57.一途な想い
「だって悟のチャンネルって、あの、美少女のゲームをやってるチャンネルでしょ? アレに何? 私の絵を載せるって事でしょ?」
「そうそう。美少女ゲーム実況のチャンネルだから、今使ってるヘッダーは適当にフリー素材使ってて、アイコンも俺がスマホで指で描いたヘッポコなやつだからさ…もうちょっとこう、何ていうか、チャンネルを覗きにきた人が、おっ!? ってなるような、見た目的にも良い物にしたいなってさ……。俺が思うに、あのレベルの夢の絵がチャンネルデザインになってたら正直、箔もつくし、今一歩抜けたい素人感から脱せられるかなと思って……」
「何で私の一緒懸命描いた絵が、アナタのスケベなチャンネルの表紙? になるのよ。そんなのいや。誰か他の人に描いてもらったら? 私そんな暇じゃないし」
「いや、あの夢の絵のスタイルは俺のチャンネルのイメージにピッタリなんだよ! それに俺のチャンネルはスケベなチャンネルじゃねーぞっ! あと、もし俺のチャンネルがバズったらそれこそ夢にとってもチャンスだし」
「何がチャンスなの?」
「わっかんね〜かなーっ。俺の動画、チャンネルが有名になるって事はよ? つまり沢山の人が夢の絵を見るって事だよ。夢の絵が沢山の人に認知されれば、夢の活動ももっと多くの人に知ってもらえるだろ?」
「私は漫画家なのっ。絵を描く事自体好きだけど、私は漫画家になりたいんだし、仮に悟のチャンネルで何人かの人が私の絵を見てくれたとしても、私の漫画の活動とは関係なくない?」
「いや、今の世の流れを見よ。俺のチャンネルを覗きにきた人が、夢の絵に気付く →『なんだこのすごい絵は』 → 検索 →『ふむふむ。この人は漫画描いてんのか。読んでみよう』→ 爆売れ → はい、おけ。 っていう図式、わかんないかな〜っ」
「わかんないわよ。とにかく、今漫画も忙しいし、何より私自身、悟のチャンネルに1ミリも興味ないし。何描いていいかわかんない」
「そんな事言わずに頼むよ! いくつか美少女ゲームの資料送るから、そっから夢の思う、夢なりの美少女を描いてくれればいいから。だめ? 急ぎじゃない…って訳でもないけど、なるべく早く描いてくれたら助かるけど」
「聞いてないアンタのスケジュールの都合なんて伝えなくていいから! とにかく描きません。漫画が描き終わっても描きません。あしからず」
「え〜っ!? 待ってくれよ! あ! そだ! 条件付きで! ご飯か? ディスティニーか? それともデートか? 何だっていいぞ!」
「条件付いても描かないものは描かないって言ってるのっ! 特に最後の条件はもはや私にとってはただの罰ゲームよ!」
「じゃあ夢から条件を出してくれたら ー」
「しつこいのはモテないわよ。それでよく美少女ゲームが出来るわね」
「大きなお世話だっ! あっ……すいません夢様! 今のはナシで! そこを何とかお願いします!」
「チャンネルのデザインだか何だか知らないけど、そんなに有名になりたいなら自分で何とかしなさい。話しだけは聞いてあげたから、もうこれで充分でしょ? じゃあね。私これから用があるから」
「……わかったよ。グスンだぜ。ぴえんだぜ。勝手に期待した俺が悪かったよ。いきなりの面倒事、失礼しましたってさ」
「何よそれ…どの立場なのよ」
夢は全くもって幼馴染の頼み事を受け入れる様子もないまま、営業電話を切るかのような冷たさで電話を切った。
「あ〜っ! もうどうすっかな〜っ!」
……まいったぜ。まさかここまで夢が聞かん坊だとは。そして俺もこうまでして夢に描いて欲しかったなんてな…意地を張った夢はテコでも動かん。……しかし、気を遣うどころか、この前の告白の件が、まるでなかったかのような気がしてしまった。それはそれで逆に寂しい気もするが…。
しかし、俺は諦めんぞ…。
まるで幼馴染への嫌がらせのごとく、いくつかの美少女ゲームのキービジュアルを夢に送る。
いいぞ……うん。「よろ」と……はい、おっけ!
……ゆくゆく万が一、夢の気が変わったらいざ描く時、俺にあれこれ聞いてくるのは夢にとっても何となくしゃくだろう。なので今のうち、勢いで美少女達を送っておいた方がその気になった夢にとってもスムーズに事が運ぶはずだ。
それでももし、本当に描くのが嫌ならスルーするだろう。……後者な気がするが。
とにかく、あとは野となれ山となれ、だ。
人事を尽くして天命を待つ、だ。
俺は何故かまるで大きな事でも成し遂げたかのような達成感を味わい、スマホを閉じた。
……俺のチャンネルに夢のデザインが加われば……きっとこのチャンネルはもっとデカくなる! 何なら将来、俺が有名になった時に夢を宣伝したっていい…! これが俺に出来る、そう……あいつへの愛の形だ(今のところ)!
るんるんで素っぱだかになり、シャワーを浴びに風呂へ入る。
ピピン ー。
スマホの待ち受け画面にLaneの受信ヘッダーが表示される。
小山内 夢からのLane ー
「絶対、やりませんので」