5.遅すぎたアオハル
俺は、夕暮れ時の秋波原を何処に行くでもなく歩きながら、先程の夢との7年振りの再会を思い出し一人浸っていた。
いつか、夢に会えたら言いたかった事、伝えたかった事、これまでの7年の間、俺の中で色んな想いが膨れ上がって、時にはもう諦めにも似たような感覚で一人敗北者よろしく、失恋ごっこなんかしてみたりして、本当に夢に会えるのだろうかと、孤独にも似た感覚で自分の人生を生きてきた。
それでも俺はずっと、どんな時も夢の事を想ってきた。
そして今日、その日がきた ー
夢に会えたのは本当に奇跡だ。
神様、ありがとう。
しかし ー
……何も話せなかった。
そう、話さなかったんじゃない。
話せなかったんだ。
お互いの現状、やりたい事、世間話しのような取るに足らない会話等、沢山話したにも関わらず俺は何一つ、伝えたい事は伝えられなかった。
(全然、思ってたのと違う ー こんなはずじゃなかった。やっと会えたのに、これじゃ何も……)
「何なんだよ。くそっ!」
さっきまで神様に感謝していたかと思いきや、これだ。本当に人間って私欲のかたまりだな。
自分に期待し過ぎたって事か…。
「……帰るか」
少し肌寒くなってきた10月の夕暮れ、うっかりするとすぐに冷えて風邪でも引きかねん。
「そろそろアップされる時間だな」
俺は昨日編集し終えた、新しい動画を今日の夕方にアップされるよう設定していた。
本当は編集が終わるとすぐにアップしたいのだか、出来上がった動画と完成した時の高揚したテンションを一晩寝かせてからアップするようにしている。
(いや、特に意味はないんだが…有名You Chuberがそう、言っていたので…)
「ああ、もっと伸ばして〜っ」
「何でこんな面白いのに、伸びないんだよ…」
動画作成者なら、誰でもぶち当たるであろう既存の〈壁〉とやらに直面し、答えの出しようのない問題に頭を抱える。
……いや、答えはあるんだ。成功した動画作成者は試行錯誤し、苦しんだその結果、ソレを掴んで登録者数が伸びたはず。レアもあるだろうが。
しかし、俺にはわからない。その答えが。
だから、今はただひたすら、自分の良いと思った動画を信じてアップするだけだ。
答えはなくとも、ただ黙々と信じてやり続ける事もあるだろう。そんな時は人生、きっとあるはずだ。
なんて、誰かの金言かのようなセリフを1人満足そうに噛み締め、俺は空を見上げる。
「ピピン」
ふいに、左ポケットに入っていたスマホが鳴る。
スマホを取り出し画面を見るか見ないかの、そのギリギリの瞬間、夢の顔が浮かんだ。
「あ、夢」
発信元は夢で、送られてきたのは画像だった。
どこか見覚えのある、色白で善人のかたまりのような、ほんわかしたこの顔は、晃弘だ。
続いて、
『写真、兄貴だよ ナツい?今日悟に会った事伝えたらメチャメチャ驚いてた 今度会ってくれるって言ったら喜んでたよ なのでよろしく ゆえによろしく』
また鳴った。
『あ、兄貴から会える日にちの候補日をいくつか送ってもらうから、そこから悟の都合の良い日を選んでもらっていい? よろ よろよろ』
……もう会うってのは確定なんだな。よし
俺はカタカタと今日のお礼(けっきょくポテトは俺が食べた。夢のおごりで)をさらっと送り、
『じゃあ夢の漫画、楽しみにしてる 晃弘君によろしく』
……すぐ既読になったが、その後何の返信もなかった。
いやいや、そんな期待してた訳じゃないけど。
……けど、何かこう、もっと…
青春したい。
(手遅れ…なのか?)