58.私達に任せなさい
雪ヶ丘駅前のスタビで、窓際に座る美少女は相変わらずモデルのような外見でオシャレに佇んでいる。
道行く男共が窓際の美少女に気付き、チラチラと見惚れるも、本人は何ら気にする事なく外の景色を眺めている。
寒空の下、街は少しずつあのイベントの飾り付けを初めており、並ぶたくさんのお店もさりげなく、それにならうような飾り付けをし、店前にポップアップされている品々を変え、冬の装いをまとい初めていた。
美少女はほおづえをつき、自分の理想の彼氏とこの道を歩いている事を想像していた。
いつも候補はいる。寂しい時や心もとない時、自分の中のやり切れない空白の部分を一時的にでも埋める事が出来る、何人かの男の人は。でも、何か違う、自分が求めているのは、そんな持て余した心を一時的に埋めてくれる男性じゃない。
楽しさや駆け引きや、憧れとか、もちろんそれらは自分にとって切り捨てる事の出来ない恋愛の一部なのだが、全てではない。もっと確かな、お互いを心から必要とし、信頼し、お互いの人生を支え合っていけるような……。
いつの間にかあの2人を見ているうちに、自分の恋愛感について、何かしらの変化が生まれてきているのを感じていた。
アタシにも出来るのかな。そんな恋愛……。
「おっす! 木葉ちゃん!」
「……おっ? 来たきた。 こんちは。ごめんね? 急に誘っちゃって」
「えっ? なんでなんで? 木葉ちゃんからのお誘いならいつでもOKだよ!」
「あら。うれしいね。金田君と会うのは2回目だけど、何かそんな感じしないね」
「そりゃあ、まあ……あれじゃね? ずっと2人は離れてても、心で繋がってるからじゃね?」
「相変わらず言ってる事わかんないけど、まあいいや」
金田はウキウキで木葉ちゃんからのお誘いを2つ返事で受け、今日の待ち合わせに心躍らせやってきた。
「この前のディスティニー、楽しかったね! 初対面にも関わらず、何かあのメンバーは最高だったよね。楽しすぎた、色々と。っていうか、悟がいろいろ「持ってた」からかな? 何にしろ、またみんなで遊びに行きて〜な〜っ」
「うん。アタシも超〜楽しかった! またどっかみんなで行きたいね」
「だな。また考えようぜ。
ところで、今日はどうしたの? 誘ってくれたのは嬉しいけど、何かあった? 相談? デート? あっ……これ、デート?」
「絶対違うよね。今日はちょっとさ、金田くんに話したい事があってさ」
「ああ。アレか」
「うん」
先日のディスティニーでの夜のパレードイベント。
金田と木葉は示し合わせ、パレード直前、タイミングよく悟と夢から離れ、パレードの道から一段上の丘の方から2人を見ていた。
「実際上手く2人きりには出来たけど、あんな離れちゃって2人の事見えないかもって思ったけど、金田くんの持ってた双眼鏡のおかげで助かったね」
「ああ。みんなとの待ち合わせ場所に向かう時、何かピンと来てよ、時間ギリギリだったけど取りに帰ってよかったぜ」
「あの時2人さ、パレードの途中、見つめ合ってたんでしょ? あの時ってその…どんな雰囲気だった?」
(この前、夢に悟君から告白されたって聞いたけど、きっと悟君は金田君にはその事は話していないよね……)
「ああ、なんか見た感じは途中で、悟が夢ちゃんの方を向いたまま固まってたな。子ぶたのウィッキーを使ったとは言ってたけど、その時なのかはわからん。まぁ直接は聞いてないが」
「えっ? ウィッキーってあの子ぶたの? 告白にも使えるキーホルダーでしょ?」
「そうそう。まああれは運が良ければそういう風にも使えるってやつなんだが、実際、悟は告白自体はしてないって言ってた」
「そっか」
(じゃあやっぱりあの時2人は進展なく、後日悟君が夢に伝えたって事か)
「正直……俺はよ? 実は悟は夢ちゃんにフラれたんじゃねえかと思ってるんだ。あいつは夢ちゃんには告白してないって言ってたけど……それに俺は夢ちゃんから悟が好きっていう…何て言うの? オーラ? 雰囲気? そういうのあんま感じなかったんだよね」
「……あの子は色々とわかりにくい所もあるからね。正直、自分でも自分の感情をわかってない所もあるみたいな。……金田君は、悟君が夢の事好きっていつから知ってたの?」
「それはまあ、男の勘よ。バイトで幼馴染と再会して、その子が無理目の美少女で、これは運命なんだ! って息巻いて興奮してたからな。ああいうとこはわかりやすいよ、アイツ」
「そっか。元々金田君も知ってる人とか、友達の女性とかだったら、そう簡単には言えないもんね。遠すぎて、逆にバレバレだったんだ」
「そだな。木葉ちゃんはいつから夢ちゃんの悟に対する、何ていうか、俺はピンと来ないんだけど、悟を意識してるって気付いたの?」
「あの子、昔からモテる割にはあんま男の事、話さないんだよね。で、ある時夢の漫画の話しをしているうちに、幼馴染に再会したってのを知って、その時の夢の男に対する耐性のなさがモロに出ててね、これはひょっとしてひょっとしたら? って思って、その後悟君を紹介してもらって、その時の夢の態度や話す様子を見て、これは脈アリだなって。私が何とかしなきゃなって。まあほとんど私のお節介なんだけど、ずっと色恋沙汰のなかった大事な友達の恋路をサポートしたいなって」
「友達想いだな」
「うん、まあ私はそれなりにというか、自分で言うのも何だけど、男の人には良くも悪くも耐性あるほうだから、夢の場合は、まあ幼馴染とはいえ、なかなかはっきりしないだろうなって。それに悟君はいい人そうだけど不器用そうだし…私が2人の間を取り持ってやるかって」
「そだな。俺もまあ、2人がくっついてくれれば俺としても色々と助かるし…」
「えっ?」
「いや……何でもない…」
「……私はね、悟君をどうにかするより夢を、夢自身の気持ちをもっとハッキリと、あの子自身の、悟君に対する想いっていうのを、それを自覚しなきゃいけないんじゃないかって思ってるの。あの子今、なんだかんだ悟君を必要としてるし、何より夢のやりたい事に背中を押してる悟君の存在が、今、夢を支えているのは間違いないから」
「あいつにそんな事まで出来る、男前な一面あったんだ」
「そうよ。あんな真っ直ぐで不器用だけど、自分では気付いてんのかわかんないけど、ちゃ〜んと夢の事サポートしてあげてる。知らずに支えてる悟君、自分の気持ちがわかってない夢、そんな2人を見てて私、モヤモヤしちゃってるもん。早くくっつけよーっ! って」
「ああ。まあ、そうとなれば俺のキューピッド力も振るわしたくなるな。この前のディスティニーは、そこまで俺も感じなかったが…しかし俺のキューピッド力を持ってしても前回うまく行かなかったんなら、今回はリベンジだな……俺なりの勝手なケジメだが、こんな所でしくじってるようじゃ将来独立できん」
「うん? 言ってる事はわかんないけど、だから、もっかい2人で頑張ってみない?」
「おっけ。やろうぜ。で、どうする? 何かアイデアある? またどっかみんなで出掛けるか?」
「あるじゃないのっ……ふふん、金田くん。君は見逃しているね? とっておきのシチュがもう、すぐ目の前にある事をっ!」
「……あっ!」
「そ。クリスマス」