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48.記憶の欠片

「夢は、本当に可愛いよ。俺の大好きな人だ」



 俺は素直に、夢への気持ちを電話越しに伝えた。


 あの日、秋波原の公園でフラれたものの、俺からは、俺の口からは一切一言も、なにも夢には伝えていなかった。

 


 何も言わずにフラれる事なんてあるだろうか。


 いや、ない。


 それにあくまで公園で話した内容は夢の憶測だ。俺はまだ何も夢に伝えていない。何よりあんな形で俺の長年の片想いが終わるなんて事、それだけは許せなかった。

 確かに俺は夢の言葉に戸惑い、気持ちを封印しようとしたが、そんなやり方、やはりそれは自分自身に対してフェアじゃない。きっとゆくゆくは、そんな判断をし、夢に想いを伝えなかった自分が許せなくなるだろう。

 

 このまま気持ちを伝えずにずっとそばにいるなんて、やっぱりそんなのただの綺麗事だ。傷つくのが嫌で、夢から離れてしまうのが嫌なだけの、情けない俺の独りよがりの選択だ。



 距離が出来てしまおうがもう、どうでもいい。

 出来たら出来たでその時考える。



 今は何より、自分の気持ちを優先したい。



「えっ…」


「ずっと好きだったんだ、夢の事。ずっと……。

 でも夢に伝える事が出来なくて、7年振りにまた夢に会えた時から、ずっとその事ばかり考えてた。


 夢はこの前公園で、運命の再会とかそんなのわからないって言ってたけど、でも俺は信じてる。運命の再会ってやつを。夢をずっと好きで、いつかまた会えるって信じていたからこそ、またこうして夢に会えたと思ってる。夢がどう思おうが、それは俺自身が勝手に思ってる事だから、その事を押し付けるつもりはない。


 ただ、とにかく俺は夢、お前に自分の気持ちを伝えたかった。大分時間が掛かったけど、とにかく俺は真剣に、夢とこれからも一緒にいたいと思ってる」



 夢は、俺の想いを受け取るのか、もしくは拒否するのか。それはわからない。


 夢は俺の長年の、積雪のような想いを込めた告白をただ黙って聞いていた。



 2人の間に沈黙が流れる。



 不安と期待が入り混じるこの瞬間。

 今きっと夢は考えているんだろう。



 ただ、夢の答えがどうであろうと ー



「昔…よく公園で日が暮れるまで遊んでたよね。ブランコに乗りながら、その日にあった良いことも嫌なことも、全部悟に聞いてもらってた。

 お兄ちゃんとケンカした時、テストで100点取れた時、お母さんからもらった大事なブローチを無くした時、本当に色んな事を悟に話してたよね。私、いっつも悟に頼ってて、たまにケンカもしたけど、それでもそんな毎日が当たり前のように、いつも悟は私に起こった事をうんうんって聞いてくれてた。


 当たり前だった。悟がいる毎日が。ただそれが、好きという感情だったかはよくわからなかったけど、悟とは小さい時から一緒にいて、いつの間か悟は私にとって大切な存在になってた。


 5年生の春休み、悟に川に遊びに行きたいって、無理言って一緒に花を詰むのを手伝ってくれたの覚えてる? 詰んだ花をお母さんにプレゼントしたくてさ。その時、悟が気に入った花を一本、私の耳にかけてくれて、私のほっぺたを触って「お前は一番キレイだ。花もキレイだけど、お前が一番キレイだ」って言ってくれて。


 私、多分あの時は照れてたんだろうけど、その時どうしたらいいかわからなくて、詰んでた花を落として走って悟から逃げちゃったんだよね。でも悟は花を拾って追いかけてくれて、私の手を掴んで一緒に帰ってくれて。


 でも悟も恥ずかしかったのか、家まで送ってくれると私の顔も見ずに「じゃあなっ」ってカッコつけて帰っちゃって。そんな悟が子供心にも可愛いなって思ってさ。


 あの後、家に帰ったらお父さんとお母さんが大ゲンカしてて、お兄ちゃんと私それぞれ別々に引き取って離婚するかもってなっててさ。お父さんとお母さんのどっちかと離れなくちゃいけないなんて、そんなの理解出来なくて、私怖くて怖くてどうしようもなくて次の日、朝から家を飛び出したんだよね。

 

 そうしたらお父さんお母さんが探してくれて、離ればなれになるのをやめてくれるかもって。私が見つからなければどっちも私の事を引き取れないから、別れるのをやめてくれるかも知れないって。

 でも飛び出したっていっても、子供だったからどこに行ったらいいかわからなくて、結局ずっと公園にいたんだけどね…。


 でもあの時私はお父さん、お母さんよりも本当は悟に会いたかった。私、ずっと待ってたんだよ。悟を。

 とにかく、悟に会いたい、会いたいって。悟に見つけてほしくて。

 悟は今日も公園に来てくれる、そしたら悟にお父さんお母さんの事を話せば、きっと悟が何とかしてくれるって……」



 初めて聞かされた春休みに起こった夢の、俺の知る由もなかった過去の話を、俺は黙って聞いていた。


 

 いたが……その先は、俺もおそらくその「半分」は知っている……。




「でも……あの日悟は公園に来なかった。


 あの日だけじゃなくて、もう二度と来なかった」



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