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46.三人寄れば文殊の知恵



 草原の上に寝転びながら流れる雲を見送っていく。


 優しい風が2人の身体とそっと撫でていくように吹いていく。

 

 黄色い花が所々に咲いて、まるで俺達に微笑みかけているようだ。



 こんなにも、優しい世界があったなんて。



 どれ位の時間が経ったのか、ここが何処なのかもわからない。ただこの世界にはずっと前から2人しかいなかった。そんな気がする。



 ただただ、優しい時間が流れていく ー。



 握っていた手を離し、夢がこっちに身体を向ける。



「いつか…もし……うん。 ……わたしも。 

 ー だから。……きっとだよ。約束だよ?」


「うん。わかってるって。 約束な」


「あたし、まってるから。 大人になってもずっと… ずっとまってるから ー 」


 そう言って差し伸べてきた小さな手を、もう一度握ろとした瞬間、あたり一面が眩しく光り出し、フラッシュバックに体が包み込まれたと思った瞬間 ー 。




 俺の目にうすぼんやりと朝の光が差し込んでいた。

 



「ああ…。夢か……夢だけに」



 もう一度、瞼を閉じる。



「もうちょっと……続きがみたい」



 俺は今日が何曜日でいつなのか、思い出そうともせず、もう一度、あの2人の世界に行きたくて、眠りの世界に入っていく……。






「おっせ〜ぞ!! お前、何やってんだ!」


「すいません! すぐ入ります!」


「ったく、昨日のディスティニーで精魂尽き果てちまったんじゃねえのか? まさかあの後、夢ちゃんとお泊まりしたとか?」


「何言ってんだよ。あれからお前と一緒に帰ってきただろうが。無駄な推測はやめろ」


「いやいや、わかんねえじゃねえか。俺と木葉ちゃんの知らない所でどっかで逢引きしてたかも知れねえじゃん? 2人とも、そういう所はお互いシャイだろうからな」


「とにかく何もなかったし、あれからお前と帰ったっきりそのままだ」

 


 こともあろうか俺は寝坊し、ぐっすりスヤスヤ2度寝よろしく、気が付いて目が覚めた時は10時半を回っていた。


 遅刻だ。ああ、遅刻だ……。

 やってしまった。


 理由を聞かれても、ただの寝坊としか言えない。

 加えて「いやぁ、幼馴染とのいい感じの夢だったんで、いっかい起きたんすけど、もうちょっと見たくなっちやって」



 なんて、口が裂けても言えない。

 言えやしない。



 とにかく俺は昨日のあのディスティニーな世界の余韻に浸る間も無く、大急ぎで昼前の仕込みを初める。


 昨日休んだ事を気にしてるのか、金田が、



「店長、そう言えば昨日立山、どうでした? ちゃんと来ました?」


「あん? ああ…。何かぶつくさ言ってたぞ? あいつ、お前らがディスティニー行くって事、知らなかったみたいで、ずっと鶏肉切りながら殺す、殺すって独り言呟いてたぞ。ガハハ」


「いや、店長それ、言っちゃったんすか?」


「いや、何も黙っといてくれなんてお前ら2人に言われてなかったし俺に、あいつらディスティニー楽しんでるかな? って言われた時の立山の顔ったらなかったわ、マジでウケたわ」


「金田、お前立山には言ってなかったのか? 俺はてっきり ー」


「あいつには事後報告でいっか、と思ってたんだよ。お土産渡す時に一緒に……あっ!? 店長、まさか ー」


「おう、お前らプラス幼馴染の美少女とその友達だろ? …だから俺は立山も知ってるかと思ったんだって」


「……終わった。終わったな…俺ら。この唐揚げのハンパない仕込みの量の多さはヤツの仕業だ…何か怖くなってきた。次シフトで顔合わせるのが嫌すぎる」


「あ、そう言えば立山の土産は?買ったのか?」


「あっ! そだ! 店長、これお土産っす!」


「おっ? ありがとな。 ってか……おいおい、こんな可愛いスティッコのヘアバンドタオル、どうやって使えばいいんだよ? しかも耳まで付いてんぞ」


「まあまあ、髪伸びたら使うとか、女の子が部屋に遊びに来ていざ泊まるって時にさりげなく貸してあげるとか、まあ何かと重宝するかもしんねっすよ?」


「いや、重宝するかどうかは俺が決めるんだが……まあ、いいか。ありがとな。もらっとくわ」


「金田、だから立山の、立山の分は?」


「いや、あれからアイツの分は買ってねえ。もう、あれでいいかなって」


「ウィッキーか?」


「おう。お前、まだ持ってるか? ウィッキー」


「まあ、な。持ってきたぞ。これお前が買った物だし、いつまでも俺が持ってるのも何だしな。」


 

 まあ、あんなクリティカルを出してくれたこの子ブタを返すのは、正直、少し名残惜しい気はするが、そもそも俺の物ではない。それにこんなのに頼るようじゃ俺はまだまだ夢にふさわしくない……さらばっ! ありがとな! 短い間だったが、お前との時間…悪くなかったぜ! サンクス! ウィッキーっ!!



「ほら。ありがとよ」


「おっけ。これを渡すか」


「何だそれ? そんな可愛いブタさんが立山の土産か?」


「そうっス。でも使い方によってはなかなか優秀なんすよ? 何せ上手く使えば自分の変わりに意中の子に告白してくれるんすから」


「えっ!? なっ? マジか……!!」


「えっ?…えっ? 何で、そんな店長、食いついてんすか? まさか…? え? そうなんすか? いるんすか、店長?」



 キューピッド金田の目が光る。



「い・いや、そんなんじゃねえよ……ただまあ、その、何だ……ああ、このブタ、思ったより可愛いじゃねえか」


「なんか苦しいっすよ〜っ店長? なんなら、よかったらこっちを店長へのお土産にしますか? 今ならまだ立山への土産をそっちのスティッコに替えられますし」


「い・いや、いいって!? そんなんじゃねえって言ってんだろ!!」


「いいんすかぁ〜っ? まあ、ルーレット式、というかランダムに言葉を選んでセリフを言ってくれるんすけど、全部が告白の言葉じゃなかったりするんで、お礼伝えたり、ちょっと冗談言ったり、まああれっす。ランダムなんで、これを好きな子に使うのはある程度の運も必要かもですね。試しに今、話させてみます? 目の前に好きな女の子がいるっていう仮定で。

 このちょっと出っぱってる鼻の部分をカチっと押すんす。すると……」





 カチッ ー。「ブッ。僕のソーセージ、食べてみるかい?」

 



「……いや、やっぱ俺はいいわ。多分、立山もいらねえと思うぞ」




 立ち尽くす俺達に、店長は寂しそうな背中を向けて黙々と皿を洗い始めた。



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