56.俺はクリエイター 2
「う〜ん。最近なんか似たような言葉になってきたな……。とはいえ、引き際もわからなくなってきたし。この前なんて同じ視聴者に全く同じコメントを2回返した時は焦ったぜ…しかしそろそろ一人一人に返していくのも少々限界を感じてきたな……」
最近、チャンネル登録者が結構なペースで増えてきている為、週に2度、動画に寄せられた視聴者からのコメント返し作業にいそしんでいる。
よかったよというコメント、励ましや応援、同じ美少女ゲーム好きな人からのちょっとしたアドバイス、それらのコメントが登録者数が増えるたび更新されていく。
中には当然、冷やかしやアンチなコメントも入ってくるのだが、しかし当然それらも読んだ上であえてスルーし、建設的な、友好的なコメントにのみ、返信している。冷やかしやアンチはいつまでたっても、なくなる物ではないし、対応してもし切れないのだ。
他の実況者を見てみると、初めの方はやはり、丁寧にコメントを返していたが、チャンネルが大きくなるに連れて徐々にコメント返信の数が減っていき、いつの間にかその返信がなくって、コメントに対するお気に入りスタンプのみの返信になっている。
どの対応が正解かは難しいが、みんながみんな返信を待っている訳ではないとしても、せっかく入れてくれたコメントに対して、何かしらの対応はしていきたと思ってやってきたが、やはりある程度のコメントに対して、一人の人間が対応するとなるといささかマンネリ感を否めない。
最近はそのコメント返し作業だけで、一人一人、真摯に対応している故、ゆうに2時間近くの時間が掛かっている。ありがたい事はありがたいのだが、その内チャンネルがもっと大きくなっていったらさすがに全てに対応し切れない。
まあ、今はまだ何とかなる範囲だが、こういった事は慎重に判断し、対処していかないとな。コメントがあるという事自体、チャンネル存続にとって大きな意味がある。
しかし、沢山のコメントでも何とな〜くだが、新しくチャンネルを登録してくれた人と古参からの人等の区別がだんだんわかってくるようになり、その中でも最近コメントを入れてくれる、ちょっと気になる人がいる。恐らく、ここ最近からこのチャンネルを観てくれている人だと思うのだが、
「このビンタをくらった後のセリフの選択、最高です。きっとアタシもこう言ってほしい」
「アタシもやっぱり、この娘の気持ちと一緒。手を握るよりいきなりブチュってやってくれたほうが……」
「それでもアタシはさと寸さんのこの選択、受け入れられる。そうしてくれたらアタシも嬉しい。このルートに乗っかりたい」
「今回のさと寸さんの声、何か疲れてる。風邪ですか? ご自愛くださいませ」
少々、コアというより、親近感バリバリのコメントをくれているのは「miyuco姫」。
言葉遣いから察するにおそらく女性。美少女ゲームに関してどれ程の造詣があるのかは解りかねるが、恐らく同じく美少女ゲームを愛し、美少女探求に深い理解を持っている人だろう。
しかし、しかしよ? なんかこの人のコメントからは、ゲームに対するコメントはもちろんなのだが、俺自身に、何というか…グイグイ来ている気がする。
まあ、自意識過剰といえばそれまでで、ただこのチャンネルを好きでいてくれて、その主に共感を抱いてくれているのかも知れないが、何というか…まるでこのチャンネルの主の理解者とでも言おうか、俺をよく知り……というか知っているつもりでグイグイガンガン接してくる。
高橋ちゃんのアカウント名でもない。店長か? いやいや、あの人はこんなに美女ゲーが好きなスタンスでコメントはきっとしない。というか、アカウント名すら知らん。きっとコメントをくれた事もないだろう。金田や立山もそこまで俺の動画に対して普段から関心があるとも思えず……。俺の数少ない知人を推察しても、このコメントを入れてくる人物にまるで検討がつかない。
「ま、中にはこういう人もいるか。まあ、コメント入れてくれているだけありがたい」
俺はこれ以上詮索してもわからない事を考えるのをやめ、PCの電源を落とす。
椅子に座ったまま、グッとからだを伸ばし、ボケっとした、間抜けな顔で天井を眺める。
バイトと動画作成に明け暮れる日々。
先日の夢への7年越しの告白も、何か昔の事のように感じて、思い返しても落ち込む事はなくなってきた。きっと、確定的に、言葉でハッキリとフラれた訳じゃないからだろう。……超前向きと言えばそうなのかも知れないが、またそのうち夢と会うだろうし、この前の電話から2人の関係が全くもって終わったとも感じ難い。
「ああ〜っ……。この前の電話で夢に頼みたかった事、どうすっかなー。あの告白のせい(自分のせい)で、それどころじゃなかったし、しかもまた夢に会いたいという名目で思い付いたアイデアだが、やはり頼めるなら夢に頼みたい。でも正直、電話しずれ〜な〜っ」
俺は夢に、自分のチャンネルのヘッダー・バナー、チャンネルアイコンのデザインを描いてもらおうと我ながらナイスなアイデアを思い付いていた。
今のチャンネルデザインは素人感(考えによってはそれでもいいのだが)があり、自分としては少々ショボいかなと思っていて、このままチャンネルを大きくしていくにあたり心機一転、けっこうガチ目なデザインでチャンネルの印象を変えたいと思っていたのだ。
そのデザインを、あのプロレベルの画力を持つ夢に頼んでみたかったのだ。
以前、夢の漫画を読んだ時、こんな絵の美少女ゲームがあったら、きっと爆売れ間違いなしだろうな…なんて思っていたのだが、夢の描く美少女はまさに俺の理想とする美少女像のイメージにぴったりの美しさなのだ。まあ、何たって俺の憧れの美少女が描いているだけあって、そこはそうかも知れない。フフン。
なので、もし出来るなら夢に描いてもらいたい。今は本気でお願いしたいと思っている。
「……もっかい電話すっかな。どうすっかな。やっぱLaneで頼もうかな……いやいや、それならやっぱ直接電話で話したほうがいいよな。」
「う〜ん……」
俺は意を決して、夢に電話して頼んでみる事にする。何がどうあれ、俺は夢に描いて欲しいんだろ? それならそれで至ってシンプル、夢に話してみればいい。この前の告白のしこりも、ないと言えば嘘になるが、一旦気持ちをリセットする位のスタンスで、お互い、クリエイターとしての話しをすればいい。ただそれだけの事だ。恋愛とは関係ない。うん、だな。
よし、Let's 夢にTEL。
スマホを手にし、夢に電話を掛ける。
……いいか? さりげなく…さりげなくだ。
あくまで俺はクリエイターとして、夢に依頼するだけ。うん。そうだ。それだけの事だ。
いけっ!! 俺よっ!!
「……えっ? …やだ」
えっ? 何で何で……どして? 夢ちん……。