてる気がする。……あっ、ごめんなさいっ! 何かエラそうな事言っちゃって」
「いえいえ、そんな。視聴者さんからの意見は本当にいつも大事ですし、マジで参考にさせていただいてるので、むしろ何でも言ってもらった方が助かります」
未来の妹は、いつの間にか我関せずといった面持ちでクリームソーダのアイスをいじくっている。
なんか……不思議な子だな。
しかし、さっきから何か…何かが引っかかる……何だろうか、この胸騒ぎは。




